第7-6話 特A科クラス、団体戦(前編)
「団体戦予選、突破おめでとう!」
「明日からの決勝トーナメントからは一気に相手も強くなるけど、油断せず行こう!」
「「「「かんぱ~い!!」」」」
1週間前から始まった帝国学生大演習の団体戦、参加チーム数が多いため予選リーグを勝ち抜いたチームだけが決勝トーナメントに進出できる。
我らがコーウェン魔法士官学院特A科クラスは、見事トップの成績で予選を勝ち抜いていた。
「もぐもぐ……やっぱり決勝トーナメントに勝ち残ってきたのは、”士官学院”のチームが多いですね」
配布された決勝トーナメント組み合わせ表を、口いっぱいにハンバーグステーキを頬張りながら興味深げに眺めるクレア。
「まあね。 団体戦はどうしてもパーティの総合力が問われるから、打撃や魔法……色々なスキルを持った生徒を集めやすい士官学院の方が有利になるね」
実際、決勝トーナメントに残った16チームのうち、4チームが我らがコーウェン魔法士官学院、8チームがライバルである帝都総合士官学院のチームだ。
「ふふん、個人戦格闘部門準優勝のあたしと、攻撃魔法部門優勝のルイたんがいるウチが本命という事ねっ!」
「……予想雑誌には、”安定した力を持つパーティだが、魔法拳闘士のムラっ気が不安要素”と書かれてますが。 あと、ルイたんはやめてください」
「えええっ!? あたし、不安要素なのっ!?」
いつものごとく漫才を繰り広げるクレアとルイは置いといて、僕はトーナメント表の反対側、順調に行けば決勝で対戦するかもしれない1つのチームの事が気になっていた。
”アウルム商事経理学校”から参加しているチーム……しかも、メンバーにはクレアの姉弟子であったリビエラの名前が無い……。
もしかしてコイツら、”商社”の手の者なのだろうか……個人戦攻撃魔法部門でルイが対戦した少年の事も含め、警戒した方がよさそうだ。
いよいよ明日から、勝負の決勝トーナメントが始まる。
*** ***
「貰ったっ! ”ブラスト・インパクト”!」
ドウッ!
一息で相手の懐に入り、掌底に込めた極大爆炎魔法の魔力を一瞬で開放する。
防護服を通じてダメージ算定が行われ、吹き飛ばされながらダウン判定となる対戦相手の戦士。
「……そこです。 ”エーテル・ハザード”!」
ブワアアアアアッッ!
対戦相手の後衛ふたりの位置に魔法陣が出現し、黒紫の禍々しい魔力の波が相手を包む。
どさり……
一瞬で体力と精神力を削り取られた相手は、意識を失って倒れる。
シールド役のカイを前衛に置き、タイミングを計り後衛のクレア、ルイが一斉攻撃を仕掛ける……。
特A科クラスの鉄壁の作戦を破る相手は現れず、僕たちは順調に決勝トーナメントを勝ち上がっていた。
「いえいっ! 次は準決勝! さすが教官の魔法付与! 」
「多少威力は落ちるとはいえ、極大爆炎魔法のブラストフレアを使えるとか、爽快ですっ!」
絶好調のクレアが、いまだに炎をまとわせた拳を空高く掲げる。
……熱いから腕をぶんぶん振り回さないでくれるかな?
「……セシル教官、とっておきの”魔法停止”を使わないのは、やはり?」
真剣な表情で語りかけてきたのはルイだ。
さすがに彼女は気付いているか。
「そうだね……決勝で当たるまで、アイツらに手の内を見せたくない」
ちらりと観客席を見やる。
最前列に座り、腕を組んでこちらを見下ろしている一人の男。
少年と言ってもいい年齢に見える。
さらさらとした黒髪を持ち、人がよさそうな雰囲気を醸し出す。
だが、その口元はにやりと歪み、金色に光る瞳の眼光の圧力は、観客席から離れたこの場所でも感じられ、背筋を寒気が走る。
すぐ後ろにふたりの巨漢の男を従えたアイツが”アウルム商事経理学校”の代表チームだ。
昨日、魔導通信端末を使って”アウルム商事経理学校”の事を調べたが……半年ほど前に設立され、ここ数か月の間に不自然に生徒数が増えている事しか分からなかった。
通常の生徒募集を行っていないようであり、どう見ても怪しい。
それに、僕たちが関わってきた事件で遭遇した敵すべてに共通する特徴……金色の瞳。
これは、厄介なことになりそうだ。
決勝に向けて、そっとため息をつく僕なのだった。