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第2-3話 チュートリアルと翻訳付与

 

「う~ん、これは微妙かもしれない……」


 ここは学院の施設、”チュートリアルダンジョン”の第1階層。

 目の前で繰り広げられる戦いの様子を見て、むむむと唸る僕。


 教官である僕は基本的に回復魔法や支援魔法を使い、生徒のサポートに回っているのだが……。



「”マジック・シールド”!」


 ガキィインッ!


 カイが、防御魔法のシールドでイノシシ型魔獣の突進を受け止め、隙を作る。


「カイ君、さんきゅー♪」


 ひらり……バコオォン!


 そこに、脚に魔力を込めたクレアが大きくジャンプ、魔獣の背後に降り立つと、同じく魔力を込めた正拳突きで魔獣を打ち倒す。


 彼女は身体に魔力を込めることで、スピードと攻撃力を強化する戦い方を得意とするようだが……。


「クレア、後ろっ!!」


「わっ、ととっ!?」


 僕の注意に、慌ててその場から飛びのくクレア。

 もう一体のイノシシ型魔獣の攻撃をかろうじてかわす。


 彼女は格闘を主体にすることから、敵中に飛び込むことが多く、敵が複数いる場合背後から不意打ちを食らいやすい。


 シールド役がいる場合は、敵の動きを止めてもらい魔法で狙い撃つのが王道の戦い方だが……。


「クレア、敵が複数いるときは気を付けて! せっかく使えるんだから、攻撃魔法も組み合わせるっ」


「へへっ、だいじょ~ぶですよ、セシル教官っ!」

「この程度の魔獣……はあっ!」


 ズドオンッ!


 魔力を乗せた回し蹴りで、2体目の魔獣を打ち倒す。


「にしし、ざっとこんなもんですよ! ナイスコンビネーション、カイ君!」


「う、うっす、クレア」



 クレアは得意げにVサインを出しているが、危なっかしい戦い方だな……前衛が2枚というアンバランスさもあるんだろうけど、敵の構成により戦い方を変えることも必要……ただここで指摘してもなかなか実感できないだろうし……僕は、あとでちゃんと指導するべく、戦いの様子を魔導通信端末で記録するのだった。



 ***  ***


「くっ……こいつ、打撃がっ」


 チュートリアルダンジョンの第2階層、クレアとカイは、複数で出現したスライム系魔獣に苦戦していた。


 スライム系魔獣には打撃が効かない種類もおり、特に魔法使いを育成する当学院では、チュートリアル時に必ず戦う相手(と教育要領に書いてあった)である。


「クレア! そういう相手こそ、いったん下がって攻撃魔法だぞ?」


「大丈夫ですっ、あたしの格闘は、魔力をっ、込めてるんでっ……スライム系魔獣でも手数を増やせば倒せます!」


 僕はアドバイスを飛ばすが、クレアは意地になっているのか格闘攻撃にこだわっている。


 むむ……よほど自信があるのかもしれないが……パーティの状況と敵の特性を冷静に把握しないと……。


 特に学院を卒業して魔法士官になるなら、複数人の部下を持つことになるのだから冷静さは必須である。


 少し目に余るな……そろそろ厳しく指導するべきだよね。

 僕がそう考えていた時……。


「クレア、アブないっす!」


「……えっ!?」


 ドッ……バチインッ!


 死角からクレアをターゲットに放たれたスライム型魔獣の魔弾……その攻撃から身を挺して彼女を守ったのは、カイの巨体だった。


「ぐっ……」


 負傷したのか、膝をついて倒れ込むカイ。


 !! いけない!


「”フレア・バースト”」


 ゴウッ!


 僕は即座に攻撃魔法を詠唱し、スライム型魔獣を焼き払う。



「……ごめんな、さい……カイ君、大丈夫?」


 状況を把握したのだろう、震える声でカイに声を掛けるクレア。


「致命傷じゃない、大丈夫……それより、なぜこうなったか、理解してるね?」


 カイを回復魔法で治療しながら、ちょい厳しめにクレアを叱咤する。


「……はい、あたしが自分の戦い方にこだわって、周りを見ていなかったからです」


 自分に責任がある事は理解しているのだろう。

 涙を浮かべてしゅんとするクレア。


「よし……まずクレアは格闘だけじゃなくて、魔法も使うこと」

「それに、相手の特性を観察して、カイとの間合いや、連携をもっと意識すること」


「それがクレア、キミの可能性を広げることに繋がるんだ、良いね?」


「はい、分かりました!」


 真剣な表情でうなずくクレア。


「それじゃあ、奥に進もうか」


 カイの治療を終えた僕たちは、ダンジョンの奥へ歩みを進めるのだった。



 ***  ***


 その後の探索は順調だった。


 後列から攻撃魔法を使い始めたクレアと、カイのコンビネーションも上手く行き、あっという間にチュートリアルダンジョンの最奥に到着した。


「これが、ダンジョンのボス魔獣なんですね」


 クレアがきりりと眉を引き締めながら構えを取っている。



 最奥フロアの中にはガーゴイル型の魔獣が待ち構えている。


 多彩な攻撃と空中を動き回る敵……あらゆる状況に対応する力が求められる魔獣だ。

 チュートリアルの仕上げには最適と言えるだろう。



 そうだな……このタイプの魔獣の場合、せっかくだからクレアの格闘スキルも生かしたい。

 ガーゴイルは素早いから、詠唱に時間のかかる攻撃魔法は当たりにくいし。


 ”高速詠唱術”についてはまだ教えてないからね。


 僕は一つのアイディアを思いつき、クレアを呼ぶ。


「はい、どうしたんですか、セシル教官?」


 ボス魔獣の前ですよ?

 と不思議そうな顔をするクレア。


「クレア、君は詠唱があまり得意じゃないよね。 攻撃魔法の発動まで時間がかかっているケースがあった」


「だからこれ……魔法付与マジックギブ


 僕は自分のスキルを発動させる……付与する魔法は……先ほどスライム型魔獣が使っていた”魔弾”がちょうどいいだろう。


「え……これ、新しい魔法の術式……ってこれ! さっきスライムが使っていた”魔弾”じゃないですかっ!」


「うん、これなら消費魔力も小さく、詠唱モーションも短いから……格闘で飛び込む際の牽制にも使えるよ」



 僕は”キミの得意な戦い方と魔法を組み合わせてみよう”と提案したつもりだったのだが、彼女が驚いたのはそこではないようで。


「いやいや、これって()()()()()じゃないですか!」

「セシル教官、なんで使えるんですか!?」


「……へっ? このレベルの術式くらい、見ればわかるんじゃないの?」


「えぇ……普通は分かりませんよ……セシル教官、凄い……!」


 ぽかんとする僕に、ぶんぶんと腕を振りながら称賛の言葉をくれるクレア。


 そ、そうだったの?

 これくらいそこそこの魔法使いならできるものだと思ってたけど、違うの?


「えっと、これはあくまで”一時的な付与”だから……本格的な習得には訓練が必要だよ?」


「はいっ! 分かりましたセシル教官っ!」

「とりあえず、戦ってみますね! いこう、カイ君!」


「了解っす! クレア!」


 むむ……もしかして、彼女基準では凄いことをしてしまったのだろうか?


 クレアは頬を紅潮させながら嬉しそうにうなずくと、ガーゴイルに向き合う。


「よ~しっ、ガーゴイル……覚悟っ!」


 クレアとカイは、ガーゴイルに挑みかかっていった。



 ***  ***


「へへっ、ありがとうございます教官っ!」

「あたし、自分の戦い方が広がった気がします!」

「もっともっとご指導お願いしますねっ」


 あの後、危なげなくガーゴイルを倒したクレアたち。


 クリア証明書を取り、チュートリアルダンジョンを終えた僕たちは、学院への帰り道を歩いていた。


 クレアはやけに上機嫌で、踊るように歩きながら、僕に抱きついてくる。


 ううっ……腕に当たる大きな胸の感触が……無自覚お嬢様というのも罪作りなモノである。


 思わずドキドキしてしまうが、教官としての威厳が大切なので我慢している。



「えへへ、”魔法を駆使する最強の格闘家”を目指せばいいんですよね、あたし、もっと頑張ります!」


 彼女の笑顔と尊敬の眼差しがまぶしい。

 僕はあらためて教官職の醍醐味を感じていた。



 ***  ***


「いやはや……魔獣が使う魔法の術式を瞬時に”翻訳”、初級レベルの生徒に”付与”か」

「”魔導翻訳適正SSS”は伊達ではない……とんでもない才能が隠れていたものだな……」


 チュートリアルダンジョンに挑むセシルたち……。


 状況をモニターしていたイレーネは思わず嘆息する。


 彼らが、帝国を救う鍵となるかもしれない……セシルと特A科クラスをどう鍛えていくか、考えを巡らせるイレーネなのだった。


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