ぷっプの小さな冒険
ある所にぷっプがいました。
ぷっプには兄弟姉妹が99匹います。みんな白くて丸くて小さくてフワフワです。
ある日、ぷっプ達はお車に乗って湖に遊びに行きました。
「深く潜ってはだめよ」とママが言います。
皆、言いつけを守って湖の周りを走ったり浅いところで泳いだり木に登ったりします。とても賑やかです。
でも一匹だけママの言いつけをやぶっている子がいました。
ぷっプです。
ぷっプは、わちゃくちゃになるのが嫌で「少しだけ!」と深く長く潜っていました。
疲れた兄弟姉妹が葉っぱの上で寝始めたのを見たママは、ぷっプ達を回収し始めました。
「みんなお家に帰りますよー」
ママは99匹の兄弟姉妹を乗せた車を押してお家に帰ります。
「わぷー!」
皆を驚かせようと湖から飛び出したぷっプは、辺りが静かなことに気づきました。潜るのに夢中でママの声も皆が帰ってしまったことにも気づいていませんでした。
「わぷ? わぷ?」
ぷっプは慌ててあちこち探しましたがやはり誰もいません。
『きっとお家に帰ってしまったんだ!』そう思ったぷ乃介さんは一匹で走り出しました。お家から下って湖についたので、そのまま全速力で坂を下りました。
しばらくして大慌てのママが湖に戻ってきました。
「ぷっプ! ぷっプ!」
誰からの返事もありません。ママは途方にくれました。
そんなことは知らないぷっプは、走って転んで懸命にお家を目指していました。
でもお家とは反対方向なので走っても走ってもお家に辿り着くことはないのです。
ついにぷっプは道端で泣きながらうずくまりました。
その時です。
通りかかった馬車が泣いているぷっプに気づきました。
「おや? こんな所でどうしたんだい?」
見たこともない白くて丸い生物にびっくりしながら御者のおじさんが声をかけました。
「ぷじゃぷじゃ」
ぷっプは必死に話しますがおじさんには伝わらないようです。
「ふむ。迷子かのぉ。わしと一緒に来るか?」
おじさんは、ぷっプをむんずとつかむとカゴにぽいっと入れました。
こうしてぷっプは見世物小屋のおじさんと一緒に旅をすることになりました。
おじさんと一緒に馬車で町を巡ります。
おじさんの両手に乗る程の大きさのぷっプは、町につくと小さな舞台で踊ります。どの町でも大好評です。
一生懸命に踊りを覚えてお辞儀もして、沢山の町をぷっプとおじさんは周りました。
皆、ぷっプを楽しそうに見てくれるけれど、夕方になるとお家に帰ってしまいます。ぷっプはカゴの中のお家で眠ります。
最初は一匹で眠れて大喜びのぷっプでした。だって、いつもは兄弟姉妹の間でぎゅうぎゅうづめで寝るのです。誰かが寝返るをうつとぶつかって目が覚めることがよくありました。
けれど、段々と兄弟姉妹のいない一人寝が寂しくなってきました。
カゴのお家は誰にもぶつからないけれど、とても冷たく硬いのです。
兄弟姉妹ならぶつかって痛くても、とても暖かくて柔らかいのです。
「ぷじゃ・・・」
ぷっプは少し悲しくなってしまいました。
そんなある日、見世物小屋のおじさんは「ここらへんで初めてお前さんに会ったなぁ」と言いました。
カゴの中から見る森は、ぷっプのお家の木々に似ている気がしました。
「最近のぉ、お前さんの元気の無さを見て生まれた場所に返せという声が多くてのぉ」
おじさんの言うことは難しくてよくわかりませでしたが、しばらくするとカゴが開いたのでぷっプは飛び出しました。
「達者でな」
手を振るおじさんを背に、ぷっプはお家があると信じて森にまっしぐら。
走って走って走って。
走り疲れたぷっプの耳にせせらぎが聞こえました。
森に入ってから何度目かの夜がくるようです。
お腹が空いたなとぷっプは思いました。
ふらふらと向かった先には大きな池が見えました。
お水が飲みたいなと思ったぷ乃介さんでしたが、うまく動けずに落ち葉で滑ってぺしゃっと転んでしまいました。
つかれたなとぷっプは思いました。
とても静かです。
ぷっプはそのまま眠りました。
「ぷっプ!」
夢の中で大好きなママの声が聞こえます。何度も見た夢です。
今日は抱っこもして貰えて温かくて嬉しくて、ぷっプは眠りながら笑いました。
重くて暑いと思いながらぷっプは目を覚ましました。
あちこちに白くて丸い生き物が見えます。
ぷっプはびっくりして飛び起きました。体に乗り上げていた兄弟姉妹がコロコロと寝床から転がり落ちていきます。
「わぷぷー!!」
ぷっプはお家にいました。
夢だと思ったママは夢ではありませんでした。
ママはあれから毎日毎日ぷっプを探して方々の湖を尋ね回っていたのです。
喜んだぷっプはぴょんぴょんと飛び跳ねました。そして皆で手をつないで大きな輪を作りました。
そして、お家に帰りついたぷっプは、他の兄弟姉妹より少しだけ大きくなっていたそうです。