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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある日TSしてしまった元少年がいきあたりばったりで手作りチョコをお世話になった友人に渡そうとしていきあたりばったりするお話

作者: 南流華

初投稿です。

読みたいから書いた。

いや書きなぐった。

14日の間に投稿しようとしたけど間に合わなかったみたい。

 俺、川元夏樹! 多分どこにでもいるなんの変哲もない陰キャオタク! クラスの隅っこで縮こまるのが定位置さ!

 だったはずなのに、高校1年の夏休みのある日、目が覚めたら突然体が女の子になっていた!!

 なんかこういうのってめっちゃ美少女になるような気がするんだけどそんなことはなかった。相変わらずクラスの日陰できのこを生やすのがちょうどいいくらいの陰キャガールになっただけだった。しかもめっちゃ視力落ちてメガネが手放せなくなった。あれ、何一つ良いことなくない?

 ということがあったのも半年前、とても大変だったような気がしたけれど今はもっと大変な事態に直面していた。

 去年までなんの縁もなかったはずの2月14日(日)バレンタインデー当日に気がついたらなっていたのである!!

 いやまぁ休日だし後日でも良いような気がするんだけど、男の体にだった経験があるからわかる。この手のチョコは当日が終わるまでにもらわないとどうしようもなく致命的に何か強烈な敗北感に苛まれてしまうのだ!!!!もらったこと無いけど!

 そんなわけで大変な時期に大変世話になったマンションの下の階に住んでいた冴えない友人こと佐々木クンくらいにはそろそろ落ち着いてきたし何か恩返しのひとつやふたつ……では済まないレベルの恩があるのでここらで負債を返済しないといけないのだが!!!!

 アホな俺はバレンタインデーの当日昼過ぎにようやくその事態と直面してものすごく急いで街中駆け巡ってチョコの材料を探しているからこんな大慌てな回想をすることになっている!!!!!!!!!!

 

 

 軽装に着替えて見切り発車で自転車に飛び乗る。スマホと財布だけ握りしめてて他に何も荷持がない。いつも通学で使用している自転車は何かしら教科書だの筆記用具だの色々なものをかばんに詰めて載せていたのでこころなしかペダルを踏む足が軽い。

 そもそも手作りチョコに何が必要なのかもわからないままなのだがそういうのは大型スーパーにたどり着いてからチョコ売り場を探しながらスマホで検索しながら。良い子のみんなは歩きスマホはやめようね。俺は悪い子だ。あまりにも見切り発射だがそれくらい余裕がない。えーと型と溶かすチョコがあればいいだろ!? 良いってことにしてくれ。初めてなのだから不格好でも言い訳にはなるだろう、なるよね?

 一軒目の大型スーパー、チョコの在庫は……ある! ミルクの板チョコが5つ! 買った!

 型……型? 無い……終わりかもしれない。だがまだ諦めるわけにはいかない。買ったばかりの板チョコを自転車のかごに一応そーっと入れて再び町内を駆け巡る。スピードを出そうとしてかごに入れたチョコを見て少し減速。やはり背負えるかばんくらい持ってくるべきだったかもしれない。

 さぁ次は駅構内の100円ショップ! かごのチョコを取り出して店に急ぐ。あまり厚着をしていないつもりなのだが走り回ってたせいかものすごく汗が溢れ出てくる。袖で額の汗を拭い店に入るが暖房の温風が熱い。肺に取り込む空気が夕暮れの冷えたものから生暖かいものにいきなり変わって気持ち悪くなるがこんなところで止まってられるほど時間に余裕がない。

 お弁当の入れ物入れのコーナーに目当ての型は……あった! もうこれでいい! プラスチック製の星型とハート型のものを雑に鷲掴みしてレジへ駆け込んで会計。ついでにレジに置いてあったミルク味の板チョコの在庫3つをいただく。これで足りるかはわからないが一旦これで帰ろう。

 板チョコ合計8枚に型が2つ。足りるかはわからないけどもう他にお店の心当たりなんてコンビニくらいしかないし、時間もないのでこのまま急いで帰ってチョコ作りを開始しよう。買ってきたものを自転車のかごにそっと入れてなるべく衝撃を与えないように、かつできるだけ急いで自転車のペダルを踏む。ふくらはぎもふとももも悲鳴をあげてるが、それ以上に息が苦しい。痛い。辛い。なんでこんなことしてるんだっけって思うのを耐えて、ようやく身につきつつあった女らしさをかなぐり捨てた立ち漕ぎで一歩でも前へと駆けていく。信号待ちの僅かな時間も、横断歩道の車の通りも何もかもがまどろっこしい。急げ、急げ!

 走ること約10分、いつものペースだと15分かそこらはかかるのではないかという距離を駆け抜け駐輪場に自転車を停める。エレベーターは……来ない。遠い。このマンションの最上階の10階に止まるエレベーターを待つなら我が家の4階までは階段で駆け抜けたほうが早い。踵を返して1段飛ばしに駆け上がる。買い物で駆け抜けて既に満身創痍の脚に鞭打って階段を上がる。顎から流れ落ちる汗が階段を濡らしていった。



 やっとたどり着いた我が家。急いでチョコ作りを行いたいがまずは手洗いうがい、そしてなにより汗だくの顔を冷水で洗い流す。まだ冬場の水道水はキンキンに冷えてて犯罪的に気持ちよかった。

 思わず手にすくった冷水を数回飲み干す。激しい運動の後の冷水ってなんでこんなに美味しいのか。時間を忘れて夢中になってしまう。結果余計に時間かかってしまい急いだ時間が水の泡になった。しかしうなだれてる時間もない。再びスマホを開いて今度は買ってきたものを使って調理をしないといけない。調理経験が無に等しい俺は我が家の調理器具がどこにあるのかを探すところから始まってしまい、ボウルにお湯を張れた時には外が完全に真っ暗になってしまっていた。

 買ってきた板チョコをバキバキに折って湯煎をして溶かしていく。が、思ったより全然溶けない!? 溶けろ溶けろと温まったボウルに押し付けるもチョコが折れたり変形したりするだけで全然液状にならない。焦る。すごく焦る。なんせ溶けないとお湯を温めるところからやりなおしなので時間との勝負だ。四苦八苦しながら一つ板チョコを溶かしてから気づいたが部屋の暖房を入れてなかった! 通りで全然チョコが溶けないしお湯はどんどん冷めていく訳だ。急いで暖房を付けて湯煎再開。

 アッツ!!! とチョコとお湯と暖房との戦いは主に自分の汗がチョコに入らないように気をつけながら無事8枚溶かしきった。ミッションコンプリート。ドロドロになったチョコの液体にガッツポーズ。あとはこれを型に流し込んで冷やせばオッケー!!

 ……と思ったがこれをどうやって型に流し込めばいいんだ?

 チョコまみれの手を一旦お湯で洗い流し、再びスマホでチェック。えーとおーぶんしーと? こるね? えーと……ココアもいるの!? チョコが冷めないように戸棚からココアを探し出す。あった。セーフ!!

 チョコを保温してたボウルのお湯を一旦捨てて冷水へ。冷やしながら人肌くらいになるのをゴムベラで混ぜつつ待つ。なんか思ったよりもどかしい。

 程々に冷えたチョコにココアを適量入れてでぐるぐるかき混ぜてココアの粉っ気が無くなったのを確認する。少し持ち上げてドロドロと流れ落ちるのを見たりして入念にチェック。大丈夫そう。

 オーブンシートを先細るような筒状にまるめて、そこにゴムベラを使いながらチョコを流し込んでいく。ゆっくりと型へチョコを絞り出すように、ゆっくりと。

 いくつかの型に流し込んで、冷蔵庫にしまい込んで……あとは冷えて固まるのを待つだけ。

 ハート型になったチョコを見て「俺、チョコ作れたんだな……」としみじみとぼやく。なんか感動よりも出来たことに対して自分で自分に驚いた。

 しばらく暇になったのでいまさらのようだが汗だくになった体をシャワーで洗い流すことにした。チョコ渡すにしても汗臭い女から渡されるのはいくらなんでもあんまりだろう。

 流石に半年もしたらいくら異性になった自分の体といえど慣れたもので、丁寧にシャンプーにトリートメントにと済ませていく。半年前はうなじくらいまでしかなかったショートヘアも今となっては肩の先まで伸びて、セミロングと呼べるくらいになっていた。

 こういった慌ただしい時でも毛先までトリートメントを浸透させるのは忘れない。こういったケアをサボるとすぐに枝毛まみれになるのだ。女になって自分の体にすらドギマギしてたり、自分の体なのに思うようにならず四苦八苦してた時期が懐かしく思う。冬場の乾燥は本当に手強い相手だったなぁと髪をいじりながら思う。今でこそパサついてない毛先だが12月ごろは毛先が縮れてそれはもうケアが大変だったのだ。結局傷んだ髪は少し切ったし。

 昔を懐かしみながらゆったりとシャワーを浴びていたらいつの間にか30分も経過してしまったので残りは手早く済ませて風呂場を出る。体を拭いて着替えて保湿して、一旦髪はタオルで巻いて一旦冷蔵庫のチョコの様子を見る。無事に冷えて固まっている。よし!

 髪を乾かしたら型から取り出そうと冷蔵庫にしまい直し、タオルで留めていた髪を降ろしてドライヤーで乾かす。半年もやってると無意識に手が動くようになってきたもので、これからどうしたものかと考えるくらいのことができるようになっていた。

 型からチョコを外して……はずして……あれ、そのあとどうしよう?

 ラッピングもなにも考えていないぞ。包装の準備もしてないし。え、これどうやって渡そう?

 時計を見ると既に時刻は20時。今から店に行こうにも間に合わない。なんと最後の最後でやってしまったことに気がついてドライヤーをしていた手も思わず止まってしまう。

 ゴーゴーと温風を発するドライヤーの音とカチカチと時計の針が鳴り響く部屋。まずい、やばい、どうしよう。

 あーもうどうしようもない!! ドライヤーを止めてなんかそれっぽい袋が無いか部屋中ひっくり返して探す。何かそれっぽいもの……!!!

 10分ほど探してめぼしいものは見つからず、仮に見つかったとしても店で買ったものと変わらないのではないかという自分の中でこじつけて中断、もうビニール袋とかそういうきれいな袋に入れて渡そう。見栄えより衛生面だ!!

 こういう思い切りだけは女々しさよりも男だった頃の踏ん切りの良さで今まで解決……いや今回も解決してはいないけど、対処してきたので諦めることにした。

 髪を整えて湯冷めしないような格好にまた着替え、チョコを型から取り出して新品のビニール袋へ割れないように入れていく。なんかチョコはいい感じに出来たのに包装がお粗末だなぁとやっぱり思うけど、もう今年はこれで行くしか無い。来年もまたやることになるだろうし、その時は反省を活かそう。そうしよう。初回なんだから失敗もある。

 

 

 包装も終わり友人こと佐々木クンにSNSで家にいるかどうかだけ確認。いやどうせ居るのは知ってたので「ちょっと家でまってろ」とだけ残して向かう。

 メガネをかけて玄関から出る前に軽く身だしなみチェック。一応、一応ね?

 手ぐしで髪を整えて変にハネてる髪がないのを確認。ポケットにスマホをしまってチョコの入った袋を握り玄関のドアを開く。

 外の冷気が顔に刺さるが、今から人生初のバレンタインチョコをその、女という身から、対象が異性となった相手、男にわたすのだという事実。そのことを再確認してしまい一気に胸の鼓動が早くなる。

 外の乾燥した空気を吸い込んで口の中はカラカラだし、聞こえてないはずの心臓の早鐘はうるさいくらいに脳みそに反芻する。

 一歩一歩とマンションのエレベーターに向かう足取りは重く、緊張のあまり手と脚が一緒に前に出るし冷えた外に出てるにも関わらず全身が部屋に居た時よりもずっと熱い。

 ようやくエレベーターの元へたどり着き、今のエレベーターの位置を確認。1階。また階段のほうが早い。踵を返して階段に向かう。今度は1段ずつ飛ばさないでゆっくりと、手に持つチョコを落とさないように、衝撃を与えないように慎重に降りていく。

 タン、タン……と静かな冬の夜に俺の足音が響き渡る。1段進むにつれてどんどん口の中の水分がなくなっていき、踊り場で折り返そうとしたときにはもう飲み込む唾は一滴も残っていなかった。それでも空気か何かを飲み込まざるを得なかった。もう目的の相手の扉が迫っているのだ。いや迫ってるのは俺なんだけど。

 ……いい加減覚悟を決めて行くぞ。女は度胸。女になったのつい半年前だけど。もう半年も経ってるのだ。手に持つチョコの袋をぎゅっと握り直し深呼吸。決意の炎を目に灯してまた1段ずつ階段を降りていく。

 降りた。降りきった。もう目的のドアまで数メートル。行くぞ、俺はこのチョコを渡すんだ。このチョコを渡したからって何というわけでもないしこれまで一方的に受けた恩を返せるとも思ってないけれど。

 305号室……ついた。ついてしまった。あいつの住む号室。インターホンを押したらきっとあいつが居る。居るはず。

 震える手震える指でインターホンを……………………押し、た。

 家の中からピンポーン、ピンポーンと反芻した音が聞こえる。あああああああどきどきする。インターホンの向こうの声を今か今かと待ってると、反応があったのはインターホン側ではなく、ドアの方だった。

 ガチャリと開くドア、恐る恐ると覗いてくる何度も見た冴えない顔、そして今からチョコを渡す相手。間違いなく友人クンだった。

 

 

「はいー?」

「ぁ……あの! これ!」

 のんきな返事に対してものすごい上ずった俺の声。なにこれめっちゃ恥ずかしい。

 押し付けるようにチョコを押し付けて思わず顔を背けてしまう。正直顔を見れない。怖い。反応が見たくない。

 ゆっくりと手元のチョコの重みが少しずつ軽くなっていく。やがて手元の重みよりも浮遊感が勝っていき、恐る恐る手を離す。落下音は特にない。良かった、無事に渡ったようだ。

「その、ありがとう……初めて女の子からチョコもらったわ」

「俺を女の子にカウントしちゃっていいのか?」

 自嘲混じりに返す。バレンタインデーも終わり際の夜に急に押しかけて押し付けるようなやつが?

 初めて作ったチョコ、しかもいきあたりばったりでろくに包装をしてるわけでもない。こんなお粗末なもので世の中の歴戦の女の子と張り合えるとは到底思えない。

「……今のお前をカウントしなかったら全世界から女の子が居なくなるんだが」

 え、それってどういう……?

 すると、急にドアが思いっきり開き、肩を捕まれて玄関の内側に引っ張られる。がしっと鷲掴みされたのでちょっと痛い。

「わわっ」

 引きずり込まれるように玄関の内側に入ってしまった。後ろでばたりと玄関のドアが閉まる音が聞こえる。目の前にはめっちゃ真剣な表情の佐々木クン。あの、そんなまじまじと見つめられると元からドキドキしっぱなしなのが限界突破するんですけど!?

「あ、あわ……その、お粗末なものですが……」

 覚悟はできてたつもりなのにいざこの場になったら頭は真っ白だし声は震えてるし顔どころか全身が沸騰してるかのように熱いし手汗どころか冷や汗とかなんかものすごいことに……。

「今年はもらえないと思ってたから、実は今もらえてるってことが自分でも信じられてないんだけど、もらって……いいんだよな?」

 恐る恐る確認をしてくる友人氏。こんなものでいいならいくらでもどうぞなんだけど……俺はもうキャパオーバーしてコクコクと頷くことしかできない。

「その、今までもらったことなくてこういう時にどう返せばいいのかわかってないんだけど、今めっちゃ嬉しくて夢か現実かもわかってないんだ……あとこれ聞いていいのかわかんないけど……これ本命ってやつ?」

 ほ、ほんめ……!?

「え、あ、あの、その……あー……これしか作ってないから……」

 そうじゃん、これ本命チョコってやつじゃん!?

 ああああー…………………

 頭とんだ。

 倒れそう。いや倒れる。もう体支えられないわ。

「あ、ちょ、おい?」

 ふらふらと倒れそうになるのを抱きかかえられる。ごめんな、もう俺はダメだ。

 ぐったりとうなだれてそのまま彼に抱きかかえられたまま俺は意識を失った。

 

 

 このあと、彼に抱きかかえられて家まで送ってもらうなど、大迷惑をかけてしまうなどをした。目を覚ました俺が真っ赤になったり真っ青になったり発狂したり落ち込んだり激しい高落下だった。

 が、こういったトラブル混じりなドタバタバレンタインの末友人から恋人になるなどをして、本格的に「俺」は「私」になろうとするのでした。

 

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