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第5-6話 エージェント少女と魔導研究所(後編)

 

「いや~、ルイ君まで手伝ってくれるとは……これは楽しみだ」


 上機嫌なイレーネ教官。


 ここは学院のグラウンド横に立つ研究棟。


 魔導金属をふんだんに使って建てられた真新しい建物で、イレーネ教官をはじめ、帝国の優秀な魔導研究者たちが日夜研究に励んでいる。


 その研究棟の3階に、イレーネ教官と僕たちの”特殊魔導研究所”が開設されていた。


「ふむふむ……これはルーベンス社の超高感度魔導分光計……いいですね、研究が捗ります」


「おお、分かるかねルイ君! この美しい曲線と魔導高感度センサー……芸術作品だと思わんか」


「激しく同意です、イレーネさん……!」


 研究者として、高度?な会話を繰り広げるイレーネ教官とルイ。

 うう、田舎で感覚と独学で魔導を学んできた僕にはついていけない世界だ……。


 今日のルイは、いつもの制服の上に白衣を羽織っており、赤い縁のアンダーリムの眼鏡までを掛けている。


 かわいい。


 更に見た目が幼いイレーネ教官はタイトミニのダークスーツに白衣だし。


 超ハイレベルの研究所なのに、どこかコスプレ感が漂う空間と化していた。


「ということで、当研究所ではオズワルド元教官が使っていたマジックアイテムの解析を進めつつ……”遺失魔法の再現”も視野に入れた、新型魔法の開発を進めていこうと思う!」


「なるほど……それは大変興味深いです」


 ぐっ、と握りこぶしを作り、鼻息も荒く宣言するイレーネ教官。


 あれ、絶対趣味だよな……そう思うが、”遺失魔法の再現”には僕も興味あるし、父さんと母さんが魔獣世界ケイオスに挑戦する前に、”遺失魔法”のことを話していた気がする。


 息子として、チャレンジしてみるのも面白いだろう……!

 僕は、モチベーションが高まっていくのを感じていた。



 ***  ***


「ということで、本日はまずコイツから攻めていきたい……!」


 イレーネ教官はそういうと、机の上にリンゴくらいの大きさの、金色に光るオーブを置く。


「これは、10年程前にとある冒険者が魔獣世界ケイオスから持ち帰って来たオーブ……」

「帝国各地の研究所でも解説が試みられたのだが……そうしても出来なくてね」


「”絶対魔導感覚”と、”魔導翻訳適正SSS”をもつセシル君、君ならばもしやと思い……帝都の博物館からかっぱらってきた」


 お、おう……かっぱらって来たって大丈夫なんだろうか……まあ、イレーネ教官なので今更である。


「了解です……それじゃ、”翻訳”を試してみます」


 僕はそう答えると、”オーブ”に向かって精神を集中させる……。


 オーブに漂うわずかな”魔導”の残り香を頼りにし……情報を引き出す……僕はわずかな手掛かりを逃さないよう、さらに精神を集中させるのだが……。


「ふう、厳しいですね……残留している魔力が少なすぎて」


「むぅ、君でも厳しいか……10年近く博物館に展示されていたからな……魔力と魔導情報が散逸しているのかもしれん」


 さすがにある程度の魔力が残っていないと、僕のスキルでもお手上げだ……僕の返答に、イレーネ教官も思案顔。



「あの、セシルさん……”ある程度の魔力”があればよいのなら、わたしの”魔導増幅”とここの機材を使えば……」


 どうしたもんか、僕が考えていると、横からルイが提案してくれる。


 そうか! ルイは”オプションビット”を遠隔操作する際に、”魔導増幅”を使い魔力を遠くまで飛ばしている……ここの研究機材と組み合わせればもしかして!


「なるほど……残留魔力を増幅し、セシル君に解析させるのか! 早速やってみよう」


 イレーネ教官も頷き、実験装置にオーブをセットする。



「よし、準備完了だ」


「ルイ君、セシル君、解析を頼む」


「はい……”魔導増幅”」


 イレーネ教官の合図にルイが”魔導増幅”のスキルを発動させる。



 パアアアアアッッ!



 彼女の髪留めが青く輝き……オーブに残った魔力が強くなるのを感じる。


「機材のスイッチを入れるぞ……!」


 ヴンッ!


 イレーネ教官が、研究機材のスイッチを入れると、ぼんやりとしていた魔力と術式のノイズが除去され、より鮮明になったのを感じる。


 よし、これなら……僕は改めて目を閉じ、”魔導翻訳”スキルを発動させるのだが……。


 ……ブンッ……


「これは……なにかの映像が……?」


 予想していたより強い反応が得られ、驚きの声を上げるルイ。

 その声につられ、目を見開いた僕が見たのは……。


「……って、父さん、母さんっ!?」


 オーブの上にぼんやり浮かんだ映像……そこに映っているのは僕の両親……冒険者として”魔獣世界ケイオス”に挑む直前と思われる姿だった。


「まさか、この”オーブ”を持ち帰ったのって……!」


「ああ、失念していたよ……このオーブを回収したSクラス冒険者コンビの苗字は……”オルコット”」


「セシルさんの……ご両親……!」


 僕の記憶より少しだけ若々しい父さんと母さんは、オーブの向こうから優しく微笑んで……。

 僕の頭の中に、”遺失魔法”の”古代術式”の情報を教えてくれるのだった。



 ***  ***


「これは本物の……”遺失魔法”の一部……! これは本当に凄い事だぞセシル君!!」


 驚くべき成果に、イレーネ教官が狂喜乱舞している。


 その横で、自分の魔導通信端末に映る両親の映像を見る僕。

 ルイが映像の情報をオーブからサルベージして、僕の端末に移してくれたのだ。


「ふふっ、こんな所で父さん母さんの姿を見られるなんて……ありがとうルイ、キミのお陰だ」


「いえ、わたしも大変興味深い体験でした……それにセシルさんの手の感触、嫌いじゃありません」


 嬉しくなり、ルイをなでなでする僕。

 彼女は少しくすぐったそうにはにかむ。


 夏の夜、僕たちの研究所内に穏やかな空気が流れていた。


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