第91話:道後温泉ふたたび ―今治造船誘拐事件と9000万円の感謝―
久高島での“逆潮事件”がひと段落したと思った矢先、再び鳴るSOSの着信。
今度は道後温泉で、今治造船の社長令嬢が誘拐――!?
舞台は愛媛・今治港へ。
怒りと悲しみ、そして母親たちの祈りが交錯する中、
「キムチ探偵」がまたひとつ、新たな命を救います。
――坊っちゃん団子とキムチが導く先に、“真実”はあるのか。
※今回もご当地描写を楽しみながら読んでいただけたら嬉しいです!
■Scene1:沖縄からの帰路、一本のSOS
久高島の“逆潮”事件を無事に解決し、那覇空港へ向かうタクシーの中。ようやく深く息を吐ける……はずだった。
スマホが震えた。画面には見慣れた名前。
《倉科美智子》
ユニ・チャーム広報室長で、今では私にとっても“大切な仲間”のひとり。
「凛奈さん、すみません! 愛媛に戻ってきてもらえますか?
今度は今治造船の社長令嬢・村上舞ちゃん、10歳が――
道後温泉で誘拐されました……!」
背後からは、もう一人の声が混ざる。
「しかも、犯人が“あなたにしか交渉しない”って名指しで……」
それは、大王製紙の結城綾香さんの声だった。
すぐさま空港カウンターで松山便に振り替える。
迷いも戸惑いも一切ない。ただ、子どもの命を救う――それだけを胸に。
私は“キムチ探偵”だ。どこにいても、どんな地であっても。
■Scene2:道後温泉本館前、再集結
夜の帳が下りる中、道後温泉本館の前。赤提灯がゆらゆらと風に揺れる。
その下に集ったのは、3人の母親たち――
・結城綾香 (大王製紙)
・倉科美智子 (ユニ・チャーム)
・村上志津香 (今治造船)…目元は腫れ、手は小刻みに震えていた。
犯人からのメッセージは、LINEで送られてきた動画だった。
⸻
【犯人の要求】
1.身代金一億円を翌日17時までに今治港・第三倉庫へ
2.引き渡し役は「キムチ探偵本人のみ」
⸻
動画の最後、涙ぐむ舞ちゃんの姿が映る。
「――わかりました」
私はスマホの画面を閉じ、静かに頷いた。
「でもその前に。“あの子が無事”だってこと……この目で確かめさせてもらいます」
■Scene3:坊っちゃん団子とキムチの視界
道後温泉街の一角にある茶屋。母親たちの心を落ち着かせるため、甘いお茶と名物「坊っちゃん団子」を頼む。
その傍らに、私の“相棒”がいる。特製の韓国キムチ。
静かな空気の中、私はそっと団子とキムチを同時に口に運んだ。
その瞬間――視界が反転する。
・錆びた鉄と油の匂い。
・古びたドックの空き区画。
・泣き声が、音の波に逆らって跳ね返る。
・男は二人組、港湾作業員の制服。
・そして、「船首ブロックの音漏れテスト室」の扉を閉める姿。
一気に視界が戻る。私は深く息を吸い、母親たちに伝えた。
「港の“音響テスト室”……そこに舞ちゃんがいる」
■Scene4:今治港、タイムリミット作戦
翌日16時。指定された今治港第三倉庫に、私はひとり立った。
ダミーの身代金が詰められたバッグを抱え、緊張に背筋を伸ばす。
周囲には、県警今治署とSAT(特殊急襲部隊)の潜伏班が配置済み。
現れたのは、ひとりの男。作業員帽を脱ぐと、見覚えのある顔がそこにあった。
新谷、30歳。今治造船の下請けで働いていた元溶接工。
「社長は冷たいんだ! オレたちを何十人も切って、自分だけは安泰かよ……!」
「――でも、舞ちゃんは関係ない!」
私の叫びと同時に、SATがスピーカーから甲高い金属音を鳴らした。
新谷は驚き、合図用の無線を取り落とす。倉庫奥、音響テスト室にいた共犯者も制圧され――
村上舞ちゃんは、無事に保護された。
■Scene5:道後温泉 本館湯上がりの誓い
夜の湯けむりに包まれながら、母親たちは舞ちゃんを何度も抱きしめた。
その中で、志津香夫人がそっと封筒を差し出す。
「凛奈さん……せめてものお礼です」
封を開けると、中には今治造船からの9000万円分の小切手。
「そんな……私はただ、当たり前のことをしただけです」
私がそう言いかけた瞬間――
「でも、あなたの“当たり前”が、どれだけの命を救ってきたか…」
「だから、このお金でキムチ探偵事務所を続けて。私たちのような母親、そして子どもたちの未来を、どうか――」
三人の母親がそろって、深々と頭を下げた。
私は小切手を両手で受け取り、そっと宙を仰ぐ。
「――命より重い感謝、無駄にはしません」
夜風が、湯屋の軒先でやさしく吹き抜けた。
■Scene6:温泉街の月と未来のCM
翌朝。旅館の中庭、朝の湯けむりの中。
姉の信恵から、メールが届いた。
《今治造船のCM企画が通ったよ!PR枠に“キムチ探偵”も入れるって!》
私は笑って返信する。
「じゃあ次のロケ地は、ドックと温泉ね。坊っちゃん団子とキムチ、忘れずに持ってくよ」
温泉街の空に浮かぶ月を見上げながら、私はそっとバッグの重みを確かめた。
9000万円の重み。
それは、誰かの未来を守るためにある――
キムチ探偵、次の事件へ向かいます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
舞台を沖縄から愛媛・道後温泉へ移し、キムチ探偵は“誘拐交渉人”として再び活躍しました。
今回登場した今治造船や大王製紙、ユニ・チャームといった企業名は実在のものでありつつも、
本作ではあくまでフィクションとして描いております。
母親たちの強い想い、子どもたちの未来、
そして「探偵としての覚悟」を描けていたら嬉しいです。
次回は、また違う土地での事件を予定しています。
「次のロケ地はどこかな?」と一緒に旅する気持ちで、どうぞお付き合いください!
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それでは、また次の事件でお会いしましょう!