第98話:琉球の月と泡盛の涙 ―沖縄・首里城と夢見た未来―
※本作は『キムチ探偵』の九州・沖縄編の“完結編”となるお話です。
沖縄・首里城を舞台に描かれるのは、夢を追う者の強さと、残された想いの尊さ。
いつもは事件とグルメを巡る凛奈たちの旅ですが、今回はひとつの“節目”となるような、静かな物語になっています。
最後の事件、そして“最後じゃない旅”へ。
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それではどうぞ、沖縄の風とともに――。
■Scene1 那覇空港・南風とともに
那覇空港に降り立った瞬間、私たちの肌を撫でたのは、どこか懐かしい甘い潮風だった。
空と海の境界がにじむような、ゆったりとした時間が流れている。
「ここまで来たんだね、凛奈ちゃん」
夕姫が、優しく微笑む。
「うん。九州の果て……いや、日本の南の果て」
私は目を細めて、遠くの空を見つめた。
まず向かったのは、再建の進む首里城跡。
かつて火災で失われた赤い御殿は、いまも足場に囲まれ、再びの“夢”に向かって息を吹き返そうとしていた。
そのときだった。
石垣の一角で――若い男性の遺体が発見されたという通報が、私たちの元に届いた。
■Scene2 首里の石に眠る“夢”
遺体で発見されたのは、20代後半の青年。
沖縄の大学院に通いながら、首里城の再建プロジェクトに関わっていたという。
彼のそばには、小さな泡盛の瓶と一通の手紙。
「夢は、いつかきっと再び立ち上がる」
キムチを口にした私は、あの“赤い閃光”と共に視界に走るビジョンを見る。
火と月が交錯する、首里の夜。
「これは……事故なんかじゃない。誰かが彼の“夢”を壊そうとした」
そう確信するには、十分なものだった。
■Scene3 泡盛と不正と裏切り
ポケットに残されたUSBと帳簿のコピー。
そこには、泡盛の老舗が関わる再建基金の不正使用、そして資金の横領の痕跡が残されていた。
浮かび上がったのは、建設コンサル会社に勤める男・中津留(45)。
資金を横領していた張本人だった。
けれど――彼は“犯人”ではなかった。
青年は内部告発の準備を進めていた。
真実を明かす直前、何者かに突き落とされ、石垣に頭を打ち、帰らぬ人となったのだ。
■Scene4 “夢を追いかけた二人”の真実
夕姫が、偶然出会った女性――仲宗根紗季(23)。
青年のかつての恋人であり、同じ夢を追った仲間でもあった。
「彼はね、首里城の再建に命を懸けてた。
なのに……信じてた仲間に裏切られて……」
悲しみを押し殺すように語る彼女の言葉は、まっすぐだった。
真犯人は、再建プロジェクトの責任者であり、大学教授でもあった男。
自らの名声と地位を守るために、真実を消し去ろうとした――その手で。
■Scene5 石畳とシークヮーサーの夕暮れ
事件のすべてが明らかになったあと、私たちは那覇の街を歩いた。
国際通りでは、ゴーヤチャンプルーやラフテーを味わい、
《首里ほりかわ》では、沖縄そばとじゅーしーの優しい味に癒された。
泡盛の一献で乾杯し、最後は紅芋タルトとサーターアンダギーで締めくくる。
夕暮れの石畳。
さくらがふと空を見上げながらつぶやく。
「夢ってさ、誰かに壊されても……また、誰かが拾ってくれるものなのかもね」
■Scene6 月夜と遺志を継ぐ言葉
事件の調査中、青年が送ろうとしていた未送信メールが見つかった。
《この城が再び立ったとき、君にまた笑って会いたい》
凛奈は月を見上げ、静かに言葉を落とす。
「炎に焼かれても、夢は消えない。
人の心の中にある限り、何度でも立ち上がる」
夜風に溶けた泡盛の香りが、彼の想いを空へ運んでいくようだった。
■Scene7 “旅の終わり”と“始まり”の狭間で
すべてを終えた私たちは、沖縄の浜辺で静かな時間を過ごしていた。
「九州の影と光、全部見てきたんだね……」
夕姫がポツリとつぶやく。
「でもね、あと一つだけ、やりたいことがあるの」
凛奈がそっと言った。
「それが終わったら、探偵の仕事……少しだけ、休もうかな」
さくらがそっと微笑む。
「うん、最後の旅。行こう、みんなで」
事件のない、誰も泣かない旅。
九州でも、キムチでもない――ただ、笑顔のための物語が、もうすぐ始まろうとしていた。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
今回の沖縄編では、燃えてしまった首里城、夢を託した若者、そして夢を守れなかった大人たち――
さまざまな想いが交差する、静かで熱い物語を描きました。
凛奈たちの旅はこれで一区切りを迎えますが、「探偵」としての彼女の物語は、まだどこかで続いていくはずです。
少しでも心に残るものがありましたら、ぜひ評価・感想・レビューなど、何かひとつでも応援のしるしを残していただけたら嬉しいです。
次は“事件のない旅”で、また皆さんとお会いできますように。
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