第2-1話 魔導翻訳付与教官、特A科クラスへ
「ううっ……頭が痛い……初日から二日酔いとは」
昨日、ハーフハイエルフロリバ……お姉さん教師という属性過多なイレーネ教官に速攻採用された僕。
勧められるがままに契約書にサインをし、学院借り上げの家に入居、そのまま教官陣と歓迎会という名の飲み会に連れて行かれ、しこたま飲まされた挙句、今日が初出勤という怒涛の展開である。
これが何かの詐欺だった場合、僕は人生終了しているところだが、幸い支給された教官服は本物だった。
帝国軍の軍服をベースにした深い青の教官服……2本のメイジスタッフが交差した、学院のエンブレムがカッコいい。
ふふ……教官服を着ると僕もなかなかイケメンじゃないか。
思わず鏡の前でポーズを取ってしまった僕は、教官室へ急いでいるところだ。
「あら、新しい教官さんですか? よろしくお願いしますね」
学院の廊下を歩いていると可憐な女子生徒たちがにこやかな笑みで僕に挨拶してくれる。
ああ、教官って最高……僕は幸せをかみしめながら、教官室の扉を開く。
「よく来たなセシル、キミの席はそこだ」
既に出勤していたイレーネ教官に、自分の席を教えられる。
魔法士官学院の教官陣は20人ほど。
この人数で3学年200人あまりの生徒を教育する。
課業開始までに教官陣もそろい、朝のミーティングが開始される。
「彼が新しい教官のセシルだ」
「まだ若いが、”魔導翻訳適正SSS”持ちだ」
「彼には特A科クラスの担任と、”魔導概論”の講師を担当してもらう」
「セシル、挨拶を」
イレーネ教官の紹介に、大きくどよめく教官陣。
やはり、僕のスキルは凄いんだろうか? まだ何のスキルかよく分からないけど……。
「はい、このたび教官として採用されましたセシル・オルコットです。 年齢は……」
昨日の歓迎会に出席されていない教官もいるので、丁寧に自己紹介をする。
全体的にベテランが多く、僕がほぼ最年少だ。
「よし、本日も課業開始!」
「セシルは残ってくれ。 順序が逆になってしまったが、いまからオリエンテーションを行う」
よ、よかった……いきなり生徒をよろしく~と言われるかと思った。
僕はイレーネ教官の後について会議室に入る。
「まず、君の担当教科である”魔導概論”と、君のスキル”魔導翻訳適正”についてだが……」
専門用語を交えたイレーネ教官の説明が延々と続く。
……正直あまり理解できませんでした。
後で図書室で勉強だな……基礎を学ぶより、ノリと勢いで生きてきた魔法使い人生を、今更ながらに僕は反省していた。
とりあえず、僕の主担当は”魔法”を覚えさせたり使わせる”実践教育”ではなく、魔法を使うための理論や術式に関わる”魔導理論の教育”という事は理解できた。
僕のスキル”魔導翻訳適正”については……新しい魔法を開発するのに超大切なスキルという事だが……正直良く分からない。
ギルドの初級魔法使いたちに、上級魔法の術式を分かりやすく簡略化・翻訳して教えるという事を続けていたが……これってもしかして凄い事なんだろうか?
自分のスキルが凄いと言われても、あまりぴんと来ない僕なのだった。
「次に”特A科”だが……一般クラスに入れると統率が乱れるような、尖った特徴を持つ生徒を集めた少人数クラスだ」
生徒たちに負けないように頑張るんだな……イレーネ教官が悪戯っぽく笑う。
「尖ったスキルを持つ君なら、上手くまとめられるだろう……3人目は後程合流するが、残りのふたりはもう入学済だ」
「ついてこい。 紹介してやろう」
ようやく説明地獄から解放された……学生時代を思い出した僕は、安堵のため息を漏らす。
会議室を出た僕は、イレーネ教官の後について教室棟に向かった。
教室棟2階の一番奥……そこが特A科クラスの教室らしかった。
「待たせたな。 君たちの担任が来たぞ」
20人は入れそうな広い教室に、3人掛けの長机が6つ。
最前列に並んで座っていたのは、現在ふたりだけのクラスメンバーだった。
「教官! よろしくお願いします!」
「名前はカイ・バールです! 17歳っす!」
「防御魔法しか使えないっすが、ドラゴンの突進にも耐えます! 鉄壁っす!」
まず手前に座っていた男子生徒が立ち上がる。
デカい……身長は2m以上あるだろうか……魔法使いの体格には見えないが、防御魔法の使い手か……。
この体格なら、優秀な壁役になれそうだ。
声も大きくハキハキしており、優しそうな糸目も手伝い、無害そうな雰囲気を醸し出している。
「教官様、わたくしクレア・バンフィールドと申します」
「不肖、バンフィールド家出身で16の小娘ですが、学院ではただの一生徒として鍛えて頂けると幸いです」
優雅に立ち上がり一礼したのは可憐な少女。
おおお! 貴族令嬢! 深窓の令嬢!
こっそりテンションの上がる僕に向けて優しく微笑むクレア。
腰まである美しい金髪に、優しそうな大きな青い瞳。
可憐な桜色の唇に、柔らかそうな頬。
すらりとしたしなやかな身体を、純白の学院制服が包んでいる。
清楚なひざ下スカートに白タイツ+ローファー。
完璧なお嬢様感を醸し出す、超美少女がそこにいた。
この美少女に3年間「教官……」と呼ばれるのか……積み上げた信頼はいつしか愛情に変わり……。
事前妄想が現実になった!
テンション爆上がりの僕に「くくく……深窓の令嬢か……まあ頑張り給え」と笑うイレーネ教官。
その悪そうな笑みの原因を、僕はすぐに思い知ることになるのだが……。
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