表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

153/185

第1話『再会の街、松山で』


探偵として、女優として。

どれだけ日々が忙しくなっても、心のどこかで、私はずっと――“あの場所”に戻りたいと思っていた。


愛媛・松山。

かつて事件で出会い、絆を結んだ三組の母娘たち。

あのとき交わした「また会おうね」の約束を、ようやく果たす時が来た。


これは、過去の事件を越えて生まれた“家族のような関係”を描く、静かであたたかな再会の物語。

笑顔と成長と、ほんの少しの涙と。

忘れられない日々が、ここからまた始まる。


■Scene1:あの約束の地へ


青空に白い雲が浮かび、飛行機はゆっくりと愛媛・松山空港へと降下していく。

機内に流れる着陸のアナウンスを聞きながら、私は少しだけ目を閉じ、胸の奥を静かに整えた。


――1年ぶりの、この場所。


機体の扉が開くと、外の空気は暖かく、柔らかく、私を優しく迎えてくれた。


今回、私を迎えてくれるのは、かつて誘拐事件に巻き込まれた三組の母娘。

そして今では、遠い親戚のような――かけがえのない友人たち。

 •結城綾香(大王製紙)と娘・紗菜さな

 •倉科美智子 (ユニ・チャーム)と娘・ひより

 •村上志津香(今治造船)と娘・舞衣まい


彼女たちと交わした「また会おうね」という約束が、ようやく今日、果たされようとしている。


■Scene2:ホテルの再会と贈り物


松山市内のホテルに到着すると、ロビーにはスーツ姿の母たちと、制服を着た少女たちの姿があった。


「凛奈ちゃん、こっちー!」

「会いたかったのよ。やっと来てくれたのね」


目を輝かせて駆け寄ってくる紗菜、ひより、舞衣。

1年前より少し背が伸びて、表情もどこか大人びていて、確かに“少女”から“女性”へと歩み始めていた。


私は彼女たちに、韓国のお土産を手渡した。

韓国ブランドのリップティントに香水、そして特製のキムチ詰め合わせ。


「これ、母の分も一緒に選んだんだ」

「化粧品ってさ、香りが韓国っぽくてすごく可愛いの!」


プレゼントを受け取った少女たちは、まるで誕生日を迎えたかのように目を輝かせ、何度もありがとうと笑ってくれた。


そんな姿を見ながら、美智子さんがふと呟いた。


「この1年で、娘たち……すごく強くなった気がするのよ」


私は頷いた。

あの出来事を“ただの記憶”にせず、自分たちの力に変えている姿が、そこにはあった。


■Scene3:道後温泉の静けさ


午後はみんなで、道後温泉本館へ。

歴史の香る湯屋の空気は、どこか時間の流れがゆるやかだった。


木造の浴場、ほんのり香る檜の湯気。

足湯に浸かりながら、少女たちはリラックスした表情で笑い合っていた。


そのとき、ひよりがぽつりと聞いてきた。


「凛奈ちゃん、キムチの力って怖くない?」


私は少しだけ考えてから、静かに答えた。


「……うん。怖いときもあるよ。

でもね、それ以上に“誰かと繋がれる”ことの方が、私は嬉しいの」


ひよりは黙って頷いた。

その横で紗菜と舞衣が「それ、ちょっとカッコイイかも」と無邪気に笑った。


過去を“見る”力。

それは時に残酷だけれど、それを通して誰かを守れるなら――

私はその力と、これからも向き合っていきたいと思った。


三人の少女は、まるで本当の姉妹のように、肩を寄せ合っていた。


■Scene4:母たちの夜の語らい


夜。娘たちが部屋に戻ったあと、私たち大人だけの時間が始まった。


松山の街を見下ろすホテルのラウンジ。

グラスの中の赤ワインがゆっくりと揺れ、窓の向こうでは街の灯りが静かにきらめいていた。


「次は、私たちが凛奈ちゃんを守る番よ」


綾香さんがそう言ってグラスを掲げると、美智子さんと志津香さんも笑顔でそれに続いた。


「娘たち、今度は“韓国に行きたい”って言ってるの」

「凛奈ちゃんの家族にも会いたいって」


私はその言葉に、自然と頬が緩んだ。

あの事件を経て、それぞれの家族が一歩ずつ前に進んでいる。


事件で結ばれたのではなく――

事件を越えて、生まれた絆。


そう、今なら胸を張って言える。


■Scene5:それぞれの“未来”


翌朝。

チェックアウト前のロビーで、母たちと短いコーヒータイムを過ごす。


「美智子さん、大学の地域連携に関わってるんですって?」

「ええ。若い人たちに、もっと地元の良さを知ってほしくてね」


「舞衣ちゃん、“船を造る女の人”になりたいって言ってたよ」

「今治造船で職人さんの見学もして、もう夢中みたい」


「紗菜の進路、四国か韓国かで迷ってるんだけど……凛奈ちゃん、どう思う?」


私はコーヒーを一口飲んで、静かに笑った。


「どこを選んでも、大丈夫。

だって――あなたたちなら、“信じて進める”から」


そう答えながら、私は思っていた。

もしあの事件がなかったら、きっと彼女たちと出会うことはなかった。


けれど今は確かに――家族のような存在になっている。


■Scene6:明日へ、またね


ホテルの部屋に戻ると、窓の向こうには松山の夜景。

灯りがひとつひとつ瞬いていて、それが誰かの日常であることを想った。


私はスマホを取り出し、韓国にいる家族へメッセージを送った。


《いま愛媛。みんな、元気そうだよ。

また一緒に、会える日を楽しみにしてる》


そして、スーツケースの中にある小さなキムチ瓶に目をやり、

そっと、旅の終わりと次の始まりを感じた。


この旅は、まだ終わらない。

だけど今日は、笑顔で終われる。


「また、会おうね。みんなの未来で」


私はその言葉を、心の中でそっと呟いた。



事件がきっかけだった。

でも今では、そんな過去よりも――

今日交わした言葉や笑顔の方が、ずっとまぶしく思える。


母たちと娘たちは、それぞれの場所で、強く優しく未来へと進んでいた。

「もう大丈夫」「どこへでも行ける」――そう言える姿に、私も少しだけ勇気をもらえた気がする。


探偵は、人の記憶を辿る仕事かもしれない。

でも私は、こうして“未来に向かう誰か”を見つめていたい。


読んでくださって、本当にありがとうございます。


この物語が少しでも心に残ったなら、

ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


あなたの応援が、次の物語の光になります。

“キムチの記憶”とともに、またどこかでお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ