第5-7話 【ギルド転落サイド】ギルド長アキム、泥沼にはまる
「くそっ、まずいまずい! このままでは……!」
”商社”の提案に乗り、マジックアイテムの盗掘をするために古代遺跡へ潜ったアキムとギルドの精鋭達、遺跡の奥でエルダードラゴンをはじめとした上級魔獣の襲撃を受け、ギルドの精鋭は全滅。
ギルド長であるアキムは、わずかな部下と共に命からがらカント共和国へ逃げ帰ったのだった。
がらんとしたギルドの執務室……。
一緒に戻った部下も全員辞めてしまった。
全資産をなげうち、ホームレスだろうが犯罪者だろうがなりふり構わず手駒を集めたので、ギルドの頭数だけはそろっているが、戦力は全盛期の100分の一にも満たないだろう。
これはすべて大統領であるキリルには内緒で行ったこと……。
今月の定期報告はなんとかごまかしたが、さすがに来月は通用しないだろう。
今月中に何とかしないと……。
焦るアキム。
その時、アキムの魔導通信端末(”商社”から支給されたものだ)に”商社”の営業マンから通話が入る。
なれない端末の操作に四苦八苦しながら通話を受けたアキムが聞いたのは、まさに福音とも言うべき提案だった。
*** ***
「”商社”によるギルドの買収か……奴らの出資で有能な冒険者も集めてくれるらしいし、俺はいままで通りギルド長……悪くない」
窮状に焦り、いっそ残り少ないギルドの資産を持って夜逃げすることまで検討していたアキム。
”商社”からの提案は、カント共和国冒険者ギルドを丸ごと買収する事だった。
アキムは、自分の城こそ失うが、どうせもうほぼ壊滅状態だったギルドだ……未練はない。
彼ら”商社”に雇われるという形になるが、地位も保証される。
唯一の懸念は共和国大統領であるキリルが反対する事だったが、”商社”の連中がよほどうまくやったのか、キリルの同意も取り付けた。
まあ、俺ももう50歳だ……野心はいったん置いておき、雇われギルド長として安定を求めるのも悪くない……。
数週間前の追い詰められた状況とは打って変わり、ピンチを乗り切ったアキムはようやく一息ついていた。
それにしても……この俺にここまでする”商社”とはいったい何者なのだろうか?
アキムが会ったことがあるのはたまに業務連絡をよこす、陰気なモヤシ野郎の”社員”だけ。
どこに存在するのかも、トップが誰なのかも分からないが、ここ最近裏社会で存在感を増している事だけは確かである。
その時、アキムの魔導通信端末に1通の連絡が入るのだった。
*** ***
「マジかよ……大物じゃねえか……」
陰気なモヤシ野郎の”社員”が連絡してきたのは、申請ギルドの幹部候補……最近新たにスカウトしたらしいが。
書類に記載されていた名前は、”オズワルド・アシュビー”。
かの帝国の大貴族、オズワルド家の御曹司の一人で、帝国でも有数の魔法使い。
以前は士官学校の教官を務めていたが、不祥事を起こし解任されたらしい。
それでも、彼の財力と実力は本物であり、コイツと”商社”から派遣される連中を合わせれば、ギルドの戦力は著しく強化されることは間違いなかった。
新たなマジックアイテムも送ってくれるらしいし……へっ、俺にもようやく運が巡ってきやがったか。
アキムは、いったん忘れたはずの野心が疼くのを感じていた。
コーウェン魔法士官学院で暴走事件を起こし、学院を解雇され、本家からも放逐された御曹司……彼がこのギルドに加わることでもたらされる事件を、この時のアキムは知る由もないのだった。