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中学時代のわたし


 誰かの注目を浴びるのが。この上なく好きだった。

 体育の授業で映えるプレイをすれば友達みんなきゃーきゃー言ってくれるし、勉強でいい成績を残せば先生たちが褒めてくれた。


 男の子のなんか熱のこもった視線とかも、そこまで嫌じゃなかったし、スペック高い男子に告白された時の周りの子たちの嫉妬と羨望が入り混じった反応とかも、結構気持ちよかった。


 その流れでわたしに敵意を向けてくることもあるけど、わたしがすごいいい子ちゃんを演じてやって、なんだかとんでもない敗北感を味わったみたいな顔になるのも含めて楽しかった。

 家族は――わたしに興味なんてなかったみたいけど、でもそれでも構わないと思った。

 だって外に出れば、わたしを好きになってくれる人ってたくさんいるもの。


 中学二年、わたしも例にもれず思春期を迎えていた。


 まわりの子が「〇〇くんかっこいいよね」とか、「〇〇と付き合いたい」とか、そんな話題に花を咲かせている時期だ。


 わたしも、付き合うならどういう男子だろ。なんてことを考えていた。

 それは単純な未知への好奇心で、間違っても愛とかそういうものではなかったと思う。

 ただ前提として、付き合うならやっぱり気持ちに響くような相手じゃないと嫌だという、恋に向き合うような姿勢は持ち合わせていた。



 だけど、どの男子もなんだか無難だなぁ、どこがいいんだろ、とかってうっすい印象しかなかった。

 どんなにイケメンでも、このイケメンの好きな友達がいたりすると途端に冷める。

 基本的に他人が興味を持つものに、抵抗を感じるのだ。

 インディーズ系バンドが売れちゃってメジャー入りしちゃうと、途端に熱が冷めちゃうっていう、あれと似たような現象かもしれない。


 六条タケルという男子のことを初めて目にしたのは、授業中だった。

 ちょうどそのころのわたしは窓際の席で、外に目を向ければ広い校庭を一望できるポジションを陣取っていた。


 階下で必死に走り回る人たちを見るのは、なんだか楽しかった。

 外でほかのクラスが体育をしているときとかは、よく授業の合間に外を眺めていた。

 微笑ましかったり、滑稽であったり、そういった感覚で退屈な授業を耳に入れながら、人の動きを目で追っている。

 マラソン大会の練習時期だったと思う。


 マラソン大会のイベントって、嫌っている人が多くて、ほとんどの人はまじめにやらない。

 一部にガチ系の人たちがいて、競ってトップを狙ったりするだけで、他はなんというか、消化試合みたいな感じだ。ふざけ合いながら歩いてる人たちばっかりだった。

 まじめにやれよ、とか思いながらそれらを眺めてると、トラックを何周もする男たちの中で、一人だけひと際綺麗なフォームで校庭を周回する男子生徒がいた。


 退屈な授業で、驚くほどまじめに取り組んでいる生徒ってのは、逆に目に入りやすかった。

 他の生徒同士が歩きながら談笑している横を、さっそうと取りすぎていく。

 嫌に目に入る子だった。

 そんな光景を頬杖しながら眺めているうちに、フォームがきれいだなぁっていうのに気づいた。

 ついでにいいなぁ、なんて思った。

 なにがいいかなんて特に考えちゃいなかった。

 ただ何となく、惚れ惚れしていたんだ。


 はっきり言ってその程度だ。

 好きとか嫌いとか、そんな感覚で物事を図っているつもりなんか一切なくて、ただ何となく良いなと思った。


 あとでその人物の名前が六条タケルってことを知ったとき、

 六条って苗字、声に出してみると結構イカスなぁなんて思ってた。

 タケルはふつーだけど。

 あと友達もその男子には全く興味がなさそうなのも良かった。


 とにかくわたしはその胸のときめきを、端的に恋だと定義づけた。

 中学生の恋なんて、たぶんそんなものなんだ。



 わたしは週明けに、誰の相談もなしに例の男の子――六条タケルに電話で告白した。

 誰かに相談してから判断するなんて、そんなつまんないことをして冷静期間を置きたくなかったんだ。

 勿論返事はOKだった。

 初カレシゲット! ってやつだ。

 まあ当然だとは思ってたけど、割と達成感はあった。

 あと、結構興奮した。こういう感覚は初めてだった。


 それからは以前友達から聞いていたようなことを実践した。

 まず夜は必ず彼に電話を掛けたし、登下校もなるべく一緒にするようにした。

 カレシできる前のわたしは、なんか面倒なことしてるんだなぁって、他の子たちのコイバナを聞きながら思ってたけど、なるほどって思った。

 想像してたよりも面白いのだ。

 相手の些細な反応とか、表情の作り方とか、そういうのをすぐ横で、しかもわたしのさじ加減で相手から引き出せるというのは、色々と新鮮な気分を味わうことができた。

 癖になる快感だった。


 いいじゃん、カレシ。

 馬鹿にできないじゃん。

 とまで思っていたのは、まあ最初の一週間ぐらいだけだったんだけど。


 週末に六条とデートした。

 まあ結論だけ言うと、ちょっとつまんなかった。

 カレが極度に緊張していたのもあるけど、見た映画が思いのほかグロくて盛り下がったのだ。

 映画観終わるころにはもう気分が萎えちゃってて、そのあとのお昼の会話も盛り上がらかった。

 初デートの印象としては、なんだこんなもんか、だった。


 そして週明け、カレとのやり取りもちょっとおざなりになってた。

 とはいえ、カレってあんまり我を出さないタイプだったから、わたしもそれに甘えてた。

 嫌いになったってことは、ないと思う。ただ気分がのらなかっただけ。

 それに気分が乗らない時の異性との会話ほど疲れるものはないのだ。

 まあ適当に相手して、また楽しそうなら色々からもうって気持ちで扱ってた。



 しばらくして、カレシの変な噂を耳にするようになった。

 いじめだの、ヘタレだの、泣き虫だの、あまりよくない噂だ。

「アキサ、あいつと付き合ってるってホント?」


 そんな風に友達との会話にも出てくるようになると、なんだかいよいよ鬱陶しく思いはじめた。

 そんなのわたしの勝手じゃんって感じだ。


「うっさいな、そんなわけないじゃん」


 いらだちを見せながら言えば、友達もそれで二度と口にはしてこなくなった。それが変な声をはねのけるには一番効果的だったのだ。

 実際、結構イライラしてた。

 自分のカレシの悪口を、友達の口から聞くのもムカつくし。

 それをネタに近づいて根ほり葉ほり聞いてくる他の男子にも腹が立ってた。

 だから話題にしない方が都合がよかったんだ。


 それっきり、カレと連絡を取ることをやめてしまっていた。

 というか、なんで向こうから連絡してこないんだって思ってた。

 わたしばっかり連絡するのは、どう考えたってフェアじゃない。


 だから連絡が来なくて、ずっとずっとイライラしてたけど、我慢してた。

 直接何か言ってくるまでは、絶対声なんてかけてやらないつもりだった。



 ――そんな悶々としていた日々にとどめを刺したのは、とある噂を耳にしたときだった。


「あのヘタレ、保健室に通ってるあの女と仲いいらしいよ」


 なんだそれって思った。

 わたしのカレシなのに、なんで他の女と仲良くしてんだ。

 今まで自分のものを誰かに取られるなんて、されたことなかったのに。


「それって誰なの?」


 気づいたら、友達に二人のことを詳細に聞き出していた。


「陰キャ同士仲がいいよねー。 アキサもあんなのと変な噂流れてかわいそー」


 友達は心底面白がってたけど、わたしはその時はらわた煮えくり返る気持ちだった。

 絶対許さないって、思ってた。


 私がまだわたしだった頃のことだ。

 


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ・やっぱり一週間。いろいろ違う上に、なぜ主人公の記憶は上書きされたのか?
[気になる点] 付き合っていた期間、告白の方法等、記憶に大きな食い違いがあることの真相は???
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