第131話:再始動 ― 秋田の殺意と親友の約束
お待たせしました。
――探偵業、ついに再始動。
女優としての道を選んだあの日から、もう2年。
過去の“探偵業”は、きっと誰かの記憶の片隅で静かに眠っているはずだった。
けれど、眠り続けるには──私の“記憶”が、あまりにも鮮明すぎた。
きっかけは、ふとした夜のSNS投稿。
たった一文の宣言が、日本中に再び“キムチ探偵”の名前を呼び戻すことになる。
そして訪れた秋田。
母校で教師が殺された事件の真相を追ってほしいという、ある小説家の依頼。
無実の生徒、沈黙する教師、隠された動機。
真実は雪の下に埋もれていた。
これは、朴凛奈──女優であり、探偵である私が、
再び“記憶の味”とともに歩き出す、再出発の物語。
雪が解けて春が訪れるように、
凍っていた真実も、きっと誰かの心に届くと信じて。
■Scene1:SNSでの“再会宣言”
夜の静けさの中、私はふとスマートフォンを手に取った。
寝る前に何となくタイムラインを眺めようと思っただけなのに、指は自然とメモアプリを開いていた。
心の奥で、ずっとくすぶっていた思い。
女優としての活動は順調だった。ドラマに舞台、映画、そしてバラエティ。
けれど、光の裏に影があるように、笑顔の奥に“あの感覚”が眠っていた。
——真実を、見つけ出したい。
——誰かの「困った」を、救いたい。
数年前、私が“キムチ探偵”として活動していた日々。
あのときの鼓動が、ふたたび胸を打ち始めていた。
「……よし」
私は迷わず、投稿ボタンを押した。
【ご報告】女優の朴凛奈からお知らせです。
本日より、兼業探偵としての活動も再開いたします。
必要としてくれる人のために、私にできることを。
#探偵業再開 #キムチ探偵復活
投稿した直後は、静かなものだった。
「誰も見てないかもね」なんて笑って、電気を消した。
けれど、翌朝。
スマホを開いた私は、目を疑った…
通知件数、999+。通知の嵐‼︎
コメント数、30万件超え。
トレンドには「#キムチ探偵復活」が世界2位に入っていた。
■Scene2:殺到するコメントと、親戚からの連絡
「凛奈さん、帰ってきてくれてありがとう!」
「ずっと待ってました!!」
「昔の事件、今でも鮮明に覚えてます!」
「本当に困ってるんです。相談できますか?」
「友人が行方不明で…どうか力を貸してください」
溢れるほどのコメントに混じって、DMや問い合わせメールも殺到していた。
中には、翻訳された韓国語や中国語、英語のメッセージまである。
まさかこんなにも多くの人が、私の復帰を歓迎してくれるとは思っていなかった。
だがその中で、ひときわ目に留まったのは、親戚・安川凛音からのメールだった。
「凛奈ちゃんへ‼︎ まずは活動再開、おめでとう。
実は、あなたに“最初に”相談したい人がいるの。
詳しくは、黄金さんの奥さん──彩香さんに連絡してみて」
■Scene3:彩香の紹介、そして秋田へ
黄金彩香。
元GRT48の0期生で、今は芸能プロ「龍雷神」を率いる黄金社長の奥様。
私にとっては、デビュー初期に世話になった”裏方の姉”のような存在だった。
電話越しの声は、あの頃と変わらず、明るく頼もしい。
「凛奈ちゃん、生駒麗奈って作家さん、知ってる? 今“小説家になろう”でも注目されてる人」
「彼女がね、母校で起きた殺人事件のことで悩んでて……」
「犯人は元生徒って言われてるけど、どうも納得してないみたいなの」
迷いはなかった。
私はその場で秋田行きの新幹線を予約した。
■Scene4:秋田での再会と事件の背景
到着した秋田駅には、薄紅色の和装に身を包んだ女性が静かに立っていた。
彼女こそ、今回の依頼人──小説家・生駒麗奈。
かつての芸能界の仲間であり、彩香の良きライバルでもあった人物だ。
「ようこそ、秋田へ。……そして、おかえりなさい」
その穏やかな笑顔の裏に、どこか切迫した緊張が滲んでいた。
事件の概要はこうだ:
• 被害者は秋田県立高校の国語教師・田ノ上貴志
• 生徒指導に厳しく、問題児をしばしば退学に追い込んでいた
• 被疑者は、過去に退学処分を受けた元生徒
• だが、その動機は曖昧。凶器にも指紋がなく、状況証拠ばかり
• 並行して、“学校ぐるみの隠蔽”を疑う声もあがっている
「私は、あの子が犯人だなんて思えない。……凛奈さん、どうか真実を暴いて」
その瞳に込められた強い想いが、私の胸を打った。
■Scene5:キムチで見た“もう一人”
学食の厨房で保管されていた、半端なキムチパック。
生徒が事件当日の昼食に食べていたものだという。
私はそれを、迷わず口にした。
そして次の瞬間、景色はゆっくりと変わっていく。
古い校舎の職員室。
田ノ上と、もう一人の男――理科教師・三谷が密かに会話していた。
「……このままじゃ、学校の名が汚れる」
「でも、それで生徒一人を退学させるなんて……」
「仕方ないんだよ。あの保護者との関係を暴かれたら、俺たちも終わる」
私の身体に、確信が走った。
(あの子は、無実だった……)
■Scene6:真実の告白と、探偵の覚醒
翌日、私は麗奈と共に三谷の自宅を訪れた。
証拠はない。だが、記憶の断片から導いた事実が、彼の心を突き動かす。
「田ノ上先生のやり方に、あなたも疑問を抱いていた。……でも、黙っていた」
「そして今も、生徒が犯人に仕立てられたまま、目を背けている」
三谷は、肩を震わせながら語った。
退学処分は、本来なされるべきではなかった。
田ノ上が横領まがいの不正を保護者に知られ、それを隠すために生徒に濡れ衣を着せた。
そして殺人事件の真犯人は、その保護者本人だった。
麗奈は、小さく嗚咽を漏らした。
「これで……ようやく、あの子も救われる」
■Scene7:再出発、雪解けの朝
報告を終えたあと、私は凛音と彩香にメッセージを送った。
「真実を届けたよ。ありがとう。私、もう迷わない」
キムチ探偵・朴凛奈。
再び歩き出したその足取りは、凛とした雪道のように確かなものだった。
探偵としての“勘”は、まだ眠ってなんかいない。
むしろ今、ようやく目を覚ました気がした。
次なる舞台は、星降る高原・野辺山。
そこでは、映画で注目されている“小さな探偵団”との出会いが、私を待っているらしい。
「行こう。星の下、真実の続きを――」
誰かのために。
そう思って踏み出した再始動の一歩が、
こうしてまた、真実を照らすことができた。
秋田での事件は、表向きには“元生徒による逆恨みの犯行”で片づけられていた。
けれどその裏には、大人たちの保身と沈黙、そして罪なき生徒の苦しみが隠されていた。
キムチに宿る“記憶”が映したのは、
ただの犯罪ではない、“人の弱さ”と“後悔”だった。
そして今回、私は改めて実感した。
探偵という存在は、過去を暴くためだけにあるんじゃない。
誰かの「間違いなかった」と思える未来を、
もう一度信じさせるためにあるんだと。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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これからも、
“キムチの記憶”とともに、私は真実を探し続けます。
次の物語は、星の下か、あるいは誰かの涙の先か──
どうぞ、これからも見届けてください。




