第99話:記憶の味、九州巡り ―涙も罪もない、ただの旅―
※今回のお話は、ちょっと特別です。
『キムチ探偵』シリーズを読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます。
今回は、いつものような事件や謎解きはありません。
舞台は、凛奈・さくら・夕姫の3人による“再訪の九州”。
かつて事件を追いながら駆け抜けた土地を、今度はただの旅人として歩きます。
ちゃんぽんにラーメン、湯豆腐にマンゴーソフト……美味しいものと温かな時間を詰め込んだ、
少しだけ切なくて、でも優しい旅の記録です。
事件がなくても、物語はちゃんと進んでいます。
凛奈たちの“今”を、ぜひ一緒に味わっていただけたら嬉しいです。
■Scene1 博多駅・再会の朝
「凛奈ちゃん、今日の目的は?」
さくらと夕姫がそう問いかけると、私は笑って答えた。
「事件も謎も、今日だけはナシ。九州で食べそびれたもの、行けなかった場所――今日はそれを全部、巡ろうよ」
“罪も涙もない、ただの旅”。
それは、私たち三人で歩く、もう一度の九州グルメ再訪の始まりだった。
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■Scene2 佐賀・嬉野の湯と湯豆腐
最初に立ち寄ったのは、佐賀・嬉野温泉。
湯豆腐は口に入れた瞬間、とろけるような食感。
お豆腐の白さと、お湯の透明感に、心まで洗われるようだった。
源泉かけ流しの露天風呂で体をほぐすと、さくらが湯けむりの中で声を弾ませる。
「ほら見て、肌つるっつる~!」
夕姫は湯上がりに湯豆腐を味わいながら、嬉野茶をゆっくりと口に含み、ぽつりとつぶやいた。
「これが、本当の癒し旅だね」
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■Scene3 大分・地獄と天国の味
次は大分・別府温泉。
名物の「地獄蒸し」は、温泉の蒸気で蒸した野菜や海鮮が、驚くほど甘くて優しい味。
素材のうまみがじんわり広がって、冷えた心にもしみ渡るようだった。
そのあとはくじゅう花公園へ。
満開のラベンダーが風に揺れ、私たちの頬を撫でていく。
「ここ、前は事件の場所だったけど……今日はただ、綺麗だね」
私はそう呟いて、空の青さを見上げた。
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■Scene4 宮崎・海とチキン南蛮の香り
宮崎では、延岡の《直ちゃん》で本場のチキン南蛮を味わう。
甘酢とタルタルの香りに、つい笑みがこぼれる。
高千穂峡ではボートに乗り、静かに流れる水面と切り立った崖の神話を堪能。
「マンゴーソフトも買ってこ!」
夕姫が手にしたソフトクリームを、私がひと口食べて笑った。
「これはもう、“兵器”レベルの甘さだね……」
ふたりの笑い声が、峡谷にやさしく響いていく。
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■Scene5 熊本・桜の城とラーメンの湯気
熊本では、まず熊本城の展望台から街を一望。
復旧が進む天守と、石垣の美しさに胸が熱くなる。
そのあと向かったのは、《黒亭ラーメン》。
焦がしにんにくの香りが立ちのぼり、食欲をかき立てる。
「この香りだけで、熊本のこと思い出すようになっちゃった」
さくらがそう言って笑う。
辛子蓮根、いきなり団子も味わい、城下町の石畳をゆっくりと歩く。
「事件抜きでも、こんなに楽しいんだね」
その言葉に、誰もが自然とうなずいた。
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■Scene6 長崎・愛とちゃんぽんとハートストーン
長崎では、再びグラバー園を訪れた。
ハートストーンの前で、私たちは手を繋いで立った。
「もう一度、この場所に来たかったんだ」
夕姫が小さく呟く。
「もう一度、ちゃんぽん食べたかった~!」
と笑うさくらに釣られて、私たちも笑った。
《四海樓》でちゃんぽんと皿うどんを囲み、しばし無言で味わう。
言葉がなくても、通じるものがある気がした。
その夜、稲佐山から見た夜景は、何度目でも美しくて――
誰もが、しばらく言葉を失っていた。
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■Scene7 鹿児島の海と空港での別れ
旅の終わりは、鹿児島。
桜島を望むテラスで、私たちはもう一度黒豚しゃぶしゃぶを楽しんだ。
湯気の向こうに見える海と空が、まるで私たちの旅を見守っているようだった。
空港での別れ。
「凛奈ちゃん、今度は“ただの休日”で遊びに来てね」
「うん、約束する。……ありがとう、ふたりとも」
笑顔で別れを交わし、私は韓国行きの便へと乗り込んだ。
背中越しに、二人がそっと手を振ってくれているのがわかる。
鞄の中には、小さなキムチの瓶が、カタリと音を立てていた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
今回は、キムチ探偵らしからぬ(?)事件のない「ただの旅」編。
でも、凛奈にとっては、それこそが“忘れてはならない大切な時間”だったのかもしれません。
思い出とごはんと、静かな幸せ。
そして、少しだけ残る、再会の余韻。
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