第117話:光る川と消えたカメラ──千葉・松戸“矢切の渡し”心中未遂事件
■Scene1:川と桜の町、春の足音とともに
春が近づく千葉・松戸市。
江戸川沿いの“矢切の渡し”は、今もなお現役で手漕ぎの渡し船が残る観光名所だ。
私は地元放送局の「船旅特集」の収録で訪れていた。
川辺では穏やかな風が吹き、菜の花と桜が開花を始めていた。
だが、現場に急報が入る。
「若い男女が川に飛び込んだ」と。
命に別状はなかったが、意識を失って救助された2人は同じ高校の3年生。
岸には1台のカメラが残されていたはず――しかし、それが消えていた。
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■Scene2:失踪したカメラと“映された真実”
現場の写真と聞き込みから、確かに小型カメラがあったと証言が出ている。
しかし、救急搬送の後に警察が現場へ来たときには、すでに何者かによって持ち去られていた。
警察は心中未遂として処理を進めていたが、
私は“映像に何かが映っていた”と直感した。
近くの屋台のおばあさんが言った。
「若い子が川をじっと見つめててね……キムチ、ぽんと投げ込んでたのよ」
私はその言葉に反応した。
すぐにカバンの奥から小瓶を取り出す。
「映像の代わりに、時間を巻き戻させて」
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■Scene3:飛び込む前、2人の会話
キムチの味と共に、時間が戻る。
川辺に座る2人の高校生――市川拓真と田嶋理緒。
「本当にいいの?」「うん。これ以上、耐えられない」
彼らの会話は、心中を決意した恋人同士のものに聞こえた。
だが、理緒はカメラにこう言っていた。
「これは記録です。もし、私たちが死ななかったら“あの人”を告発してください」
彼女の表情には、怒りと恐怖が入り混じっていた。
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■Scene4:映像を奪った“あの人”
現在に戻った私は、2人の通う高校へと向かい、顧問教師・高原に接触する。
美術部の顧問で、2人の指導者だったという。
「2人は“過剰に敏感で”、学校でも浮いていた」と彼は語った。
だが、私は見抜いた。
彼こそが、“カメラを持ち去った人物”。
キムチで見た映像の最後の数秒、
そこには高原が駆け寄り、慌ててカメラをポケットにしまう姿が映っていたのだ。
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■Scene5:暴かれた権力と支配
高原は、部内で“理不尽な叱責”や“過剰な管理”を行っていた。
生徒の創作や自由な表現をすべて否定し、
「俺が与えたもの以外はゴミ」とまで言い放っていた。
2人はそれに耐えかね、SNSでも訴えようとしていた。
だが、証拠のカメラを巡っては彼に先手を打たれた。
「心中なんて……そんな風にするしか、訴える手段がなかったのね」
私は涙ぐむ理緒の母にそう語った。
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■Scene6:矢切の渡し、再び動き出す船
数日後、2人は無事に退院し、卒業式にも出席できることになった。
彼らの告発は教育委員会へと正式に届き、高原は停職処分となった。
春の風が江戸川を渡る。
私は一人、渡し船に揺られて対岸へ。
手帳に書いた。
『川は流れる。命も、真実も。止めようとする者は、いずれ沈む』
キムチ瓶は今日も、ただ静かに鞄の中にあった。
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