第3-3話 特A科クラス、初めての共同作業
茂みから現れた3体目の上位魔獣オーガ。
クレアとカイ、ふたりの特A科クラスの生徒が、奴に対峙する。
「よし、クレア準備おっけー!」
「この魔獣なら……オレが攻撃を受け止めるから、クレアは牽制をお願いするっす!」
「りょーかい、カイ君」
「……クレア、”付与”の希望はあるかい?」
戦闘開始前に戦い方を検討……いい傾向だ。
僕は、クレアに問いかける。
「”魔弾”はあまり効きそうにないんで……”ドラゴンブレス”お願いできます?」
「わかった……魔法付与、”ドラゴンブレス”!」
先日、学院のダンジョンでプチドラゴン型の魔獣から”翻訳”した術式を彼女に付与する。
「そんな……魔獣が使う魔法ですよ……!?」
背後でルイが息を呑むのがわかる。
彼女の”常識”では考えられないことのようだ。
「セシル教官、ありがとうございますっ♪」
「それじゃあ、行きます!!」
クレアの掛け声とともに、オーガに挑みかかるふたり。
「こっちこっち! ……はあっ!」
ブオンッ!
左右にステップを踏み、オーガを挑発するようなしぐさを取ると、牽制の魔法を放つクレア。
「ほ、ほんとに”ドラゴンブレス”を……!?」
次々と”魔獣の魔法”であるドラゴンブレスを放つクレアを、信じられないという表情で見つめるルイ。
絶え間なく浴びせかけられるドラゴンブレスに、イラついたであろうオーガがクレアに飛び掛かる。
「チャンスっす!」
ガシイッ!
隙を見せたオーガを、横から防御魔法を展開したカイが抑え込む。
「ナイス、カイ君!」
「はああああああっっ!!」
ズドオオオンッ!
動きを止めたオーガに対し、十分に魔力を込めたクレアの拳が炸裂する!
ズウウウン!
断末魔の声を上げる間もなく、倒れ伏すオーガ。
「へへっ、やったね♪」
ハイタッチするクレアとカイ。
「……お見事ですが、教官が手助けするのは反則では?」
「ふふっ……クラスはチームでもあるからな……連携するのは当然だろう?」
「……む~」
「特殊部隊のエージェントはひとりで戦う事も多いのに……」
ぷくっ、と不満そうに頬を膨らませるルイ。
なるほど……彼女が特殊部隊から来たのなら……単独行動することも多いのかな?
ふふっ……このクラスに来たからには、チームで戦う事を覚えてもらうぞ?
「へへっ、仲間はいいものだよ、ルイちゃん」
「……でも、仲間はいつか、いなくなります」
「あと、わたしは子供じゃありませんので、”ちゃん”呼びはやめてください」
「おおぅ、カワイイこと言っちゃって……うりうり」
「むぅ~、つんつんしないでください」
”仲間はいつかいなくなる”か……この子にもいろいろ過去がありそうだけど……こういう時にクレアの人懐っこさは助かるな。
ダウナー少女は、ぐいぐい押していくのが大事なんだよね。
うんうん、と生徒たちの美しい友情にうなずく僕。
さて、そろそろか……”4体目”の気配を感じた僕は、構えを取る。
「セシル教官……?」
「群れのボスのお出ましらしいぞ……総員、戦闘準備!!」
ウオオオオオンンッ!
ドドドドドッ……!
僕が警告の声を発した瞬間、雄たけびを上げつつ斜面を駆け下りてくる1体の魔獣。
「くっ……黒色の体色……”グラン・オーガ”ですかっ!」
ルイが焦りの声を漏らす。
オーガの群れを統率する最上位種……さて、この子たちのレベルだと、僕も手を貸さないと厳しいな……特A科クラス全員の共同作業と行こう!
「大丈夫、わたし一人でやれます……”オプションビット”!」
ルイが僕たちの前に立ちふさがり、術式を展開させる……でも、いまの彼女では……。
「くっ……魔力が……」
ふらり、とルイの身体がふらつき、オプションビットの1機がかつん、と地面に落ちる。
「……ルイ、キミの”オプションビット”は凄い魔法だけど……操作や攻撃時の魔力消費に無駄が多い……ここを直さないとすぐにガス欠するよ」
「そうだな……ちょっと見てて、”オプションビット”!」
僕は、先ほど見て”翻訳”したオプションビットの術式を発動させる。
「えっ……まさか、わたしの術式を……!?」
「しかも、少ない魔力で動かせるように術式が最適化されている……」
僕が即座に”オプションビット”の術式を使ったことに驚いたのだろう……息を呑むルイ。
ふふん、”帝国標準術式”をベースにした応用術式……帝国のソレは体系化が進んでいるから、分かりやすいんだよね。
思わずドヤ顔をする僕。
「ルイ、2機ならまだ操れるだろう? 最適化後の術式はあとで教えるから、いまはグランオーガを!」
「クレア、カイも行くぞ……”ステータスアップ・S”!」
パアアアアアッッ!
「!! 上級能力強化系魔法!? 帝国軍でもあまり使い手がいないのに……!」
「うおおお、力が湧いてくる……セシル教官、ありがとうございますっ!」
「オレの防御、鉄壁っす!」
「行くぞ、特A科クラス、戦闘開始!!」
*** ***
「……よし、これでクエスト完了だ」
「みんなもいいコンビネーションだったぞ」
「へっへ~、見た? あたしのフィニッシュブロー! 鮮やかだったっしょ!」
「クレアは教官のブースト抜きであれを使えるようにするべきっすね」
「ご指摘のとおりでございます」
10分後、見事グランオーガを退治した僕たち。
「……ぽえ~」
はしゃぐクレアとカイとは対照的に、ぽかんとしているルイ。
「まさか、これだけの魔力消費で倒せるなんて……」
「それにしてもセシルさん……わたしの術式は特殊部隊仕様なんですよ?」
「あっさりと”翻訳”するなんて……規格外すぎます」
「でも、ここならわたしは成長できそうです……改めてよろしくお願いします。セシルさん」
僕のことを認めてくれたのか、わずかに笑みを浮かべた彼女はぺこりとお辞儀をする。
「それと……」
ルイは、てててっ、とクレアとカイのもとに走っていく。
「……えっと、クレアさん、カイさん。 生意気言ってごめんなさい……クラスメイトとして、よろしくおねがいします」
「か、かかかかかっ……かわいいいいいっっ!!」
ぎゅっ!
「むぎゅう」
非礼を謝る素直なルイに、感極まり彼女を抱きしめるクレア。
ようやくそろった特A科クラス……彼女たちはいいクラスメイトになれそうだ。
春の風に吹かれながら、僕は確かな手ごたえを感じていた。
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