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君は仲間なの?

感想をもらえたので、調子にのって明日の分を今日あげておきます。

 僕のインテリジェンスソードであるジグは、魔法を受けてしばらくすると気絶してしまうらしい。


 静かになったジグを布で包んで背負い、パレードで騒がしい大通りを大きく迂回する形で街を出た。


 街を一歩出るだけで喧騒を置き去りにしたように急に静かになった。



 この街を出る時はもっと情緒が溢れてくるものだと思ってたのに、そんな感情はひとつもなくて、そんなことよりどうしようもなくここから離れたいと思っていた。


 ジグが言ったように、僕は逃げているのかもしれない。


 僕は17年間この街で生きてきたというのに別れの言葉を告げる人物がひとりもいなかった。周りが剣の鍛錬に励む中、僕だけは隠れて魔法の練習ばかりしていた。必然とひとりの時間が多く、友人関係は希薄で家を追い出されてからの1年はまさに孤独だった。



『小僧、街から出たのか』


「もう起きたのか、ずっと寝ていればいいのに」


『フン俺様は好きな時に起きて、好きな時に寝る。それでどこに向かって歩いてる』


「どこでもいいだろ」


『違いない。なら質問を変えよう。これからどうするつもりだ?』


「......」


『当ててやろうか?なにも考えてないんだろう』


「......」


『小僧、お前は何者になるつもりだ?国を乗っ取って王になるのが嫌なら、農民にでもなるのか?それとも浮浪者に落ちるか?ん?』


「......うるさい」


 僕は何者になるのか、答える事ができなかった。魔法の練習ばかりしていた僕は魔法使いと表現するのが正しいのだろう。だけど、魔法使いというのは下働きをする人の総称で、扱いは良くない。主人の為にお風呂を沸かし、食事を作り、掃除、洗濯など身の回りの世話をする魔法使いを好んで仕事にする人なんていないだろう。


『小僧......』


 家を追い出されてからどう生きていくか何度も考えた。でも答えを後回しにしてきた。家を追い出されてからは、選択から逃げるように今まで疎かにしていた剣術の練習をした。嫌な事から逃げて、違う嫌な事に精をだすなんてなんて愚かな行為だろうか。


 母からもらったお金を消費して、神石を斬ることを都合の良い言い訳にして1年を過ごした。


『おい、小僧!』


 僕は他の人より魔法が使えて、剣は他の人より扱えなかった。だから、本当は剣なんて必要なかったのに当たり障りのない理由をつけて意地で神石を壊した。


 それなのに、僕に授けられた剣はインテリジェンスソードという異端な剣。これは僕の愚かな行いの罰なのだろうか。


『ボケっとするな小僧!!』


「なんッぐ!?」


 僕は突然、後頭部を殴られた。地面に臥し揺れる視界でその原因を確認すると、緑色の小鬼、ゴブリンがいやらしい笑みを浮かべ踊るように喜ぶ姿があった。


『アホウが』


 迂闊だった。魔法を発動しようとしても上手くいかない。街を出れば魔物と遭遇するという事は知っていた。なのに頭からすっぽ抜けていた。警戒することを忘れ、考え事をしながら歩いていた。


 ゴブリンがニヤニヤしながら伏せて動けない僕をこん棒で突っついてくる。すると、ジグを拘束していた布が外れ、漆黒の剣が姿を現した。



 ゴブリンは歓喜の声をあげ漆黒の剣を拾い上げ、そして勢いよく上段に構えた。僕を刺し殺すつもりだ。


 普段死にたいと考えたことなどない。今だって生きたいはず。それなのにどこか死を受け入れている自分がいる。何者にもなれず、17年生きてきて、孤独が現状だ。こうやって誰にも認知されないまま死ぬのが運命なのだとあきらめの感情が芽生えてしまっていた。僕はどこで間違ってしまったのだろうか。



 僕は次の瞬間には剣を突き立てられ死ぬと思った。しかし、振り上げた剣はゴブリンの手から離れ、くるくると回転してゴブリンの首を撥ねた。


 漆黒の剣......ジグが宙に漂い冷たい瞳が僕を見降ろす。ゴブリンが死んでも僕の絶体絶命のピンチは変わらないらしい。僕を狙う相手が、魔物から魔剣に変わっただけだ。


『やれやれ、情けないぞ小僧』


「っく、殺せ」


『お前はどこの女剣士だ、殺すわけなかろう』


「......なぜだ。ジグは僕を殺して自由になりたいんだろ?」


『はぁ?小僧を殺したら、俺様まで消滅すると説明したはずだが?』


 ジグは魔法剣の継承の仕組みを知らないのか?


『いいか小僧、俺様はそんじょそこらのナマクラ剣とは違う、何が違うってそりゃ一番は生きてるって事だよな。魂を燃やし続けるって言うのはエネルギーが必要だ。わかるな?』


「何が言いたい?」


『俺様を動かすエネルギーは小僧の魔力だ、小僧は気付いていないようだがこうやって近くにいるだけで強制的に魔力を吸い取っている』


「な?!」


『俺様の体は小僧の魔力と親和性が高い、つまり抵抗がない。まぁ、近くにいるだけで魔力が吸い取れるのは便利でいいが、欠点もある。抵抗がないという事は小僧の魔法に抗う力がないという事だ。小僧の魔法を喰らうと魔力回路に傷がつく、修復するまで意識が途切れるからやめろ』


 ジグは僕の魔法を受けた後はしばらくして静かになっているのにはそんな理由があったのか。


『例えば、今小僧を殺して魔力をありったけ奪ったとしよう。それで俺様が生きられるのはせいぜい1週間ってところだろうさ』


「1週間......」


『そうだ。まるで意味がねぇ。俺様は俺様の為に小僧を生かし続けるのさ、クックック、例え小僧が死にたいとほざいても......死なせやしねぇ』


 つまり、ジグは本当に僕を殺せないってことなのか?


『フハ、フハハハハ良い表情をするではないか!!そうだ!やっと気づいたか小僧!!お前が俺様を所有しているのではないぃぃ!俺様は既に自由!......バカだのう小僧は俺様の贄でしかないんだよ!!フハハハーハハ、フハハハハ!!』


「......なんか、疲れた」


 なんだよそれ......つまり、ジグに命を狙われる危険は全くなく、逆に危険が迫ればジグが積極的に守ってくれるってことじゃないか。


 一番身近な命の危険性がなくなったおかげで急に眠気がおそってきた。後頭部を殴られた衝撃もあるだろうけど、昨晩おっかなくて全然眠れなかったのが原因だろう。


『おい、小僧!寝るな!馬鹿なのか?お前は馬鹿なのか?』


「......」


『おまっ!えええええええ?!寝る?!普通平原で寝る?!ゴブリンいるよ?!正気か?!』


 頭はズキズキと痛むし、僕の剣は口うるさいし最悪だ。今回の事でまたわかった事がある。僕のインテリジェンスソードは一応僕の仲間ポジションではあるらしい。

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