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第105話:眠る探偵、目覚めのキムチ


■Scene1:久しぶりの“緊急連絡”


昼下がりの釜山。私はソファで台本を読みながら、ドラマのセリフを口にしていた。

そのとき、事務所のインターホンが鳴る。


「……えっ?」


インターホン越しの声は、近所のカフェの店長からだった。


「すぐ来て! 路地裏で強盗事件が起きたの! 凛奈さん、お願い…!」


私は反射的に立ち上がった。探偵業は休止中のはずだったが、

“誰かの助けを求める声”には、どうしても抗えなかった。



■Scene2:現場と残された“ヒント”


カフェの裏手に回ると、道の真ん中にバッグが落ちていた。

被害者は若い女性。顔に怪我をしており、病院へ搬送されたとのこと。


目撃者の証言では――

「犯人は黒いキャップをかぶった男。韓国語が少し変だった…たぶん外国人?」


私は落ちていた“カフェの紙袋”を拾い、見つめる。


(この匂い……キムチの匂い?)


中には、ぐしゃぐしゃになったキムチ入りの容器が。



■Scene3:キムチの力、再び


「……私、まだ戻ってないのにね」


そうつぶやきながら、そのキムチをほんの一口――口に運んだ。


その瞬間、視界が白くなり、記憶が逆再生を始めた。


(このキムチ……まさか“犯人の落とし物”?)


記憶の中に映ったのは、紙袋を持ち逃げする犯人の後ろ姿。

その途中、彼は角でぶつかり――

バッグのファスナーが開き、キムチの容器が落ちていたのだった。



■Scene4:交番へ、そして決定的証拠


すぐに最寄りの交番へ赴き、

見た映像を元にスケッチし、地域の監視カメラを確認。


キャップの男は近くのゲストハウスに泊まっていた。


その日のうちに、釜山警察が男を確保。

なんと――日本から来た窃盗犯で、別件でも指名手配中だった。


「おかげで助かりました!」と感謝するカフェ店長。


私は複雑な思いでそれを聞いた。



■Scene5:ただの“女優”にはなりきれない


夜。事務所に戻った私は、父・洋佑に報告をしていた。


「……結局、またキムチの力を使っちゃった」


「お前はお前だ。

探偵を名乗らなくても、人助けは“お前の本質”なんじゃないか」


私は少し笑ってうなずいた。


「でも…今はまだ、半分だけ戻ったって感じかな」



■Scene6:“まだ”眠る探偵のままで


部屋に戻った私は、窓を開けた。


釜山の夜風がキムチの匂いとともに、ゆっくりと吹き込んできた。


(まだ完全には戻らない。だけど――)


探偵の本能だけは、もう目を覚ましていたのかもしれない。


私は、次にキムチを食べる“その時”まで――

女優としての生活に、もう少しだけ戻ることにした。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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