第128話:ペンギンが見た“沈黙の夜”──茨城・大洗“消えた飼育員と鍵の謎”
■Scene1:大洗の夜と、水族館の異変
茨城県・大洗町。
私は夕方の海を背にして、大洗の水族館「アクア・ミライ館」へ向かっていた。
深夜2時、施設から警備会社に通報が入った。
「飼育員がいない。鍵が内側から施錠。室内に不審な血痕あり」
通報者は、夜間巡回の警備員。
行方不明となったのは、飼育員・工藤悠太(くどう・ゆうた/27)。
ペンギンやアザラシ担当として親しまれた若手職員。
しかし、彼の部屋には、脱いだ制服と作業靴、そして――ペンギンが1羽。
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■Scene2:閉じた部屋と、唯一の証人
監視カメラには出入口の映像しかない。
工藤が入った記録はあるが、出た形跡はない。
室内のロックは中からしか開けられない特殊仕様。
「まるで、密室神隠しね……」
私は不思議な視線を感じ、
工藤が可愛がっていた1羽のペンギン「ユキ」をじっと見つめる。
その時――ふと、部屋の隅に転がった瓶の破片に目が止まる。
ラベルは、見慣れたハングル文字。
私はそっと瓶の残りのキムチを指先に取り、口に運んだ。
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■Scene3:キムチの記憶、“優しい夜”
キムチの記憶が見せたのは――
深夜の水族館内。工藤は1人、ユキと水槽を見つめていた。
「ごめんな、ユキ……最後の夜だ」
「俺、飼育の仕事……もう辞めるんだ。夢、追いかけてみようと思って」
そう。
工藤は、突然の退職を決め、誰にも言えないまま夜の館内に“さよなら”を伝えに来たのだった。
血痕と思われたものは、転倒時に切った指のかすり傷。
制服と靴は、彼なりの“脱皮”だったのだ。
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■Scene4:記憶の裏側と、閉ざされた扉の真実
ではなぜ、中から鍵が?
私の記憶の中で、工藤は裏口の鍵を開け、外から閉めたあと――
ユキの水槽前でそっとキムチの瓶を割った。
「キムチ。前にあの子がくれた韓国土産。
食べたら、勇気出るって言ってたな」
――彼は、私の昔の依頼人の知人だった。
思いがけない繋がりに、私は胸が熱くなった。
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■Scene5:朝の再会と、新たな出発
翌朝、工藤は近くの港で発見された。
少し驚いた顔をしていたが、私の姿に微笑んで言った。
「……やっぱり、来たんだね」
「ええ。あなたの“記憶”が、ユキと一緒に呼んでたのよ」
工藤は今後、韓国の自然保護団体で働く予定だという。
「やっと、自分のやりたいことに向き合えたんです」
ユキは今日も水槽で元気に泳いでいた。
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■Scene6:潮騒と、静かな別れ
私は大洗の海辺に立ち、ゆっくりとキムチ瓶の蓋を閉めた。
事件ではなかった。けれど――
「“本当の自分を生きる”って、案外勇気がいるんだよね」
潮風が、その言葉にそっと返事した気がした。
列車の時間が迫る。
次の舞台は――千葉県・東京ディズニーリゾート。
“夢の国”の中で、同じ時間にランドとシーで発見された遺体。
それは偶然か、それとも仕組まれた“完全犯罪”なのか――
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