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第7-2話 特A科クラス、帝都へ

 

「クラスの健闘を祈って、乾杯!」


「「「かんぱ~い!!」」」


 乾杯の音頭に唱和する生徒たち。

 合わせたグラスがカキン、と涼やかな音を立てる。


 ここは帝都中心部にあるホテルのレストラン。

 明日から始まる”帝国学生大演習”に備え、帝都に前泊した僕たちは、夕食兼決起集会を開催していた。



「くぅ~、この一杯のために生きてるわね~♪」


「……オレンジジュースですけどね」


 ぐいっ、とワイングラスに注がれたオレンジジュースを飲み干し、やけにベテランくさいセリフを吐くクレアと、冷静なツッコミを入れるルイ。


「旨いっす! 旨いっす!」


 大皿に盛られた肉料理を頬張るカイ。


「今夜は何でも頼んでいいからな! 大演習に備えて英気を養おう」


「さすがセシル教官、太っ腹! ……じゃあ、あたしは料理を高い順にここからここまで3つずつ!」


「……わたしはデザートのページをぜんぶ」


 遠慮という言葉が無い生徒たちに苦笑する僕。

 これでよりやる気を出してくれるなら、安いもんである。


「それにしてもセシル教官、参加者の数にはびっくりしましたよ!」


「個人戦は士官学院や冒険者養成学院以外の学生も参加できますからね。 ただ、わたしもあそこまで参加者がいるとは思いませんでしたが」


 そう、本日は帝都郊外にある競技場で開会式兼組み合わせ発表会が開催されたのだが、個人戦も含めると帝国学生大演習の参加者は数千人を超えていた。


「辺境の自治領や、噂ではハイエルフや獣人族の参加者までいるとか……学院代表だと慢心していては、足元をすくわれるかもしれません」


 そうだな……学生の大会とはいえ、相当な実力者が集まっているようだった。

 会場にあふれる熱気と渦巻く”魔導”に、僕とルイは思わず”魔導酔い”をしそうになったくらいだ。


「強そうな子たちもたくさんいたね! う~っ、腕がなるなぁ!」


「……元特殊要撃部隊所属として、学生には負けられません……!」


「ル、ルイがプロの眼差しをしている……!」


 わくわくとあふれ出る闘志を抑えられないクレアと、静かに拳を握るルイ。


 彼女たちのモチベーションも最高潮に達しているようだ……僕は彼女たちのために、飲み物の追加注文をするのだった。



 ***  ***



「しまった……あのレモンサイダー、アルコール入りだったのか……」


 1時間後、僕はすっかり酔っ払った生徒たちを前に、冷や汗を垂らしていた。


 たっぷりと料理を詰め込むクレアたちを微笑ましく見ながら、僕はちびちびとブランデーのソーダ割を楽しんでいたのだが、


「教官だけ美味しそうなものを飲んでずるいです!」


 と抗議する彼女たちのために、ノンアルのレモンリキュールを割ったサイダーを注文。


 生徒たちはおいしそうにソレを飲み……どうやら配膳されたボトルの中にアルコール入りのレモンリキュールが混じっていたらしい。


「ひっく……きょうかん、あたし……セシル教官の女性関係が気になります!

 イレーネ教官……は見た目が幼いと言っても大人の女性……セシリア教官は美人ですし……学院で大人のロマンスは起きてるんですかっ?」


「あたし、気になります!」


 顔を赤くしたクレアがずずいっと迫ってくる。


 恋愛ごとに興味のあるお年頃とはいえ、職場恋愛は士官学院的にご法度なんだぞ…………対象外にされてるとか言わないで。


「……くぴっ……そういえばセシルさん、イレーネ教官と一夜を共にしたという噂は本当ですか?」

「ろりこんです……ハレンチです……」


「わたしというものがありながら……さらに幼いイレーネ教官に手を出すとは……わたしより下は犯罪ですからね?」


「元特殊要撃部隊として、逮捕の必要性を感じます……!」


 なっ!? なぜその事を知ってるんだ……というかほぼイレーネ教官の告げ口だろうが……。


「マジでっ!? きょ、教官同士の夜のロマンス……ごくり

 ……ていうか、ルイでも結構犯罪だよ?」


「……わたしは取り締まる側の立場でしたので……わたしがOKといえば問題ありません」


「やべぇ! この子職権乱用してる!?」

「ていうか、まずルイの苗字がセシル教官と同じになっていた理由を聞きたいんですけどっ!」


「ふふっ……帝国特S機密事項です」


「国家機密!?」


 きゃっきゃっと盛り上がり始めた女子二人……チャンスだ!

 僕はじりじりと後退し、撤退のタイミングを探る。



 しゅばっ!!



「んっふふ~、セシル教官、逃げちゃダメですよ!」


 残念! 回り込まれてしまった!


「そうです……わたしたちも生徒として”一夜を共に”してもらわないと……教官として」


 顔を赤くして、目が据わったルイが迫ってくる。


 どこの世界に生徒と一夜を共にする教官がいるんだ……!

 そう言うのはえっちな官能小説の中だけです!


「ごくり……あたしもついに大人の階段を上るんだね……」


 僕の肩を掴むクレアの手にも力が入り……。




「まずは定番の”なでなで”に”添い寝”でしょう……体温低めのわたしにセシルさんもイチコロです……!」


「そそそそ、添い寝っ!? ルイったらそこまで行っちゃうの!?」

「あたし的には”お姫様だっこ”してもらって”首筋にギュっ”と抱きつくのがいいと思ったんだけど……」


「むむ! ”首筋にギュっ”……抱きつく時におでこをすりすりしたり……あだるてぃ~です」


「…………」


 やけにかわいい”大人の一夜”で盛り上がるクレアとルイ。


 その想像力のお子様っぷりにほっとしたような残念なような……。


 少女たちの”大人の一夜”トークは、ふたりがすやすやと寝入るまで続いたのだった。


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