第96話:太陽の祈りは赦しとともに熟していくマンゴーの約束 ―宮崎・鵜戸神宮と断崖の男―
※本作はキムチ探偵・宮崎編。
神話と祈りが息づく土地で、“罪”と“赦し”をテーマにした物語を描きました。
食と歴史と人の想いが交差する九州編もいよいよ終盤。
事件の謎を追いながら、心を少しだけあたためるような物語になっていれば幸いです。
凛音たちと一緒に、旅と祈りの記憶を辿っていただけたら嬉しいです。
■Scene1 宮崎空港・青い海と太陽の歓迎
「海の匂いがする……なんだか、済州島に似てる」
そうつぶやいた凛音と私は、さくら、夕姫と共に南国・宮崎へと降り立った。
空は高く、太陽は眩しく、潮風が肌をやさしく撫でてくる。
最初に向かったのは、青島神社。
“鬼の洗濯板”と呼ばれる奇岩に囲まれた参道は、まるで海に浮かぶ祈りの道だった。
幻想的な風景に見惚れたあと、私たちは鵜戸神宮へ――。
そしてそこで、事件は起きた。
断崖下の岩場。潮風に打たれるようにして、ひとりの男性が倒れていたのだ。
■Scene2 断崖の上の男と祈りの石
倒れていたのは観光客の会社員・岩村弘樹(32)。
背中には打撲の痕、意識はなく、周囲には“運玉”が不自然に散らばっていた。
凛音が白菜キムチを口にすると、視界に浮かんだのは――
逆さ岩の裏に、赤く染まった“手形”。
「ここで、誰かが……突き落とされた」
岩村は恋人と共に旅行中だったが、彼女の姿はどこにもなかった。
■Scene3 高千穂峡・消えた女性の謎
高千穂峡のボート乗り場を訪れた私たちは、「一人で帰っていった女性がいた」という証言を得る。
さらに見つかったのは、岩村の恋人――佐藤梨紗の手帳。
そこには、震える文字でこう書かれていた。
「すべての嘘を終わらせる」
彼女は岩村の“婚約者”であり、かつて彼が起こした横領事件の隠蔽に加担していた元部下だった。
この旅は、“けじめ”の旅だったのだ。
■Scene4 延岡チキン南蛮と謎のUSB
延岡の《直ちゃん》で名物のチキン南蛮を味わいながら、私たちはひと息ついていた。
そのとき、夕姫が偶然拾った白いUSBメモリ。
中には、岩村本人の“謝罪の動画”と、過去の横領の証拠データが残されていた。
「彼は……彼女に真実を渡して、最後に“祈る”ために、鵜戸神宮を訪れたんだ」
キムチの力が示した次の場所――それは、陽の光に照らされるマンゴー畑だった。
■Scene5 日南市のマンゴー園での再会
日南市のマンゴー農園で、私たちは佐藤梨紗を見つけた。
彼女は泣きながら語った。
「彼……“これ食べて元気出せ”って、マンゴーを渡してくれたの。
最後まで私を責めずに、笑って……」
私たちは、彼女と共にその完熟マンゴーをひと口ずつ食べた。
やさしい甘さが、胸の奥に静かに染み込んでいった。
■Scene6 宮崎の晩餐と仲間の絆
旅の終わりに、私たちはこう締めくくった。
・《ぐんけい》の地鶏の炭火焼
・青島海岸沿いのカフェで日向夏ジュース
・最後は、完熟マンゴーの贅沢なパフェ
夕姫が静かに呟く。
「食べ物って不思議だね。こんなに、人をやさしくするんだ……」
凛音がキムチの瓶を手に包み込むようにして言った。
「怒りも、後悔も、愛も――時間と一緒に熟していくんだよ」
■Scene7 祈りの後に見た未来
やがて岩村は意識を取り戻し、凛音がそっと言葉をかける。
「“神様に祈る”って、何かを誤魔化すためじゃない。
自分の弱さと向き合うためにするものよ」
夜の鵜戸神宮で、凛音は一つだけ運玉を手に取り、断崖へと歩いた。
波音が耳を打ち、星が瞬く空の下――そっと運玉を投げる。
願いは一つ。
「誰かの心を、守れますように」
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
“マンゴーの甘さ”が、過去の罪や痛みをやわらかく包み込むように――
宮崎編では、そんな“人の再生”を小さく描いてみました。
物語の中の祈りが、読んでくださった誰かの心にも届いていたら嬉しいです。
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