第137話:駅の人質 ― 野辺山駅立て籠もり事件
■Scene1:高原の静寂に響く“銃声”
野辺山駅の朝。
清涼な高原の空気を感じながら、私は前夜の事件報告を整理していた。
その時、駅構内から乾いた破裂音が響いた――
「バンッ!!」
一瞬、音の正体を疑ったが、
続いてホームにいた人々の叫び声が、事態の深刻さを物語った。
「中に誰かが立て籠もってる!!」
「人が……中に人が閉じ込められてる!!」
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■Scene2:監視カメラに映った“男”
警察が駅を封鎖し、交渉班と突入班が配置される中、
私は野辺山署の内藤刑事と合流した。
「相手は20代後半の男。凶器はおそらく拳銃かモデルガン。
4名の人質を駅事務室に監禁してるようだ」
「要求は?」
「……今のところ不明だ。だが、この画像を見てくれ」
駅構内の監視カメラに映っていたのは、昨日カメラを奪おうとした**男の“兄”**だった。
内藤刑事「つまり……野辺山の一連の事件は兄弟で動いていたと?」
私は静かに頷いた。
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■Scene3:交渉と“もう一人の声”
スピーカーから男の怒声が響く。
「俺の弟を捕まえたやつ……そいつをここに連れて来い!!
さもなければ、女を一人ずつ――!」
「……彼は、弟の身代わりを求めてる。
そしてたぶん“証拠隠滅”の最後の手段を選ぼうとしてる」
私はリュックの中にあったキムチパックを取り出した。
凛音が持たせてくれた「野辺山特製キムチ」――今こそ、使うべき時。
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■Scene4:キムチの記憶が語った“過去”
ひとくち、口に含んだ瞬間。
広がる香りと共に、記憶が降り注ぐ――
・弟と兄は幼少期に家を失い、山のふもとで育った
・兄は“いつか立派な別荘を”という夢を弟に託した
・だが、金の魔力が2人を変えた
・兄は“証拠をすべて燃やす”ため、立て籠もりを決行した
そして兄がつぶやく。
「弟だけは、守りたかった……」
私はその気持ちが、事件を呼んだことを知った。
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■Scene5:真実と“引き金を引けなかった男”
交渉班の指示を受け、私は単独で駅の中へと向かった。
人質の1人が私を見て微かに頷く。
男は銃を向けていたが――
私の目を見て、少しずつ腕を下ろしていった。
「弟のこと、知ってます。
彼はまだ、あなたを兄として尊敬しています」
「……ウソだ。もう、誰も俺を信じちゃいない」
「でも――私が信じてます」
それだけを伝えると、男は銃を置き、両膝をついた。
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■Scene6:駅のホーム、再び列車が来る音
逮捕後、内藤刑事が私に声をかけた。
「おかげで、最悪の事態は免れたよ」
「でも、凛奈さん……これ、まだ終わってないぞ」
私は深く頷いた。
「ええ。次は、夜。駅の近くで……今度は“強盗”が起きる予感がします」
その言葉に、刑事は苦笑する。
「探偵ってのは……予知能力者か何かか?」
「キムチがそうさせるのよ」と私は微笑んだ。




