橙灯籠
オレンジ色のあかりが灯る
夜店が並ぶ参道で
宵闇提灯ぶら下げて
下駄の足音響かせて
あの子はかけてゆくのです
ひらひら兵児帯ふわふわと
赤い金魚のひれのよで
狐のお面は真っ白で
にたりと笑ってちらりと流し目
ぼくを置いてゆくのです
ピンクの綿飴
チョコバナナ
たこ焼き
イカ焼き
アイスクリーム
気づけば周りに誰もいなくて
あの子はお宮の階段のぼって
カタカタカタカタ あれ下駄の音
笑い声と笛の音に
太鼓の音に花火も続いて
お宮の提灯いきなり消えた
人も夜店も皆消えた
暗い暗いまっくら夜道
暗い夜道に羽ばたき響く
取って喰うぞと羽ばたき響く
獣の鳴き声 笑い声
どこかで誰かの叫び声……
祖母がお待ちと首から下げた
お宮様のお守りが
やさしくやさしく暖かい
ちりちりちりと鈴の音ふるえ
祖母の言葉を思い出す
「だいだいとうろう、だいだいとうろう。
帰り道を教えておくれ」
夜道の先で火が灯る
ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、と火が灯る
夜道の左右に橙灯籠
闇を払って魔を払う
神のお宮へまっすぐと
橙灯籠、橙灯籠
走って走って階段のぼる
のぼった先にはお宮様
赤い兵児帯あの子が笑う
遅かったねと狐と笑う
お囃子
歌声
笑い声
焼きそば
焼き鳥
りんご飴
あの子はぼくの手を取って
放しちゃダメよと睨みつけ
階段手前で頭を下げた
提灯片手にペコリと下げて
呪文のようにお礼を言った
「だいだいとうろう、だいだいとうろう。
助けてくれてありがとう。
返してくれてありがとう。」
ぽふん、と灯りがあの子に応えた。