『まだ探偵には戻らない――女優として、世界へ』
■Scene1:日本各地での“声”
東京。名古屋。大阪。札幌――
私が女優として撮影やイベントのために訪れる先々で、
聞こえてくるのは決まって、あの言葉だった。
「凛奈ちゃん、探偵のお仕事は……まだお休み中?」
「またキムチ食べて、バシッと解決してほしいなあ!」
「犯人に一発逆転!みたいな凛奈ちゃん、また見たい!」
笑顔の中に、ほんの少しの期待と、
“まだ?”という寂しさが混じっている。
だけど――私は今、女優としての自分を大切にしていた。
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■Scene2:個別対応の限界と、ひとつの決断
もちろん、ひとりひとりに「ありがとう」って伝えたい。
だけど、日本中、いや――韓国でも街を歩けば同じだった。
「凛奈さん、ドラマ見ました! でもやっぱり探偵姿が好きです」
「キムチ、また食べてくださいよ!」
人は本当に温かい。
でも、さすがに全員に応えるには限界がある。
私はある夜、マネージャーに言った。
「……SNSに、私の今の気持ちを一度ちゃんと書いておこうかな」
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■Scene3:世界からのコメント
投稿から1時間もしないうちに、コメント欄はあふれた。
日本「また日本の事件、凛奈ちゃんにお願いしたい!」
韓国「韓国でもまたキムチ探偵やって!」
米国「Please come to the US! We love you, Detective Rin-na!!」
独逸「Deine Geschichten inspirieren mich. Bitte komm nach Berlin!」
仏蘭西「Tu es notre détective préférée. On t’attend à Paris.」
伊太利亜「Quando torni a risolvere misteri con il kimchi?」
日本や韓国を飛び越え、世界中から声が届いていた。
私は、スマホの画面を見ながらふっとつぶやいた。
「……海外も、悪くないかもね」
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■Scene4:SNSでの発信
私は深呼吸して、投稿画面に文字を打ち込む。
「皆さん、たくさんの温かいメッセージをありがとうございます。
今は探偵ではなく、女優として活動しています。
でも――その“想い”は、ちゃんと届いています。
また戻ってきます。
キムチを食べるその日まで。
どこかの国の、誰かの『助けて』が聞こえたら。
世界中どこにいても、私はきっとあなたのところへ」
送信ボタンを押した瞬間、
私は少しだけ、“探偵の自分”に近づいた気がした。
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■Scene5:静かな夜、遠くを見つめて
夜。ソウルのマンションのベランダから、私は星を見上げた。
「世界中に自分を知ってくれる人がいるなんて――
数年前の私からすれば、考えられなかったな」
“あの能力”はまだ眠ったまま。
それでも、人の心に残る存在でいたいと、そう思っていた。
母・梵夜はそんな私を見て、そっと紅茶を差し出す。
「世界が待ってるわよ、凛奈。
あなたが“動く時”を」
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■Scene6:未来に向けての“ひとこと”
翌朝。日本料理店のテラス席。
父・洋佑が笑いながら言った。
「また行くんだろ? 世界のどこかに」
私は笑って頷く。
「うん。でも――帰ってくる場所があるって、すごく安心する」
探偵じゃない今。
女優として、世界へ。
そしてきっとまた、キムチが“何か”を告げるその日まで。
私は進む。
少しずつ、ゆっくりと。
でも、迷わずに。




