第3-4話 【ギルド転落サイド】ウソ、魔導の外部委託、高すぎ?
「アキムよ、最近の魔導技術とやらには人の温かみが無いと思わんか……!」
ここはカント共和国大統領府、終身大領領であるキリルの執務室。
「はい、大統領! 全くその通りでございます」
突然キリルに呼び出されたギルド長アキムは、大統領の良く分からない演説を聞かされていた。
「まったく嘆かわしい……戦いと言うのは、肉を切り、骨をきしませ行うものなのだ」
「そうやって守り抜いた国にこそ、価値がある……肉体のぶつかり合う戦いの犠牲の上に成り立った繁栄にこそ、民は感謝するのだ」
「は、はい……おっしゃる通りで」
「だが、一国のトップとして、いつまでも無視は出来ん……アキムよ」
「は、なんでございましょう?」
次に続くであろうキリルの言葉を予期し、嫌な汗をかくアキム。
「貴様が我が国の”魔導革命”を指揮するのだ……予算は付けてやる」
予想通り、大領領からアキムに無茶な命令が下されたのだった。
*** ***
「全く……キリルさんも無理を言ってくれる……”魔導革命”の事なぞ、ギルド内に分かる人間などおらん……」
”魔導革命”……10年程前から始まった、魔法を使った産業革命である。
冒険者くらいしか使わなかった魔法を、”魔導”として技術体系化……いまや人々の生活は”魔導”により大きく変わりつつあり、それは田舎の島国であるここカント共和国も例外ではないのだが……。
基礎技術は帝国の大企業ががっちりと押さえているのため、国内に”魔導”のことがわかる人間なんて、皆無なのだった。
「ということで、頼むぞ我が優秀な秘書よ!」
「……はぁ、ボーナス弾んでくださいよ?」
上から下への無茶ぶりはさらに下へと無茶ぶりされる……縦割り社会の美しい構図である。
「……ああそういえば、セシルの奴が以前”ギルドへの魔導技術の導入について”と言う提案書を出してましたな」
「内容はさっぱり理解できませんが、とりあえずこの提案書に従ってみればいいのでは?」
ふとセシルがしきりに魔導の導入をアピールしていたことを思い出したのか、適当な提案をする秘書。
「おお、そんな良いものがあったのか! セシルのボンクラもたまには役に立つじゃないか!」
「よし、それでいけそれで! 金は大統領府が出すから、適当に外部講師でも企業でも見繕っておけ!」
「ぐふふ……これで俺は共和国内に”魔導革命”を起こした革新者となるのか……次期大統領の座も狙えるな……」
だから、セシルの提案を握りつぶしてたのはアナタでしょう……荒唐無稽な妄想に沈むアキムを呆れた顔で見ながら、計算高い秘書はなるべく中間マージンをたっぷり取れそうな外部業者を探すのであった。
*** ***
「……ということで、魔導体系は20年前に帝国のジオット社の主任研究員が……」
神経質そうな顔をした講師……魔導技術の指導を委託した外国企業が派遣してきた……の退屈な講義を聞きながら、アキムは次々にこみあげてくるあくびをかみ殺していた。
一応責任者なので聞いているが……眠い。良く分からない。
先日から2週間の予定でギルドに魔導関係の外部講師を招き、基礎研修をやっているのだが……正直現在のギルドに魔法使いは少ないので、素養のありそうな者や、リーダークラスのギルド構成員を無理やり出席させているが……会議室を見回すと、ほとんどの出席者が居眠りをしている。
全くけしからん!
あとで罰金だな……自分の事を棚に上げて怒るアキム。
この基礎研修には、総額3000万センドの金が掛かっている……この後、実践研修でまた金がかかる予定だ。
まあすべて国の予算から出ているので、どうでもいいのだが。
しかしさっきから眠い……おいおい、参加者全員寝ているじゃないか……ZZZ
何か甘い臭いがした……アキムがそう感じた瞬間、彼の意識は深い眠りに落ちて行った。
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「くっ……不覚……こんなに眠り込んでしまうとは」
「な!? 講師の奴はどこに行った……まさか」
数時間後、泥のような眠りからアキムが目覚めると……会議室にはいまだに眠りこける出席者の姿があるだけで、講師の姿はどこにもなかった。
嫌な予感がしたアキムは、執務室に急ぐ。
「畜生……やられた!!」
そこで彼が見たのは、無残にもこじ開けられ、中身が空になったギルドの金庫だった。
くそ、あの外部講師の仕業か……だがこの金庫は簡単には開けられないはず……まさか、秘書の奴もグルだったのか……!
慌てて金庫のもとに駆け寄るアキム、そこにメモが残されているのに気づく。
”もうアナタには付き合いきれません。 退職金代わりにもらっていきます”
全てを察したアキムが絶叫する!
「くそおおおおおっ! あの野郎、やりやがったなあああああああっ!!」
秘書が招き入れた魔導の外部講師は盗賊だった。
アキムのギルドは、国から預かった魔導革命の予算も含めたすべての現金を持ち去られてしまったのだ。
セシルの脱退から始まったギルドの崩壊は、もう止められないところまで進んでいくのだった。