特別編『探偵はステージを降りて、そして微笑んだ』 ―休業宣言と未来への贈り物―
ご覧いただき、ありがとうございます。
今回は、朴凛奈が「探偵業を一時休業する」という決断を描いた静かな章です。
探偵として数々の事件を解決してきた彼女ですが、
今回は“人の心を演じる”ことだけに集中する日々を選びました。
けれど、出会った人々――かつて救った人、支えた人――
その誰もが、彼女の“過去の仕事”に今も感謝している。
どれだけ休んでも、誰かの人生に残った「真実」は消えない。
そんな静かな想いを、今回は日本の撮影現場と愛媛の街からお届けします。
それでは本編、どうぞ。
■Scene1 ソウルの朝、新聞の一面
「凛奈、これ……あんた本気なの?」
姉・信恵が新聞を見せてきた。
そこには大きな見出しで――
《キムチ探偵・凛奈 探偵業を一時休業へ》
「うん、ちゃんと自分で頼んだの。…今は、違う“舞台”に立ちたい」
凛奈は静かに答えた。探偵業の看板を一旦下ろすと決めたからには、迷いはなかった。
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■Scene2 キムチのない鞄と、走り出す女優業
撮影スタジオへ向かう途中、ふと鞄の中を開ける――
「やっぱり……今日は、キムチがない」
あの赤い瓶が一つも入っていないことで、凛奈は初めて“探偵じゃない日常”を実感した。
その日は日本の映画スタジオで、半日の撮影。
共演者のひとりに、懐かしい名前があった。
――一之瀬 湊。かつて凛奈がストーカー事件を解決した、高校教師の夫にして俳優。
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■Scene3 久々の再会、現場の空気
「お久しぶりです、凛奈さん。あの時は、本当に感謝してます」
湊の穏やかな微笑みに、凛奈も自然と笑顔を返した。
「お互い、本業が違っても、舞台で会えるのって面白いですね」
ふたりは高校教師役と女優役で再共演。
一線を越えることはなかったが、芝居を通じて“信頼”が確かに繋がった。
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■Scene4 再会の約束と、明後日の仕事
撮影後、控室で湊が言った。
「奥さんも、元気ですか?」
「ええ、最近は教育支援センターに戻って忙しくしてます」
そして凛奈は、湊に小さな手土産を渡す。
「また、いつか一緒に“真実”を演じましょうね」
翌日は移動日。2日後には、愛媛県でCM撮影が控えていた――。
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■Scene5 松山空港と懐かしき母たち
「凛奈さん、本当に来てくださったのね……!」
待っていたのは、誘拐事件でかつて深く関わった3人の母親たち――
・大王製紙の結城綾香
・ユニ・チャームの倉科美智子
・今治造船の村上志津香
今回のCMは、3社の共同プロジェクトによる“女性支援キャンペーン”の一環。
凛奈はそのイメージモデルとして抜擢された。
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■Scene6 言葉にならない再会の感謝
3人の母親たちは、今でもあの事件を“人生の節目”として語る。
「凛奈さんがいなかったら、私たちは子どもを失っていました」
それぞれに手渡された、凛奈からの贈り物――
韓国の別ブランドの化粧水とコスメセット。
「感謝の気持ちを込めて。以前とは違う、今の私からの贈り物です」
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■Scene7 探偵の帰還は、まだ遠くて近い
CM撮影は無事に終了。撮影後、凛奈は一人カフェに座っていた。
ふと、カバンを開けると――
「……また、入ってる。キムチの瓶」
誰かが入れたのか、無意識に自分で入れたのか。分からない。
でも、凛奈は少し微笑む。
「やっぱり私は、探偵を“完全にはやめられない”のかもね」
休業はしても、心は現場を忘れていない。
その小さな赤い瓶が、いつかまた、誰かの未来を照らすと信じて――。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は事件ではなく、“心の再会”を描いた物語でした。
探偵業を一時休業しても、
凛奈の存在は、誰かの人生に今も光を届けています。
愛媛の母親たちも、一之瀬 湊も、
彼女が過去に関わった人々は、それぞれの人生を歩んでいる。
そして凛奈自身も、「探偵をやめても、誰かの力になれる」と気づき始めました。
……けれど、キムチの瓶は、やっぱり手元から離れない。
完全に探偵をやめる日は、まだ遠いのかもしれません。
次回は再び、新たな依頼、新たな事件が待っています。
女優と探偵、二つの舞台で彼女はまた走り出します。
また次の舞台で、お会いしましょう。