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己の剣との出会い

 僕は何度も何度も剣を振るった。綺麗な球体だった神石も今では不格好なゴツゴツしたものになっている。


 傍からみれば無様であったに違いない。みんなが一刀両断する中で僕はというと何十回と剣を振るっても剣筋を付ける事も叶わず、僅かばかり削る事しかできない。


 こんな僕に居場所はなかった。今まで疎かにしてしまった僕に非はある。この状況を引き寄せてしまったのも自分だ。


 家を追い出されてからの一年は一心不乱に剣を振り続けた。それでも現実は目の前の神石が物語っている。この一年の努力も無駄だったと示されているかのようだった。


 僕は今日この国を出る。その為になんとしてでも神石を斬り、意地でも己の剣を手に入れる。


 剣の才能がない僕に与えられる剣は、平凡な剣だろう。それはわかりきったことだ。でも自分だけの剣というのはやはり特別だ。それに、神から授けられた剣は破壊不可の恩恵が付与されている。魔物が跋扈する外の世界を歩くためにもどうしても手に入れておきたい。


 それは剣で魔物を倒すという意味合いではなく、やり切ったという自分を認める儀式みたいなものだ。剣を手に入れなければ僕は、これから先何に対しても逃げ出してしまうそんな予感があった。



「みんなはどうして、こうも、硬いものを、斬れるんだッ!!」


 僕は不満を吐きながら何度も何度も斬りつける。その度に少しずつ神石が欠けていく。


 そしてついに訪れた。


「いい加減にしてくれよッ!!」


 僕が振り下ろした一撃で神石全体にヒビが広がりそして破裂するように砕けた。僕は息も絶え絶えに肩でゼーハーと呼吸してその様子を見守り焦った。


「あ......砕けちゃってもいいのかな?」



 これまで見てきた人たちは皆、一刀両断で神石を斬っていた。しかし僕はついに斬る事叶わず、壊してしまった。


 砕けた神石と手に持つ剣を交互にみる。本来起きるはずの剣の変化が始まらない。


「嘘でしょ?嘘だよね?嘘だといって!!」


 僕は半べそをかきながら、剣を祭壇に向かって捧げ祈った。本気で祈った。


「神様ー!!お願いします。剣をください!......剣くれぇぇええ!!」


 僕の誠心誠意溢れる祈りが届いたのか、剣が脈打つように光り輝きその形状が変化していく。


「おぉ......おお!おおおおおう!!!」


 僕は感動のあまりオットセイになっていた。


 光が収束して剣の全貌が明らかになっていく。刀身は全ての光を飲み込むような漆黒で傾けてみても光の反射はなく、触ればその硬質な感触がわかるのだけど、遠ざけると実体がないような錯覚さえする。


 僕の第一印象としては神から授けられた剣というには、禍々しいと思ってしまった。


『おい、小僧』


 突然声を掛けられ心臓が跳ねる。あわてて周りを見渡すが人の姿はない。


『おい、小僧』


「だ、誰だ?!」


『どこを見ている、こっちだ』


 気のせいか声は僕の足元から聞こえてくる。イヤな気配を感じる。恐る恐る視線を下げると足元を見る前に異質な視線と交わった。


 僕の手に握られている剣の刀身が影の様に揺らめいて、そこに浮かぶ瞳が僕を射抜いていたのだ。


「いいいいぃぃやーーーーーあああああぁぁあ!!」


 全身の穴という穴がブワッてしてキュッとなった。手に持っていた剣を投げ捨てて、慌てて祭壇の柱まで後退する。


 投げ捨てたはずの剣は地面に落ちることなく宙に浮いている。


『随分な事をしてくれるじゃねーか』


「なん、なんで剣が喋って......」


『俺様は魂を持つ剣、インテリジェンスソード』


「ひ、来ないで」


『俺様は......』


「来ないで!」


『おい、俺様は仮にも小僧が作り出した剣だ』


「......チェンジで」


『あん?』


「チェンジでお願いします!!」


『ッんな事できるかあぁーー!!』


「ひいいいいぃぃぃ!!」


 インテリジェンスソードと名乗った漆黒の剣は宙を滑空して勢いをつけて僕に飛び込んでくる。僕は反射的に迫りくる剣に魔法を唱えた。


 突如何もない空間から巨大な火柱が出現して、漆黒の剣を丸ごと飲み込んだ。


『あぎゃーーーーーー!!』


「ごめんなさいーーーーー!!」


 僕に剣術の才能はない。でも魔法の才能はあったらしい。貴族という出自から魔法使いの才能は隠す他なかったが、僕は剣の練習の何倍も魔法の練習をしていた。その結果僕はそれなりの魔法が使えるようになっていた。



 火柱が消えたあと、漆黒の剣はプスプスと黒煙を上げ、カランと地面に落ちた。地面に落ちた漆黒の剣は微動だにしない。死んでしまったのだろうか?


「あの......大丈夫?」


『ひっく、うぅぅぅ、ひっく』


 漆黒の剣からすすり泣く声が聞こえてくる。罪悪感が胸に押し寄せてくる。


「あの......」


『ひどいよー。生まれたら、主に投げ捨てられ、拒絶されて、燃やされたよー」


「ごめん。びっくりして」


『やめてよー。またびっくりしたら燃やすの?やめてよー』


「しない、しないそんなことしないから!」


『ほんとう?もう痛い事しない?やさしくする?』


「痛い事しない!やさしくするから!」


 あまりの豹変っぷりに僕は困惑を隠せなかった。


『信じていいの?ほんとうに信じていいの?酷いのいやだよー』


「大丈夫。もう大丈夫だからッ」


『ほんとう?えへへ』


「あはは......」


 僕の気まずい笑い声が掠れていくと次に襲ってきたのは沈黙だった。


「あの、もしもーし」


 返事はないただの黒焦げた剣のようだ。


 僕は目の前に横たわる漆黒の剣を持ち上げ、宿泊している宿屋へ戻った。


 これが僕と僕のインテリジェンスソードとの出会いだった。



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