第94話:炎と石の記憶 ― 熊本城と黒焦がしの遺言 ―
今回のキムチ探偵は、“火の国”熊本が舞台です。
地震と戦火をくぐり抜けた熊本城、そこに眠る火災の記憶と、受け継がれてしまった過去の罪。そして、“火を封じた石”に込められた想い。
観光名所の裏に潜む、もう一つの歴史。
凛音のキムチ探偵センサーが導く、記憶と火のミステリーを、どうぞお楽しみください!
■Scene1 熊本駅・春風に揺れる瓦礫の記憶
「この城……生きてるみたいだね」
熊本駅に降り立った私たちの目の前にそびえていたのは、修復中の熊本城。その石垣や瓦がまだ傷ついたままの姿で空を睨んでいた。
火の国・熊本。西南戦争、そして平成の大地震をくぐり抜けた城は、それでもなお凛としていた。
まずは朝食に、《黒亭ラーメン》。焦がしにんにく油が効いたスープに、誰もが無言で箸を進める。朝から全力で染みるラーメンに、さくらが涙目で呟いた。
「これ、もう……グルメっていうより、人生」
だが、旅の本番はここからだった。
■Scene2 石垣の下に眠る男
熊本城の外堀沿いを歩いていると、石垣の陰に人だかりができていた。
若い男性が倒れていた。30代、地元の造園業者で、城の復旧工事に関わっていたという。
「呼吸は……あるみたいだけど……?」
凛音が、王道白菜キムチを口にひとさじ。次の瞬間、視界に“黒い炎”が揺らめいた。
「これは……焼かれた“怨念”……火を扱った人の記憶」
男の手には、江戸時代の古地図の写しが握られていた。
その裏には、墨のような黒い文字でこう書かれていた。
「火を封じた石——触れるべからず」
■Scene3 《馬桜》にて交わされる密談
夜、私たちは《馬桜》にて馬刺しと焼酎で疲れを癒していた。
そこへやってきたのは、地元の古物商・牛島。がっしりした体に、しわだらけの目元が印象的な45歳。
彼が語ったのは、工事現場で発掘された古銭と刀の鍔の話。そして、語り継がれてきた“ある噂”だった。
「熊本城の地下には……清正公が封じた“火事の怨念”がある。焼き討ちで亡くなった罪人の魂だと、昔の連中は言いよった」
凛音が再びキムチを口に含むと、視界に江戸末期の熊本城下町が現れた。
そこにいたのは、火を放った男。その目は、泣きながら燃える町を見つめていた。
「……怨念じゃない。“復讐”でもない。これは、叫びよ」
■Scene4 夜の城壁に浮かぶ影
夜の熊本城。ライトアップされた天守をよそに、私たちは資料館の裏手へ回る。
そこで凛音が見つけたのは、封鎖された地下通路。
奥へ進むと、焦げた衣類と灰になった和紙が見つかった。和紙に記されていたのは、明治維新後に封印された、火災とその責任者を記す文書。
その最後に書かれていた名前が、倒れていた造園業者の祖先——江戸末期に“罪人”として扱われた火付け犯だった。
彼は、自分の血筋に向き合うため、地図を手に城へ来ていたのだ。
■Scene5 西南戦争の火と、加藤清正の遺言
地下通路の奥、火封じの石には、加藤清正が残した言葉が刻まれていた。
「火は、外からではなく、心から起こる。
この石を超える者が、己を知ることを願う」
そしてもうひとつの真実。
明治の世に起きた西南戦争。その砲撃の一部が、かつての火災を隠蔽するように仕組まれていた。
歴史の中で消された“真の火種”は、今も静かにここにあった。
■Scene6 熊本グルメに舌鼓
事件が一区切りし、私たちは街の美味に癒された。
・阿蘇山麓の《いまきん食堂》で、あか牛丼。
・《桂花ラーメン》では二度目の熊本ラーメン。
・熊本城稲荷神社の門前で、アツアツの辛子蓮根。
さくらが口いっぱいに牛肉を頬張りながら言った。
「ねえ、キムチで火も消せるって、すごいと思わない?」
夕姫がそっと頷く。
「焦がしニンニクの香りと一緒に思い出すわ……今日のこと」
■Scene7 火の国の遺言
翌朝、造園業者の青年が目を覚ました。泣きながら語ったのは、自分の血筋に向き合う勇気だった。
「自分が何者なのか……知るのが怖かった。でも、知ったことで、ようやく立てました」
凛音は、彼の手に白菜キムチの小瓶を渡す。
「この国にはね、こういう“記憶の食べ物”があるの。忘れたくないことは、口に入れて噛むのよ」
■Scene8 阿蘇の空に立つもの
その足で私たちは阿蘇へと足を伸ばした。噴煙を上げる阿蘇山。
火山の力は、まるでこの国の“記憶”そのもののようだった。
凛音がポツリとつぶやく。
「火って、壊すだけじゃない。あったかさも残すから、忘れたくなくなるんだよね」
■Scene9 そして、唐津へ——絣に秘めた母の言葉
次なる目的地は、佐賀・唐津城。
「呼子のイカが待ってるわよ~!」とさくらが笑う。
だがその道中で手渡された、一通の絣に包まれた手紙。
そこには——**亡き母から娘へ、届くはずのなかった“真実”**が隠されていた。
旅は続く。キムチと記憶が導く先に、またひとつの「痛みと光」が待っている——。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
熊本編では、熊本城や西南戦争、阿蘇山といった火にまつわる歴史をモチーフに、「過去と向き合う勇気」や「記憶の継承」をテーマとして描きました。
キムチという“記憶の食べ物”が、罪も痛みもそっと包み込むような存在であってほしい——そんな願いも込めています。
さて、次回は佐賀・唐津城へ。
呼子のイカ、伝統織物・絣、そして届くはずのなかった“母のメッセージ”。
また一つ、忘れられた想いが、キムチの記憶に刻まれます。
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