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大魔法使い

 水の買取所の列はどんどん進んでいく。なぜこんなに捌けるのが早いのか先頭の様子が見える場所まで進んだ時にわかった。


 どうやら水の買取は日常的に行っているようで、列に並んだ人は事前に水袋に水を入れて運んできているみたいだ。中には両手で抱えるほどの水袋を持っている人もいる。


 特に量の多い人は係員が声をかけ別枠で対応しているようだ。水は重いので当然の対応だろう。


 おそらく、あの量になると、普段から魔法使いとして従事している人物か、家族総出で水を溜めたに違いない。


 水を作り出す魔法は誰にだってできる。ただ、昨日のサラちゃんをみてもわかるように、慣れない者が1回に作り出せる量は微々たるものだ。普段から魔法使いとして従事しているものでさえ、1回に作り出せる量はコップ1杯分。


 一般の人がバケツ1杯満たすのには1時間ぐらいかかるかもしれない。それは大変な事だ。だからこそ町民を集め数で量を稼ぎたいのだろう。


 一人一人の量は少なくても、それらが合わさってそれなりの量が井戸の中に投げ込まれている。井戸を自分たちで満たすというのは滑稽な話ではあるが、貯水槽としては最適なのは変わらないらしい。


 列の様子を眺めている内にいつの間にか僕は先頭に立っていた。


「それでは、水袋をだしてくれるかね?」


「すみません。水袋の持ち合わせはなくて、この場でバケツに満たしたいのですがいいですか?」


「もしかして、今日が初めてかね?」


「はい」


「ふむ......それなら仕方がないか、水の提供は嬉しいが、取引がスムーズに済むように用意してもらっているのだ。次回からは事前に用意して欲しい」


「わかりました」


 僕の返事を聞くと、うむと頷き係の人を呼ぶ。どうやら僕は時間がかかるとみて個別に対応することにしたようだ。


 横に捌けた僕が珍しかったのか周りからひそひそと話声が聞こえる。少し居心地が悪い。


「えっとバケツでしたっけ?時間がかかると思いますので今日のところはコップにしてはいかがでしょうか?」


「水の魔法は得意なのでバケツでお願いします」


「......そうですか。それではこれをどうぞ」


 係員の人は渋々といった感じでバケツを持ってきてくれた。少し面倒な客と思われてしまったかもしれない。


「では、早速......」


 僕は居心地の悪さも相まってとっとと済ませることにした。



 別に掛け声なんて必要ないのだけど、無言で始めるのもなんだかなと思い「水よ」と唱えた。小型のバケツは瞬く間に水で一杯になった。


「ええぇえぇえええええぇええ??!!」


 係員の突然の奇声にびっくりした。


「なんだ騒がしい!」


 先ほど対応した役員らしき人が寄って来る。まわりも何事かとざわざわしだした。


「そ、それが一瞬でバケツ一杯分の水が......」


「なに?そんなバカな」


「本当です!実際にほら!見てください」


「......ふむ。信じがたいが、青年よもう一度同じことができるか?」


「できます」


「では、別のバケツを持ってまいれ」


 慌てて係員がバケツを持ってくる。周囲の人たちも興味が沸いたようで、人垣ができてしまった。


 役員は特に期待はしていないといった様子で「では、頼む」と言った。


「いきます......水よバケツを満たせ」


 僕もこう注目されてはと思い。それらしい文言を唱えた。すると先ほどと同じようにバケツが瞬く間に水で満たされる。


「「「「「「は?はああああぁあぁぁああぁああ??!!」」」」」」


 突然の大音量にまたしてもびっくりさせられる。ここの住民は心臓に悪い。


「ルーシェルお兄ちゃんはすごいのです」


 なぜかサラちゃんが自慢げに胸を張っている。


「なんと!これは驚いた!素晴らしい!!お、おいまだ水は作れるかね?!」


「......できます」


「おい!何をしておる!早くバケツを持ってこんか!ある分もってこい!!」

「「「はい!!」」」


 急に慌ただしくなってしまった。どうやら僕の気持ちが変わらない内に出来る分だけ水を作ってもらうつもりらしい。


「出来る限り多くの水を頼む!!それに見合った報酬も約束しよう」


「わかりました」


 こんな簡単にお金が手に入るなら願ったり叶ったりだ。特に拒絶する理由もないので僕は次々とバケツを満たしていく。


「す、すげえ」

「ありえねぇ......もう何杯分だ?」

「今で15杯だどうなってやがる」

「大魔法使いだ......大魔法使い様だ!!」


「す、すごいぞ!すごいぞ!もっと大きいバケツを用意しろ!わはははは!!どんどん井戸の中へ放り込め!!」


 次第に歓声大きくなり、取り囲む人垣も膨れ上がっていった。どうしてこうなったと思いながら僕はお祭り騒ぎとなった歓声に応えて更に水を生成していく。


「「「「「「おう!おう!おう!おう!」」」」」」


 僕がバケツを1杯満たす度に町民たちは「おう!」と掛け声をする。その声は明るく、先ほどでの印象とは真逆に活気づいていた。人々の笑顔の中心に僕がいると思うと、気恥ずかしくもあり、誇らしくもあった。初めて僕の魔法が人々の役に立っている。


 人から認められるのがこんなにも嬉しい事だとは思っていなかった。力強く引き結んでもいつのまにか口元が緩んでしまう。


 永遠に続くかと思われた水のお祭り騒ぎも突然終止符が打たれる。


「もうだめです!!井戸が!井戸が溢れてしまいましたあああああ!!!」


「「「「「「わああああああああああ!!!」」」」」」


 それは嬉しい悲鳴だった。感情が上限を振り切ったのか観衆の中には咽び泣く人まで現れる始末で、一体何百人の人が集まったのか、怒涛の様に繰り出される拍手は何重にも折り重なり音の洪水が肌をビリビリと震わせた。


 役員の人が僕の手を取りそして、天高く上げる。


「これは救いだ!!大魔法使いがカイザスの町に訪れてくれたことに感謝を!!!」


 音の洪水の中で役員の声を聞き取れた人はいたのだろうか?いやいなかっただろう。すぐ間近で聞いていた僕ですら聞き取るのがやっとだ。それなのに、僕の手が振り上げられたその瞬間に、更に歓声はわっと沸いたのだ。


 鳴りやまない拍手と歓声にこれでは埒があかないとみて、役員は人垣を割り僕を自身の屋敷まで連れ出してくれた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 優しい役人さん。 餅つきかな?ww あったかい世界。 井戸が「溢れて」、拍手による音の「洪水」 毎度この、言葉選びのチョイス、好き。
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