第100話:そして、キムチは再び ―ソウル・休業探偵の目覚め―
はじめまして、あるいはいつも読んでくださっている皆さまへ。
『キムチ探偵』は、日本と韓国を舞台に、探偵であり女優でもある少女・朴凛奈が、“キムチの記憶”を手がかりに事件と人の想いを解き明かしていく物語です。
今回の舞台は、ソウル・清潭洞。
探偵業を「休業中」としていた凛奈が、“あるキムチ”をきっかけに再び事件へと巻き込まれていきます。
もし少しでも気になるところがあれば、評価やブックマーク・感想などで応援いただけたら嬉しいです。
凛奈と共に、物語の“真実”に触れていただけますように。
■Scene1 ソウル・清潭洞の朝
私は、凛奈。本職は探偵……でも今は、女優として舞台に立っている。
探偵業はあの九州縦断の旅を終えてから、いったん「休業中」ということにしていた。
いま私は、韓国・ソウルの清潭洞という街で、小劇場の主演舞台に出演中。
日々、稽古に励みながら、家族とともにこの地で暮らしている。
父と母、それから姉の信恵も一緒にいるおかげで、少しだけ心が穏やかだった。
そんなある日曜の朝、姉と市場で買い物をしていたときのこと。
帰り道、ふと鞄の中を覗いた私は、思わず足を止めた。
……見覚えのない白菜キムチの瓶が入っていたのだ。
■Scene2 凛奈、ふたたび“それ”を口にする
「おかしいな……こんなの、入れた覚えないんだけど」
不思議に思いながらも、家に戻ってそっとフタを開けた。
芳醇な唐辛子の香りと、ほんのりと酸味のある発酵の匂い。
懐かしい――そう感じた自分に驚きながら、私はほんのひと口、キムチを口に運んだ。
その瞬間。
視界に、赤い線が走った。
胸の奥が、ざわりと震える。
あの感覚――忘れるはずもない。探偵としての“覚醒”だ。
そしてその直後、稽古場となっている劇場で盗難事件が起きた。
主演俳優が身に着けていたはずの高価な時計が、忽然と姿を消したのだ。
私は……偶然では済まされないものを、また感じていた。
■Scene3 舞台裏のトリック
「犯人は、劇場の関係者の中にいる」
そう確信しながら、私はスタッフや共演者に話を聞いていった。
みんなそれぞれに“アリバイ”を主張していたが、キムチが教えてくれる違和感は、決して消えなかった。
舞台袖のカーテン裏。
そこにだけ、微かな“空気の乱れ”が残っていた。
調べていくうちに見えてきたのは、リハーサル中に照明担当が「5分間だけ席を外していた」事実。
そしてそのタイミングだけ、空調の風向きが不自然に切り替わっていたということ。
そのわずかな“ずれ”こそが、真相の鍵だった。
犯人は、裏方の一人。
主演俳優に強い嫉妬を抱き、密かにその時計を小道具ボックスの底へ隠していたのだ。
■Scene4 探偵、休業中の事件解決
事件が解決したあと、劇場の館長が私に向かってぽつりとつぶやいた。
「あなた……探偵はもう、辞めたんじゃないんですか?」
私は少し笑って答える。
「ええ、“休業中”です。でも……体が勝手に動いちゃったみたいで」
そう言いながら、私は例のキムチの瓶をそっと元に戻した。
ただ、それでも胸の奥がザワついていた。
探偵って、引退できるものじゃないのかもしれない。
そんな思いが、ふと心をよぎった。
■Scene5 家族と語る夜
その夜は、家族と一緒に夕飯を囲んだ。
父も母も、穏やかに笑っている。
姉の信恵は、おいしそうにキムチをつまみながら、ふと私に言った。
「ねえ、凛奈。あんた、やっぱり探偵に向いてるよ」
私は笑って返した。
「うん。でもね、女優の顔も、今はけっこう気に入ってるの」
2億円の小切手――九州銀行の頭取からの礼金。
それに、愛媛の三大企業からの謝礼金を合わせて、探偵事務所はきれいにリフォームした。
残ったお金は、ぜんぶ貯金してある。
未来の自分が、また“動く日”のために。
■Scene6 キムチの重みを知る
数日後、清潭洞の街角を一人で歩いていると、
見知らぬ少女が駆け寄ってきて、私に何かを差し出した。
「お姉さん……これ、落としましたよ」
それは――白菜キムチの瓶だった。
一瞬、言葉を失った。
これは偶然? それとも……呼ばれている?
「……また、始まるのかもしれない」
私は小さくつぶやいた。
探偵業を“再開する”とはまだ決めていない。
でも、わかっている。
キムチがある限り、事件はやってくる。
それは、もう逃れられない宿命のような気がした。
■Scene7 舞台の幕が上がる前に
舞台の開演5分前。私は主演女優として、楽屋の鏡の前に立っていた。
手元には、あの小さなキムチ瓶が、そっと置かれている。
「私の中には、もうひとつの“舞台”がある。
真実という、物語の幕……」
照明が灯り、カーテンが静かに開く。
“休業中”という仮面の下で――
キムチ探偵の鼓動が、ふたたび高鳴っていた。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。
今回の『ソウル編』は、探偵として“動かないと決めた”はずの凛奈が、
「それでも、体が勝手に動いてしまう」――そんな矛盾と向き合う物語でした。
事件があっても、キムチがなくても、彼女の中には「誰かの真実に触れたい」という想いが生き続けています。
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次回はどこで、誰と、どんな事件に出会うのか――
またぜひ、凛奈の旅にお付き合いください。
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それでは、また次の事件でお会いしましょう!