戦いの後は
また感想がいただけたので、先ほど書き上げたものをアップします。
感想をいただけるとモチベがあがるのでありがたいです。
パチパチと心地よい音を奏でて焚き木が燃える様子を静かに見守っていた。
夜は少し冷え込み、炎の温もりが心地よい。僕がボケーっと炎を見つめていると、火が弱まった事に気付いて小枝をパキッとわり火にくべる手があった。
「......ありがとう」
僕がその手を辿って顔を見ると満面の笑顔のゴブリンがそこにいた。
「ごぶごぶ」(いえいえ)
僕とゴブタロウはふたりで体育座りをして穏やかな時間を過ごしている。なまじ言葉が通じないので、一言、二言のやり取りしかない。沈黙が僕らの間ではスタンダードだった。それが、コミュ障の僕にとっては意外と悪くなく、正直に言うとアリかなとか思ってたりする。
「火を見てると落ち着くね」
「ごぶりー」
ゴブタロウは相づちの達人だと思う。僕の言葉を理解してるのかしてないのかわからないけれど、テンポよく言葉を返してくれる。僕たちはまるで、初めてキャンプに出掛けた初々しいカップルのような、たどたどしい会話をしていた。
「ゴブリゴブラ、ゴブゴブ」
「......へぇー」
何言ってるか全くわからない。ぎりぎりニュアンスがわかるのは3文字までだ。だからどうにか3文字に納めて欲しい。
今度は僕が小枝をポキッとおり焚火の中に投げ入れた。
「ゴブ」(ありがとう)
「いえいえ」
多分ゴブタロウは「ありがとう」って言った。うんきっとそう。
僕はおそらく、世界で初めてゴブリンと仲良くなった人間だと思う。昼間に後ろからゴブリオンに襲われた事からもわかるように、人間とゴブリンの仲は良くない。
運悪く出会ってしまったらやられる前にやれの精神で、すぐに争いが始まってしまう。お互いが相容れないものだと思っているからだ。
僕自身もそうだ、緑色の皮膚の生物、人間と共通する部分も多くあるけれど、知能は低く、野蛮で、邪悪それがゴブリンに対する評価だった。
ただ、それは間違いだったことが証明されてしまった。おそらくゴブリンには知識が......いや文化がないのだ。
ゴブタロウは初め、火をつける事も知らなかった。焚火をみて、「ゴブ!ゴブ!」と騒ぎはしゃいだ。僕は魔法でつけたけど、どうやらゴブタロウは魔法が使えないらしく、念のため持っていた火打ち石を使っても火を起こせることを教えた。
ゴブタロウの目はキラキラと輝き、口はぽかんと半開きになっていたので、「ゴブタロウもやってみる?」っと火打ち石を渡したら、「え?いいの?」みたいな感じでおそるおそるカチカチを繰り返して火をつけた。
一度見せただけなのに、当然のように真似して実際に火をつける。意外と器用で、人間と同じぐらい知能があるんじゃないかって僕は思った。
自分で火が点けれた事に歓喜して、無邪気に笑う姿をみて、ゴブリンに対する恐怖心という物が僕の中で消えたんだと思う。僕は無性に火打ち石をプレゼントしたくなって。気が付いたら口が動いてた。
「これ、ゴブタロウにあげるよ」
「ご、ゴブ?」(こ、これを?)
「うん」
「ゴブ、ゴブ」(ありがとう、兄さん)
「あはは、いいて、大したものじゃないし」
「ゴブリ!ゴブ、ゴブリ!」(大切にする!オイラ、大切にするから!」
「そ、そうそう、火を大きくしたい時はこうやって木を継ぎ足すんだ」
......僕たちはもう友達だよ。だってほら、焚火を囲んで一緒に暖をとった仲だもん。
長時間の体育すわりで凝り固まった体をほぐす為に大きく伸びをして息を吐く、後ろに仰け反ったまま手を地面につけ、綺麗な星空を眺めてふっと思った。
(僕は何をしてるんだろう?)
僕が冷静になりかけていると騒がしいやつらが戻ってきた。漆黒の剣とゴブキチとゴブゾウだ。
『わははは、見ろ小僧!大物じゃい!』
「ゴブルァ」
「ゴッブス!ゴッブス!」
ゴブキチとゴブゾウが今回仕留めたのだろう猪を自慢げに掲げ見せびらかしてくる。ゴブタロウはすげぇえ!というように称賛の声を送る。反応が素直だ。
『よし、ゴブキチ、ゴブゾウ火の中に放り込んでしまいなさい!』
「「ゴブ!」」
ちょ、うええええええぇぇえぇ?!
「待て、待てえええぇぇい!」
『なんだ小僧、邪魔をするな』
「いやいや、いやいや!そのまま焼くつもり?嘘でしょ?」
『ぬ?ダメなのか?』
「「「ブ?」」」
まるで分けがわからないといった表情を僕に向けて、オナラに似た発音をゴブリンたちがハモッてくる。ッくそ。
「いや、なんで僕が少数派なのさ!そうか、ゴブリンには焼く文化がないのか......」
『よくわからんが、やる事があるなら、小僧がやれ』
「う、うろ覚えだけど仕方ないか」
僕は魔法で吊るし台を作り、猪を吊るさせた。
『ほう、器用なものだな』
それから、熱めのお湯を魔法で作り、猪を包み込んだ。
『何をしているんだ?』
「まずは作業しやすい様に毛を剥ぐ、お湯につけると剥ぎやすくなるんだ」
『ふむ?』
包丁を使って毛を剥いでいく、結構上手にできたと思う。
「次は頭を切り落とす」
『よし!俺様に任せろ!!』
「うわ!危ない!!」
ジグが勢いよく剣先を振り回し、猪の頭を切り落とした。ゴブリたちは「よ!さすが師匠!!」というようにゴブゴブ叫んで、拍手している。太鼓持ちが様になっていた。
今度は腹を切って内臓を取り出す。不安定なところで腹を切るのは大変なのでジグにお願いすると簡単に切り裂いた。しかも、的確だ。腸と胃は汚いのでそのまま地面の穴に落として捨てる。次に膀胱も傷つけないように慎重に切り離し捨てる。
ゴブリンたちが「もったいない!」というように抗議の声をあげてくるが、「シャー―!!」といって黙らせた。
それから切れ込みを入れ皮を剥ぎ、なんやかんややって枝肉を切り分けていく。ここに来るとゴブリンたちは興味深そうに眺めて、生唾を飲み込んでいた。しかし、僕の目の前で生では食わさない。
僕は魔法で大量の水を生成して、生肉を軽く洗い、そして水にしばらく漬け込む。お肉は水を吸い込むだけでも柔らかくなる。ゴブリンたちが僕の意味の分からない行動にまだか?まだなのか?と作業机の端をバンバンして急かすので、「シャー―!!」といって黙らせた。
仕方がないので、もも肉を取り出し、切れ目を入れ、塩を塗り込んでいく、下味をつけたら鉄串をブスブスと刺して直火で焼いていく。鉄串を差し込むことで、鉄串が火で熱せられ、火が通りにくい中心部まで火を通す事ができる。
早速表面に焼き色がついて、脂がとけ火の中にこぼれ落ちた。火の中にこぼれ落ちた脂がジュッと音を立てると、一気に食欲を掻き立てる香ばしいにおいが漂ってくる。
ゴブリンたちはもう肉から目が離せないようだ。
今度は肉を切り分け、食べやすい大きさにしてから鉄串に刺していく、太ももをドガっと焼くより、こっちの方が食べやすいし、小さいので火の通りも早い。今日は全部串焼きにしてしまおう。ゴブリンたちにとってもその方がいいだろう。
下準備が終わり大量の串肉を運ぶと、ゴブリンたちから歓声が上がった。その反応、悪くない気分だ。
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