第1-1話 主任魔法使い、ブラックギルドを見限る
「攻撃魔法? そんなものウチのギルドでは必要ねえんだよ!」
「俺の体力5000を削るのに、お前のちんけな花火を何回当てる必要がある? その前にお前は魔力が尽きるか、間合いを詰めた俺の一撃であの世行きさ!」
「がははは、ちげぇねぇぜボス!」「お前ら魔法使いは、おとなしく補助魔法で俺たちをサポートしとけばいいんだよ」
多様化する魔獣に対抗する為に、ウチのギルドでも”攻撃魔法”の導入を……僕のまっとうな提案に対し、ギルド長のアキムをはじめ、取り巻きの連中から罵声が浴びせられる。
ここ辺境の島国カント共和国では、物理攻撃至上主義が幅を利かせ、僕のような魔法使いは日陰者扱いだった。
あっさりと提案を却下された僕は、とぼとぼと自宅に向かって歩く。
僕の名前はセシル。
一応、冒険者ギルドの主任魔法使いであり、ギルド内の魔法使いを束ねる立場だが……今所属しているギルドではハズレポジションというしかない。
「まったく……上から下まで脳筋ぞろいと来た……やってらんないよ!」
思わず道端の小石を蹴る僕。
カント共和国の冒険者ギルド長のアキムは魔法嫌いで有名であり、彼の治めるギルドでは、魔法の使用は回復魔法と能力向上系の補助魔法に限定されていた。
彼曰く、攻撃魔法の術式を唱えるより、殴った方が早い……ヒドイ言い草だが、彼がトップなのだからどうしようもない。
転職したい……そう思うが、アキムは共和国の大統領と仲が良く、タッグを組んで僕たち魔法使いを迫害している。
共和国内での転職は厳しそうだった。
僕はため息をつくと、冒険着の内ポケットから一枚の板を取り出す。
縦15センチ、横8センチくらいの透明な板で、板の表面にタッチすると一瞬複雑な術式が表示され、板の中に鮮やかな映像が浮かび上がる。
海を挟んだ北にあるファレル帝国……そこの大企業が開発した魔導通信端末である。
”魔導技術”の粋を集めた芸術作品……先日、ようやく共和国でもサービスが始まったので早速購入したのだ。
離れた端末間でメッセージや映像をリアルタイムで交換したり、ダンジョンの自動マッピングなどの画期的な機能を持つのだが、アキムに言わせると”ただのおもちゃに高い金を払えるか!”である。
この凄さがわからないとは……思わずため息をつく僕。
いるんだよなぁ……新技術に対して理解しようともせずに拒否反応を示す老害が……それが自分の上司と言うのが救いようがないが。
ん? 僕は魔導通信端末の画面に確認メッセージが出ているのに気づく。
「”あなたへのオススメ! 上司に評価されていないと感じたら、スキル診断してみませんか?”」
「なんだこりゃ? 広告か?」
普段なら無視して閉じるその広告も、やけに自分の現状とマッチしている気がして……僕は思わずそのメッセージをタップしていた。
その途端、画面に表示される”スキル診断アプリ”の文字。
”魔導センサーに親指を置いて……魔力を込めながらいくつかの質問に答えてください”
微妙にあやしいメッセージに、引き込まれるようにして操作を続ける僕。
1分ほどの時間が経過した後、画面に表示されたスキル診断結果は……。
……
……絶対魔法感覚
……魔法翻訳
……魔法付与
……
スキル組み合わせの出現率……1億分の1!?
はぁ??
思わず間抜けな声を上げる僕……確かに僕は表示されているスキルを持っていると思うけど……1億分の1の出現率だって?
この数字が確かなら、僕のスキルは世界に5人もいない超絶スキルという事になる……ギルドで役立たずと言われてる僕が??
……はあ、広告にありがちな誇大表現か。
即座に冷めた僕は、”転職スカウトサイトにこのスキルを登録しませんか!”とのメッセージに適当に「はい」を選ぶと、魔導通信端末をカバンに放り込み、夕食を食べる為に食堂へ向かった。
食堂でやけ酒した僕は、転職サイトに登録したことなど、すっかり忘れていたのだった。
*** ***
「……うう、頭が痛い……仕事行きたくない」
翌日、二日酔いの頭痛で目覚めた僕は、ベッドから体を起こすと、なんとなく自分の魔導通信端末を開く。
そこには……。
「……はぁ!? 僕へのスカウトが……1000件以上!?」
一瞬で目の覚めた僕はベッドから飛び起きる。
端末の画面は”あなたにスカウトが届きました”の通知で埋め尽くされている。
そういえば昨日”転職スカウトサイト”に適当に登録したんだった……帝国で流行っていると噂の、架空請求だったらどうしよう……そう思いつつ、もしかして……どこかで期待する僕は震える指で通知を開く。
「な……これって!?」
……
……XXXXテクノロジ主任研究員 月給10万センドより
……ファレル帝国冒険者ギルド所属勇者パーティ 報酬は交渉に応じます
……アスレイド王国宮廷魔術師 年俸200万センド保証
……
「えええええええええっ!?」
表示されたのは、僕に対する好条件スカウトの嵐だった。
こ、これ本物なんだろうか……でもすべてのスカウトメッセージに署名が入っているし……。
僕でも知ってる大企業に、高名な勇者パーティ、小国だが宮廷魔術師のお誘いまであるぞ……ちなみに、現在の僕の月給は2000センドである。
スカウトメッセージを一つ一つ開くうち、僕の疑問は確信に変わっていった。
やっぱり、僕のスキルは超絶レアスキルだったんだ……!
アレ?
こんなド田舎の脳筋ブラックギルドで働く必要なくね?
その可能性に思い当った僕は、いつも机の中に準備していたものの、勇気が無くて渡せなかった”ギルド脱退届”を取り出すと、大急ぎでギルドに走り……受付の野郎に叩きつけるのだった。
こんなブラックギルド、逆追放だ!!
「ちょ、まてよっ……!」
ぽかんとした後、慌てて話しかけてくる受付を無視し、僕は外へ駆け出す。
やばい、これ……超気持ちいい!!
目の前に広がる青い空……僕は自分の人生が大きく動き出したのを感じていた……!
*** ***
「アキムさん、いきなりセシルの奴が辞めやがりましたが……大丈夫ですかね?」
セシルから叩きつけられた脱退届を持ち、微妙に不安そうな表情でギルド長であるアキムに相談する受付。
「ふん……もともとアイツは反抗的で気に入らなかったんだ」
「補助魔法と回復魔法の使い手は十分いるし、全く問題ねぇよ」
雑魚犬が最後に手を噛んできやがった……全く意に介さないアキム。
主任魔法使いであるセシルの脱退……この意味を彼らは全く理解していなかった。
新連載です!
転職から始まる学園ものになります。
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