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第123話:無音のバイオリンと“黒い音符”──神奈川・横浜山手“音楽家殺害事件”


■Scene1:バイオリンが止まった街


横浜山手。

異国情緒とモダン建築が残るこの街で、私は久々に私服で歩いていた。


呼び出したのは――

神奈川県警・山手署の捜査一課主任、沖田涼(おきた・りょう/35)。

数年前に舵村大輔さん(富山県警本部長)を通じて知り合った人物だ。


「凛奈さん、来てくれて助かった。

実は……“音が消えた殺人”が起きたんだ」


事件現場は、山手本通り沿いにある洋館型の音楽サロン。

深夜、人気バイオリニストの**春原詩織(すのはら・しおり/29)**が

ピアノ演奏中に、首元を刺され死亡。


だが――事件の瞬間、周囲の人間が一様に語ったのは、


「なぜか音楽が、ふっと、全部消えた」


という不可解な証言だった。



■Scene2:音楽サロン“グレース館”の謎


被害者の詩織は、人気の若手バイオリニスト。

事件当夜は、非公開のプライベートサロン演奏会だった。


ゲストは6人。全員音楽関係者。

・ピアニスト(男・40代)

・作曲家(女・30代)

・指揮者(男・50代)

・元音大教授(女・60代)

・音楽ライター(女・20代)

・若手ヴァイオリン生徒(男・高校生)


演奏中、停電も音響トラブルもなかったにも関わらず、

「音楽が急に無音になった」と全員が証言。


詩織はバイオリンを弾いていたが、音が消え、

次の瞬間にはピアノのそばで倒れていた。


まるで、“音だけが殺された”ような奇妙な空白。



■Scene3:黒い音符と“隠された楽譜”


私は詩織の私物を確認していたところ、

古い五線譜と一緒に挟まれていたメモを見つけた。


「黒い音符。

その音を聴くには、耳ではなく心を使え」


さらに別の部屋に置かれていた、

詩織のバイオリンケースの裏から出てきたのは――


特殊な吸音装置の設計図。

微弱な音波を“局所的に消す”ための実験装置のメモが添えられていた。


「……音が消えたんじゃない。消されたんだ」



■Scene4:キムチで見えた“静寂の殺意”


私はサロン裏の控室に座り、鞄からキムチを取り出す。

赤唐辛子の刺激が、記憶の扉を開く。


――事件当夜。


詩織はある客のカバンの中に、“黒い装置”を仕込むのを見てしまった。

それは、音を“ミュート”する局所吸音機。

彼女は気づき、演奏中にその人物に視線を送り――

だがその瞬間、装置が作動し、

音が完全に吸収された空間の中で、犯人は詩織を刺した。


誰にも気づかれず、音も残らず。


そして――犯人は、“高校生の生徒”だった。



■Scene5:彼が殺した理由


「彼女は、僕の音を否定した……!

僕は彼女のようになりたかったのに……」


その高校生は、天才少年と呼ばれながらも、

詩織からレッスンを“突然打ち切られていた”。


「理由もなく、ただ拒絶されたと……思い込んでいたんだね」

私はそう呟いた。


だが真実は――

詩織は、**彼が“完璧を求めるあまり壊れかけていた”**ことに気づき、

あえて音楽から距離を取らせるため、指導を一時中止していた。


「あなたの才能は、“守るべきもの”だったのに」


少年は涙を流しながら、無音の中に沈んでいった。



■Scene6:音が戻った朝に


事件から3日後。

私は再び山手本通りを歩いていた。


あのサロンからは、新しい旋律が聞こえる。

詩織の元同門の仲間たちが、彼女を偲んで追悼演奏会を開いていた。


私は最後に立ち止まり、目を閉じる。

かすかに聞こえた一音に、ふと誰かの声が重なった。


「音は記憶になる。

記憶は、いつか救いになる」


私はキムチ瓶を鞄に戻し、次の地へと歩き出す。

舞台は、海とまぐろの港町・三崎へ。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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