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第124話:まぐろ御殿と“港の女将失踪”──神奈川・三崎“家族が隠した真実”


■Scene1:まぐろの街で消えた女将


三浦半島の先端、三崎港。

私は朝の市場を歩いていた。

港のにおい。潮風。漁師の声。そして、マグロの大きな解体ショー。


今回訪ねたのは、地元で“まぐろ御殿”と呼ばれる老舗旅館、

『三崎屋』。

代々まぐろ問屋も営む、港町の名家だ。


しかしその旅館の**女将・柴崎律子(しばさき・りつこ/61)**が、昨晩から失踪していた。

娘婿である支配人・**柴崎雅弘(まさひろ/38)**は深刻な顔で私に言った。


「昨夜9時すぎ、“ちょっと散歩に行く”と出て……

それっきり、戻っていないんです」



■Scene2:帳簿と“借金の影”


私は律子の部屋を調べさせてもらった。

広縁に面した書斎の机には、旅館と問屋の過去10年分の帳簿が。


その中で、5年前に急激に支出が増えている年があった。

「この時……何かありましたか?」


雅弘はしばらく沈黙したのち、小さく頷いた。


「実は……その頃、家を出ていった人間がいまして。

律子さんの“実の息子”です」


彼の名は柴崎良太(しばさき・りょうた/現在43歳)。

家業を嫌い、東京で事業を始めたが、失敗し多額の借金を抱えた。

律子はその借金を肩代わりしたが、良太はその後消息を絶った。


「それ以来、律子さんはあの帳簿と向き合い続けてました。

あの子のせいで……と言うことは一度もなかったですけど」


そして昨夜、律子は1枚の紙を破り捨てたという目撃証言もあった。



■Scene3:キムチと、まぐろの記憶


私は、港にある小さな休憩所のベンチに座り、

鞄からキムチ瓶を取り出した。


「律子さん。あなたが本当に会いに行ったのは――」


ピリッと辛味の走る白菜の味とともに、

私は昨夜の彼女の視点へと“舞い戻った”。


律子は夜9時すぎ、三崎港の防波堤を歩いていた。

そして、海に向かって立っていた中年の男に声をかける。


「……やっと、会いに来てくれたの?」


それは――行方不明とされていた息子、良太だった。

彼は東京での生活を捨て、今は漁師として三崎に戻っていたのだ。


だが、母には名乗る勇気がなかった。

そして、律子もまた“いつか息子が戻る”ことを信じて

この港を見守っていたのだった。



■Scene4:息子との再会、そして“口を閉ざす母”


翌朝、防波堤の先にて。

律子さんは無事に保護された。


しかし彼女は口を開こうとしなかった。

「……ただ、海が見たかっただけです」

それ以上は一切、語ろうとしなかった。


私は、あのキムチの記憶を胸に抱きながら言った。


「……あのとき、お母さんが言った“やっと会いに来てくれた”って言葉、

 本当に伝わってたと思います」


すると彼女は、少しだけ目を潤ませて、こう答えた。


「……あの子の背中、昔よりずっと大きくなってた。

 それだけで、もういいのよ」



■Scene5:まぐろ御殿、家族の風景


数日後、旅館『三崎屋』では新しい板前が加わった。

それは――かつて家を出た息子・良太だった。


「料理はまだまだだけど、

漁に出るのと、魚をさばくのは得意でね」

と律子は少し照れくさそうに笑う。


旅館の厨房からは、活きの良いまぐろの刺身が並び始めた。

“もうひとつの家族”が、再び港に戻ってきた瞬間だった。



■Scene6:港を後に、次の波へ


私は、三崎港のバス停でキムチ瓶を鞄に戻す。

潮風の中、律子さんが最後に私に手を振ってくれた。


「次に来たときは、うちのまぐろ丼食べていって。

今度は……ちゃんと、親子三人で作るから」


私は小さくうなずいて、次の地、東京・新宿へ向かう。


だがそこには――

元教え子からの緊急メッセージが届いていた。


「先生……彼が“自分を殺したかもしれない”って言ってるんです」



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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