『愛媛から、韓国へ――母と娘と“再会の旅”』 ■前編『再会の釜山で』
少女たちは旅立った。
母たちは見守った。
そして私は、また扉を開けることにした。
それは、涙で閉じたままになっていた記憶。
だけど今なら、もう一度笑って向き合える。
舞台は、韓国・釜山。
懐かしい人たちとの再会、そして思いもよらぬ出会い。
“キムチ探偵”の心が、再び少しずつ動き出す。
■Scene1:再び、この扉を叩いて
釜山・西面の一室。
探偵兼芸能事務所として借りていたオフィスに、静かなチャイムが響いたのは、ある春の朝。
扉を開けると、そこには懐かしい笑顔。
「こんにちは、凛奈ちゃん! 忘れてないわよね?」
結城綾香さん(大王製紙)がにこりと笑い、その横にはすっかり大人びた紗菜の姿。
「ひよりも来てるよ!」と手を振るのは倉科美智子さん (ユニ・チャーム)と、看護学生となったひより。
そして村上志津香さん(今治造船)と、翻訳家志望の舞衣が穏やかに微笑んだ。
「いらっしゃい。ようこそ、韓国へ」
言葉が喉の奥で震えた。涙をこらえながら、私は笑顔を返した。
■Scene2:2年の空白を埋める声
会議室のソファに腰掛け、久々の雑談タイム。
「紗菜さん、短大生活どう?」
「学食が美味しくて、ちょっとぽっちゃりしたかも(笑)」
「ひよりさんは?」
「看護実習の準備中!今日は偶然お休みだったんだ」
「舞衣さんは翻訳、どう?」
「難しいけど……韓国語の勉強がすっごく楽しくなってきた!」
話す瞳はどれも、自信と夢に満ちていた。
あの日の“少女たち”は、今や“未来を語る若者”へと成長していた。
■Scene3:母たちの“女子旅”
「男たちは全員お留守番よ」
美智子さんが声を弾ませる。
「“女同士で行ってこい”って背中を押されたの」
と綾香さんが続け、志津香さんはいたずらっぽく笑った。
「騒ぎすぎて怒られそうだけど、たまにはいいでしょ?」
女だけの旅。
気負いも遠慮もなく、ただ一緒にいる時間が心地よかった。
「今日は釜山を、女子旅全開で楽しもうか」
私は自然と笑みをこぼした。
■Scene4:母、登場――“あの女優”に再会!?
チャガルチ市場に向かう途中、合流してきた1台の車。
運転席にいたのは――私の母、梵夜。
「え……うそ……!?」
志津香さんの声が震える。
「あなたって……韓国ドラマに出てた“梵夜”さん!?」
「ええ、私が朴梵夜です。娘がいつもお世話になってます」
母の優雅な微笑みに、3人の母は硬直。娘たちも開いた口が塞がらない。
「ちょっと待って、凛奈ちゃん、何そのサラッと爆弾発言……!」
「梵夜さんが母親って、反則よ〜!」
車内が笑いで揺れながら、私たちは市場へと向かった。
■Scene5:チャガルチ市場と五六島
魚介の香ばしい匂いが漂うチャガルチ市場。
サザエの網焼きに舌鼓を打ち、スンドゥブチゲで汗をかき、カンジャンケジャンで手をべとべとにしながらも、誰もが笑顔だった。
「辛いけど、美味しい!」
「このカニ、最高!」
食後は梵夜の運転で五六島スカイウォークへ。
海にせり出したガラスの床に足を踏み出しながら、舞衣がつぶやいた。
「아주 멋진 곳이에요.(とても素敵な場所です)」
母が驚いた顔で微笑む。
「발음이 좋네요!(発音が綺麗ね!)」
皆が拍手を送る中、舞衣の頬が赤く染まった。
■Scene6:釜山の夜に、“家族”のように
夜。西面のホテルで、母娘たちと私で過ごす静かな時間。
「凛奈ちゃん、元気だった?」
「最近はキムチの力、使ってないの?」
私は小さくうなずく。
「……少し、お休みしてた。でもね、今日またちょっと思い出したの」
「人と話すって、キムチの味に似てるなって」
「辛いけど、温かい。時間をかけて、馴染んでいくもの」
「今はそれでいいと思えるの。もう一度、こうして会えたから」
ベランダから見える釜山の夜景が、私たちを優しく包み込んでいた。
笑顔で再会し、泣いて、笑って、また未来を語った。
愛媛から釜山へと繋がった絆は、もう“事件”の記憶ではなく、家族の物語だった。
時を重ね、旅を重ねて、
少女たちは女性へ、母たちは頼れる支えへ。
そして私は、再び“キムチ探偵”としての歩みを思い出す。
物語は終わらない。
再会は、新しい始まり。
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また、“キムチと記憶”の続きを追いに来てくださいね。




