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第109話:鹿の静寂、刃の記憶──奈良東大寺殺人未遂事件


■Scene1:奈良の朝、鹿と寺と観光客


東大寺の境内。鹿せんべいを売る店先には、外国人観光客の笑顔があふれていた。

だがその平和は一瞬で破られた。


「財布が……誰か、あの人を止めて!」


外国人の男性が叫ぶ。その視線の先には、黒いフードの男。

私が駆け寄ろうとしたその時、背後から風を切る音――ナイフ。


私は咄嗟に身を引いたが、腕に痛みが走った。

「殺意…本気で刺してきた」


犯人は逃走。私は鞄のキムチ瓶を握りしめる。

「今度こそ、絶対に捕まえる」



■Scene2:興福寺の裏路地へ


キムチを口に含み、再び時間を遡る。

境内を歩く黒いフードの男。彼は東大寺と興福寺の間の裏路地で、ナイフを隠していた。


財布を盗んで逃げる、追いかける観光客を待ち伏せし――刺す。

「完全に計画犯ね」


私は興福寺の出口に先回りし、角を曲がったところで待ち構えた。



■Scene3:接触、そして逮捕


「こんにちは。どこに行くの?」

私の声に驚いた犯人はすぐに逃げようとするが、周囲は観光客であふれている。

私は躊躇なく足を引っかけ、彼を転ばせた。


その瞬間、近くにいた奈良県警が取り押さえる。


「君は……あの時の……」

警官が私の顔を見て言った。

「探偵さん、でしたよね?」

「今は女優。でも、キムチは手放してないの」



■Scene4:動機と共犯者


取り調べの中で、犯人が語ったのは、和歌山での事件の男との繋がりだった。

「彼と約束してたんだよ…“日本を汚してやろう”って」


「でも、観光地を狙うのは“人の思い出”を壊すってことなの。

 私は、それが一番嫌いなの」


犯人は静かにうなだれた。

事件は終わったが、彼らの心の闇は深かった。



■Scene5:鹿と、静寂と


東大寺の境内に戻ると、鹿が一頭、私のそばに寄ってきた。

手にあったせんべいを差し出すと、ゆっくりと食べ始めた。


「あなたたちの世界は、変わらないでね」


歴史と動物と人間の心が交差する、そんな場所で事件は起き、終わった。



■Scene6:再び旅へ


宿に戻った私は、キムチ瓶を布で丁寧に包み、手帳に今日の出来事を書き記した。

次のロケ地は、青森・弘前。

雪の館、密室、そして消えた文士――。


私は再び、過去へと向かう準備をする。



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