表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

178/185

第143話:赤い少女、黒い影


■Scene1:クロエ館・中央舞台、沈黙の中で


深夜の旧劇場・クロエ館。

ロビーに落ちていた絵――キムチを手に微笑む“赤い少女”――その背景に描かれた“黒く塗り潰された人々”。


「……これ、何を意味してるの?」


凛奈が問いかけると同時に、背後で“ギィ……”と、音がした。


舞台の幕が、ゆっくりと、誰かの手で開けられる。

誰もいないはずの劇場。

しかし、そこには一人の人物が立っていた。


フードをかぶった、その男は、静かに言った。


「ようこそ。“君を描いたのは、僕”だよ」



■Scene2:名乗らぬ男、“Yeon-Z”を語る者


「あなたが……ヨンジー?」


「そう名乗っても、誰も証明はできない。

あの名前は“仮面”さ。誰でも、まとえる」


男の声は冷静で、だがどこか切実だった。

彼は凛奈を見つめながら、話し始めた。


「釜山には“見せることが許されない芸術”がある。

誰かの笑顔すら、誰かにとっては“攻撃”になるんだよ。

君があの役を演じれば、また誰かが――消される」


「……脅し?」


「警告だ。

今なら、やめられる。

まだ“君の中の正義”が、間違わないうちに」



■Scene3:凛奈の選択、「描かれる側」から「描く側」へ


沈黙。

そして凛奈は、わずかに口元を上げた。


「……残念だけど。私は、やめないよ」


男の目が鋭くなった。


「君には“表”の顔がある。女優、社長、探偵。

そのすべてが、釜山という“都市”では脆い。

“キムチだけでは救えない”世界に足を踏み入れたんだ」


「それでも、やるのが私」


凛奈はポケットから小さなキムチパックを取り出し、舞台上の床に静かに置いた。


「これはね、私の“名刺”なの。

誰が何を描こうと、私は、私の“線”で答える」


男は黙ったまま凛奈を見つめ――そして、舞台裏へと姿を消した。



■Scene4:朝の事務所、変わる風


翌朝。

凛奈は、何事もなかったように事務所で朝食をとっていた。


姉・信恵が新聞を読みながらつぶやく。


「ねえ、旧劇場の取り壊し、来週だって」


「え? じゃあ、もう入れないんだ」


「なんかあったの?」


凛奈は微笑み、食べかけのキムチを一口食べた。


「ううん、ちょっとした“舞台挨拶”にね」


ジウンがスケジュール表を広げる。


「ところで凛奈さん。ドラマ側から“脚本の修正相談”が入りました。“現場の安全確保のため”とか」


「やっぱり、誰かが本気だったんだな……」



■Scene5:画廊に届いた“最後の絵”


その頃。

西面の画廊“HAE STUDIO”に、一枚の新作が届いた。


タイトルは――『赤い少女、黒い影』

作家名はなく、ただ一点。


画面の右下に、小さく描かれていたのは――

キムチのパック。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ