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第126話:湯けむりの誘拐と“落ちた足袋”──群馬・草津温泉“宿の奥座敷から消えた少女”


■Scene1:霧の湯畑にて


群馬県・草津温泉。

白い湯けむりが立ち込める中、私は湯畑の前に立っていた。

古くから湯治場として知られる草津の名湯。

その近くにある創業150年の老舗旅館『和の宿・白雪楼』が今回の舞台だった。


事件は、昨夜発生。

宿泊していた夫婦の娘――**江藤美玖(えとう・みく/7歳)**が、

奥座敷で就寝中に突如として姿を消した。


鍵も閉まっており、窓も内側から閉じられていた。

だが、朝になって気づいた時には、美玖の姿はどこにもなかった――。



■Scene2:落ちていた足袋と、割れた瓶


私は部屋を訪れ、畳の匂いと共に残された“痕跡”を観察する。


その奥座敷には、

・敷かれた布団

・落ちたままの小さな足袋たび

・そして、襖の脇に――割れたキムチの瓶


「……これは、うちのものじゃないです。誰かが持ち込んだんです」


母親の江藤春菜(はるな/33)が困惑しながら言う。

瓶に書かれていたのは、釜山の市場の韓国語のラベル。


「……わざと、私に見せつけてきたのかもしれない」


私は瓶の破片を回収し、少し残ったキムチの一切れをそっと口に運んだ。



■Scene3:キムチの記憶、深夜2時の影


赤い刺激が舌を貫き、私は“事件の時間”へと跳んだ。


――深夜2時。


襖がわずかに開く。

黒い作務衣姿の何者かが、静かに室内に入る。

少女は寝ていた。だが、その腕に、すっと何かを注射し――

そのまま抱えられて連れ去られていく。


記憶の断片は、宿の裏手にある山側の小道へとつながっていた。

そして――

そこには、“ある女性の影”が、車に乗り込んでいた。



■Scene4:誘拐犯の目的と“あの部屋”


その女性の名は、若月冴子(わかつき・さえこ/38)。

かつて草津のこの旅館で働いていた仲居だった。

1年前、ある理由で辞めている。


理由は――“冤罪”。


彼女は、宿泊客の財布を盗んだとされ、解雇された。

しかし、真犯人は別の従業員で、冴子は泣き寝入りしていたという。


「“白雪楼”のやつらに、自分の“痛み”を思い知らせてやりたかったのかもね」


だが――その怒りの矛先に、なぜ“7歳の少女”を選んだのか?



■Scene5:もう一つの真実、少女の“声”


冴子の車は、町外れの旧別荘地で発見された。

その中で、無事に美玖ちゃんが保護された。


「こわくなかったよ。

でも、あのおばさん……なんか泣いてた」


少女の言葉に、私は確信した。


冴子は最後の最後で、“娘を持つ母”としての気持ちが勝った。

誘拐という罪の中で、彼女が本当に訴えたかったのは――


「誰にも信じてもらえない、自分の痛み」だった。



■Scene6:湯けむりに浮かぶ温もり


事件解決の報告後、私は湯畑のそばで静かにキムチ瓶を閉じた。

少女は家族と笑顔で帰っていく。

そして、冴子は警察の車内でそっと涙を流していた。


草津の夜、私はこう呟いた。


「過去の“熱”って、時に冷めないまま残る。

でも……誰かがそれを、包んでやらなきゃいけないんだよね」


私は再び鞄を肩にかけ、新幹線のチケットを見つめる。

次の目的地は――栃木・日光東照宮。

そこで待つのは、“時の針が動かない”もう一つの迷宮。



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