第141話:釜山のざわめき
■Scene1:釜山・西面エリア、午後3時
釜山中心街、西面。
若者と観光客が交差する繁華街の一角。
その喧騒の中、凛奈はキャップを目深にかぶり、スタッフと共にドラマ撮影現場を見学していた。
「あのプロデューサー、頼んだらOKしてくれたの?」
姉・信恵に内緒で交渉していた“特別な見学”。
それは、次回作の主演候補として名前が挙がっている作品の現場だった。
スタッフがそっと話しかけてくる。
「朴凛奈さん。ちょっとこちらへ……。実は少し、相談があって」
凛奈は顔を上げた。
スタッフの声はわずかに緊張を含んでいた。
⸻
■Scene2:撮影現場、裏手のビル屋上
連れてこられたのは、撮影所の裏手にある雑居ビルの屋上。
風が強く、遠く海の匂いが混じっている。
「この撮影現場で……少し変なことが起きてまして」
スタッフが差し出したのは、白い封筒。中には一枚の紙。
“彼女はこの街で笑ってはいけない”
―それが『釜山の掟』だ。
手書きの筆跡は奇妙に整っており、裏には“第2通目”と書かれていた。
「……第2通目?」
「はい。実は第1通目は、主演女優の控室に。これは凛奈さん宛てなんです」
凛奈は思わず息をのむ。
(わたし……に?)
⸻
■Scene3:事務所、即席の分析会議
夕方、事務所に戻った凛奈はジウン、兄・テヒョン、姉・信恵とともに緊急の小会議を開いた。
「“釜山の掟”?なにそれ、都市伝説?」
「でも主演女優と凛奈に届いてるってことは……関係者内部の誰かか、熱心すぎるファンか」
「第1通と第2通。どちらも筆跡は同じです」
ジウンはすでに手書きメモの比較資料を作っていた。
「“笑ってはいけない”ってのが怖い。つまり、撮影現場が“監視されてる”ってこと?」
凛奈は腕を組み、少し考え込む。
「たぶん、これは“警告”じゃなくて“宣戦布告”だと思う。……誰かが、この作品か、私に敵意を持ってる」
⸻
■Scene4:夜の街、そして始まりの“音”
その夜、凛奈は単独で現場付近を歩いた。
キャップをかぶり、髪をまとめ、できるだけ目立たぬように。
大通りから一本裏に入った時だった。
背後から、かすかな音がした。
シャッ…… シャッ……
何かが風にすれて、道路に落ちた。
振り返ると――白い封筒。
中には、またも一枚の紙。
“君は知ってはいけない。釜山の**“裏”**を”
―ここは、キムチだけでは救えない。
凛奈は息をのんだ。
(……やっぱり、これは始まってる)




