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第113話:潮風と鐘の町──茨城・大洗マリンタワーの消えた少年


■Scene1:大洗の海と“鳴らない鐘”


茨城県・大洗。海と観光の町。

私は観光PR番組の撮影で、大洗マリンタワーを訪れていた。

海の風、潮の匂い、そしてタワー展望室の“恋人の鐘”。


だが、その鐘がこの3日間、一度も鳴らされていないことに気づいた案内スタッフが言った。

「いつもは誰かしら鳴らしていくのに、不思議なんです」


そんな中、一人の母親が私に声をかけてきた。

「うちの子が……3日前から帰ってこないんです」


小学生の少年・新田祐介(にった ゆうすけ・11歳)。

最後に目撃されたのは――マリンタワーの前。



■Scene2:潮風と“少年の落とし物”


私は少年が消えた周辺を歩き、1つの手袋を見つけた。

それは子ども用で、親指に“Y.N.”の刺繍がある。祐介のものに違いなかった。


海の近くの砂浜には、波打ち際で途切れた小さな足跡。

警察は「事故の可能性も否定できない」と言うが……私は直感で違うと感じた。


“自ら姿を消した”のか、あるいは“誰かに連れていかれた”のか。

いずれにしても、祐介の心に何かが起きていた。


私は観光協会から預かった大洗名物の「しらすキムチ」を取り出した。

「……この味、私を導いて」



■Scene3:鐘の前の少年と“見知らぬ男”


キムチの味覚が時を巻き戻し、私は事件当日の風景を見る。

タワーの展望室、夕方。祐介が、ひとりで鐘の前に立っていた。


そこへ現れたのは、30代後半の男性。帽子を深くかぶり、彼に優しく語りかけていた。

「お母さん、怒ってる?」「だったら、しばらくこっちにいようか」


祐介は警戒しながらも、うなずいた。

男は、近くの旧民宿跡へ少年を連れていった。


私の心がざわついた。

“これは誘拐……いや、違う。祐介は――逃げたんだ”



■Scene4:廃民宿の“秘密基地”


翌朝、私は大洗磯前神社の裏にある旧民宿跡に足を運んだ。

観光地化されなかった側の小さな坂道を下った先――そこで私は見つけた。


廃墟の中に、小さな毛布、コンビニのゴミ袋、懐中電灯。

そして、少年の書いたと思しき手紙。


「ママ、ぼくを見て。ちゃんと話して。ぼく、ここでまってるから」


少年は“母の再婚相手からの無視や暴力”に耐えかね、姿を消したのだった。

男性は、町の元・児童支援員だった。祐介を一時的に守るつもりだったのだ。



■Scene5:鐘の音、少年の叫び


私は町中を探し、最後にマリンタワーの展望室に戻った。

祐介が再びそこに現れると読んだからだ。


彼は、静かに鐘の前に立っていた。

「本当は、あの鐘を鳴らしたかった。でも、ぼくが鳴らしたら、みんな気づくと思って……怖かった」


「じゃあ、今一緒に鳴らそう」

私は手を伸ばし、祐介と一緒に紐を引いた。


カァーン……

町に澄んだ音が響く。祐介の母がその音に気づいて、駆けつけた。

母は彼を強く抱きしめた。



■Scene6:潮の香りと未来の音


事件は事故でも誘拐でもなかった。

それでも、“心が迷った子ども”を放っておいてはいけない。

それが、今回の真実だった。


「鐘の音って、不思議だよね。何も言わなくても、誰かに届く」

私はメモ帳に書き記した。


『消えたのは、声。探したのは、つながり。』


私はまたキムチ瓶をしまう。

次は、あの県だ――千葉。海と風と、消えた記憶を巡る旅が待っている。



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