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第7-5話 毒舌魔法少女と不死の少年

 

「な……あなたはあの時の……なぜ生きているんです……?」


 目の前にいるのは血色の悪い一人の少年。


 あり得ない……目の前に人がる光景を信じられないのか、大きく見開かれたルイの瞳は、恐怖に揺れている。


 帝国学生大演習、個人戦攻撃魔法部門の準決勝……。


 危なげなく勝利を収めてきたルイの前に立ちはだかった相手は、この場にいるはずのない相手だった。



 にやり……


 ばっ!!


 返事をする代わりに、その()()()()の奥を光らせると、飛び掛かってくる少年。


「くっ……問答無用ですかっ!」


 バチインッ!


 近接攻撃用の雷撃魔法の尖った射弾を、オプションビットの一機で弾くルイ。

 動きに鋭さはなく、使ってくる攻撃魔法も中級レベル……いつもなら全く問題ない相手ではあるが、このあり得ない状況がルイの動きを鈍らせていた。


(そんな……あの時、魔導ビームで確かに心臓を撃ち抜いたはずです……奇跡的に生きていたとしても、この短期間でここまで回復するとか、ありえません……!)

(他人の空似……いえ、この魔導パターンは確かにあの少年です)


 ただ顔が似ているだけか……そう思おうとしたのだが、目の前の相手から感じる魔導パターンは確かにルイが先日始末した少年暗殺者のモノで……その事実がいっそうルイを混乱させていた。



 ***  ***


「……おかしいっすね? ルイがあの程度の相手に押されるとか……」


「どうしたんだろう? さっきは調子よさそうだったのに」


 カイとクレアが、思わぬ苦戦をするルイに首をかしげている。


 まさか……あの少年は、魔法士官学院に再入学を決めたときにルイから聞いた”夏休み中の仕事”で彼女が始末した相手……なのか?


 もしそうなら、ルイが動揺するのも頷けるが……それより。


 僕は、ルイの対戦相手の少年から、言いようのない違和感を感じていた。

 なんだ? この術式は……僕は専門外だが、”テイマー系”のような……。


 ”テイマー系”の魔法は、本来なら動物や魔獣を使役することに使われるが……むむ、アレンジされているのか?


 見たことのない術式構成だが……これは……。


 特A科クラスのクエストで訪れた湖水地方、悪徳領主が上位魔獣を操るために使っていたティム魔法、ソイツと同じ術式が使われていることを見抜いた僕は、一つの可能性に思い当る。


「死体を操っているのか!? なにかを憑依させて……?」


 もし、そうだとすれば……いけない!


「気をつけろ、ルイ!! ソイツは捨て身で掛かってくるぞ!!」


 相手は自分のダメージを気にする必要が無い……その危険性に気づいた僕は、ありったけの大声でルイに警告を発する。


「!! 教官! 確かにそうです……落ち着いて冷静に……そうすれば大した相手では」


 セシルの声にハッと我に返るルイ。

 いつもの冷静さを取り戻し、相手の出方を観察しようとするが……。


「ひひ……お前の攻撃は痛かったよぉ……ボクの将来を奪いやがってえええええっ!!」


「……ひっ!」


 くわっ! と目を開き、発せられた恨みを込めた少年の声に、負い目を感じていたルイは一瞬足を止めてしまう。


「貰った! 殺してやるッッッ!!」


 その隙を逃さず、飛び掛かった少年の手には鋭いナイフが握られている。

 その表面はてらてらと黒く光り、猛毒が塗られている事が分かる。


 ”攻撃魔法部門”で直接攻撃を行う事は反則であり、失格対象となるが、少年には関係ないことのようだ。

 一瞬の事であり、審判も止められない……!


 まずい……ナイフの切っ先はわたしの心臓を狙っている……この間合い、先ほど一瞬躊躇したせいで避けられません……!


 ルイの脳裏に、保安局特殊要撃部隊のエージェントとして働いた日々の事がよみがえる。

 沢山の命を奪ってきた……その中には、目の前の少年や、自分と歳が同じくらいの少女もいた。


 これは、因果応報なんでしょうか……刹那の諦観に襲われたルイの耳に、仲間たちの声援が届く。



「ルイ! 相手の攻撃は大したことないっす! 落ち着いて!」


「ルイ! そんな奴さっさとぶっ飛ばして優勝! そしたらスイーツバイキングおごってね!」


 そうだ、自分は過去を飲み込んだうえで、未来に歩みだしたはずです……相手を憐れんでこんな所で止まるのは相手にも失礼です。


「ルイ……”魔力障壁”だ!」


 そして、彼女にとって一番大切な教官の声が聞こえる。

 魔力は膨大だが燃費の悪い彼女に教官が与えてくれたアドバイス。


「ふっ……ここですっ!」


 シュウウウン……


 ルイは最小限の動作で、自身の胸の前に3機のオプションビットを三角形に展開。

 ナイフを弾けるだけの魔力障壁を展開する。


 カキインンッ!


 甲高い音と共に、あっさりと弾かれるナイフ。

 生じた隙を、彼女が見逃すわけはなかった。


「”フレア・バースト”っ!」


 ズドオオオンンッ!!


 高速詠唱術で発動した爆炎魔法が少年を包み……身にまとった防護服が彼にノックアウト以上のダメージが入ったことを判定し、この勝負は終わるはずだったが……。


「って、消えた……!?」


 爆炎魔法の炎が収まったとき、その場には誰も立っていなかった。



 ***  ***


 対戦相手はいなくなってしまったが、相手に反則があったこともあり、ルイの判定勝ちと裁定された準決勝。


 続いて行われた決勝は、調子を取り戻したルイにとっては障壁にもならず……帝国学生大演習個人戦、攻撃魔法部門優勝の栄誉は、ルイの物になるのだった。



「……さて、宣言通り優勝してきたわけですが……前座のクレアさんのアシストもあったことですし、わたしがスイーツバイキングをおごりましょうか」


 かつん


「おっと、10センドコインを落としてしまいました」


「ははっ! 拾っておきましたルイにゃん!!」


 スイーツバイキングおごりを餌にされ、ルイの従者となっているクレアは置いておくとして、ルイの準決勝の相手だった”少年”……やはり、湖水地方での一件と同じく”商社”が絡んでいるのだろうか。


 それなら、明後日から始まる団体戦も……。


 なにか波乱があるかもしれない……はしゃぐ生徒たちのもとに歩み寄りながら、僕は改めて気を引き締めるのだった。


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