ゴブリンの襲撃 前編
カンカンカンと物と物がぶつかる音がして目が覚める。視界に広がるのは地面に生えた草どうして僕はこんなところで寝ているのか。
『オラオラオラァ!!次かかってこい!!』
「ゴブ!」
ジグの声で一気に覚醒して身を起こす。そうだった!僕はゴブリンに襲われて、それから不用意に寝てしまっていた。危険な場所で軽率に意識を手放してしまった自分に嫌気が差す。
しかし、反省はあとだ。ジグは僕が気を失っている間どうやら守ってくれていたらしい。それで今もゴブリンと戦闘中なのだ。
『バカもーーん!打ち込みが甘いわーーーー!』
「ゴブーー!」
僕が魔法を唱えようと構えた時に、勝負は決した。ゴブリンが吹き飛ばされゴロゴロと砂煙をあげている。
『ゴブキチ!ゴブゾウ!ゴブタロウ!』
「「「ゴブ!」」」
『整列!正座!!』
「「「ゴブ!」」」
......ん?
ジグの掛け声一つでゴブリンたちが横一列に整列して、正座した。
『ゴブキチ、お前はもっと足を使え、馬鹿正直に正面から行くな!』
「ゴブ!」
『ゴブゾウ、お前はもっと積極的に攻撃しろ、攻撃を受けて生まれた隙を逃すな!』
「ゴブ!」
『ゴブタロウ、お前は気合が足りん!一撃で仕留めるその恐怖を相手に植え付けろ!わかったな!』
「ゴブ!」
ちょ、ちょ、待て、待てええーーい。
「ジグこれはどういう状況?」
『ぬ?小僧やっと起きおったか、よし訓練はここまで、各自ストレッチを忘れるな!』
「「「ゴブ!」」」
ゴブリンたちがぎこちなくストレッチを始める様子をジグがうんうんと頷いて見ている。その眼差しは優しく教師然としている。
「いや、説明早く」
『さっきまで呑気に寝てたやつの態度ではないぞ』
「ジグ!」
『わかった、わかった落ち着け小僧』
なんで僕が悪いみたいになってるんだ。いや、悪い部分もあるけど。
『どこから説明したらいいやら』
「僕が気を失ってからだ」
ジグはやれやれとため息をついた後に僕が気を失った後の経緯を説明した。
僕が気を失った直後にゴブキチ、ゴブゾウ、ゴブタロウの3人に包囲されてしまったらしい。
だけど、3人は襲い掛かってくるわけでもなく、近くで倒れている僕を襲ってきたゴブリン、名をゴブニオンというらしい。そのゴブニオンが倒れているのを見て歓声を上げ、ジグに感謝を伝えてきたというのだ。
ジグが掘り下げて話を聞いてみると、ゴブニオンはゴブリン村の乱暴者で、常日頃彼らはイジメにあっていたらしい。
ゴブニオンの悪行の数々を聞いたジグは、ハラワタが煮えかえる怒りを覚えて、気が付いたら、ゴブキチ、ゴブゾウ、ゴブタロウを整列させて、『このバカちんが!』と言って3人をビンタしていたらしい。
......いや、なんでだよ。
ジグは3人揃って打たれた頬を押さえた涙目のゴブリンたちに説教をした。
『ゴブリン男子たるもの大志を抱け』
その言葉を皮切りにジグの熱血論が続く、ゴブキチお前に強さがあればゴブニオンの悪行を許したのか?、ゴブゾウ仲間がひどい仕打ちを受けて悔しくなかったのか?ゴブタロウもし第2、第3のゴブニオンが出てきたらどうするのか?お前たちはゴブニオンを倒すためにどんな努力をしたのか?っと
3ゴブリンたちはジグの説法を聞いて思うところがあったのだろう。
かつての自分を戒めるように手を握りしめ、ぼたぼたと涙を流しながら自らの太ももを何度も何度も叩いていた。
3者が同じく一糸乱れぬ動きで太ももを叩く姿をみてジグは確信したと語る。
『彼らなら、ジェットストライクアタックができるかもしれない』
もしここに氷入りのウイスキーがあれば誰も触れてないというのにカランと音がなっていただろう。目を伏せて語る物憂げなジグはそういう雰囲気づくりを大切にしていた。
ジグが片眉を吊り上げて、自慢げに『小僧、ジェットストライクアタックというのはだな......』という下りは、突入からイラっとしたのでスキップした。
それから、自らを師匠と呼ばせ、彼らを鍛える事にしたという。涙に濡れながらもやる気に満ちたゴブリンの目を見て正直ワクワクが止まらなかったジグは、手始めに木を切り倒して木刀と木の盾、こん棒を作りそれぞれに与えた。
僕は敵に塩を送るなと真剣に思った。
それから、今に至るまでずっと戦い方を教えていたらしい。
「お前なにやってんの?というのが僕の正直な感想だ」
ジグは僕の感想に反応するわけでもなく、返してくる。
『小僧、この木剣を持て』
不意に渡された木剣を思わず受け取ってしまった。
『ゴブキチ、ゴブゾウ、ゴブタロウ最終試験だ。集まれ!』
「「「ゴブ」」」
従順なるゴブリンたちがジグの元へ集まる。
『お前たちには、一対一で小僧と戦ってもらう』
「「「ゴブ!」」」
「何、勝手な事を!!」
『フン!小僧が不用意に奇襲を喰らった罰だ』
その言葉にぐうの音もでなかった。話は進み結局ゴブリンたちと戦う事になってしまった。だけどたった数時間稽古しただけのつけ焼き刃に、血の滲む僕の1年が負けるはずはない。
『まずはゴブキチ行け!!』
「ゴッブ!」
威勢の良い言葉と共にゴブキチが前に進み出る。
後編は7時に投稿します。