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晩餐会

「ステイ!」


 僕の待ての合図にゴブリンとインテリジェンスソードがゴブゴブと呻いている。その瞳はギラギラと輝き、妖しく光っている。


「ステイ!」


 僕はゴブリンたちがピクっと動くたびに、待てという合図を繰り返していた。お肉の串焼きを何度も回転させ全体の火通りを調節する。動かすごとに滴る脂がジュッと音を立てて、強烈な匂いを発し、ゴブリンたちの理性を吹き飛ばしていた。


 猛獣と化したゴブリン共を押さえつける事しばし、火が通った事を確認して、許可を出した。


「よし!焼け......た」

「「「ゴブラァアアアア!!」」」


 ゴブリンたちは僕の合図をすべて聞く前に目の前の串焼きを掴み取り、ガツガツガツ!ガツガツガツ!と凄まじい勢いで齧り付いた。あっけにとられるのと同時にあまりにも必死な姿に笑いがこみ上げてくる程だ。


 一心不乱に一本を食べ尽くすと、口の中の幸せの余韻に浸るように呆けた顔でうっとりとしている。ジグもどうやって食べたのか、肉がなくなっていた。


『うまーーーーーーーーーーーーい!!』

「「「ゴブーーーーーーーーーーイ!!」」」


 ジグとゴブリンたちが再起動してまた、ガツガツガツと串焼きを頬張る。その顔はとても満足そうでなによりだ。


 僕も串焼きを手に取り食べる。脂がのった良い肉で噛みしめる毎に赤身と脂の旨味が混ざり合い、口の中に広がっていく。


 直火で焼いたことで、木の香りを含んだスモークが良い風味を醸し出して、香ばしく食べる手を止めることができない。塩だけのシンプルな味付けだというのに最高に美味しい。


 すごい勢いで焼かれた肉が減っていく様子をみて焦る。僕達は無言で食事という幸せに浸っていた。



 焼いた肉の量は丁度良く、すべてを食べ終わる時にはそれぞれが、もう食べれないっといってその場で倒れて満腹になったお腹をさすっていた。


「ごぶり、ごぶら、ゴブゴブ」


「ゴブリー、ゴンゴブ」


「ゴブ、ゴブ」



 ゴブリンたちが満足そうに何か喋っているが僕にはわからないが、ジグにはわかるようで『まったくだ。小僧もなかなかやりおるな』と返事をしていた。


 ゴブリンたちがなんと言っていたのか気になったが、ジグの返事で予想ができたので、良い感想だという事にしておいた。


 しばらくして静かになったっと思ったら、ゴブリンたちから寝息が聞こえてきた。僕の意識もどこで途切れたのか、平原だというのに深い眠りに落ちていた。





 朝日に照らされて、自然に目が覚める。寝ぼけた頭を覚醒するにはまだ少しばかり時間がかかるようで、目を擦り、あくびをした。


『起きたか、小僧』


 どうやら、ジグは既に起きていたらしい、もしかしたら寝ずに見張りをしていてくれたのかもしれない。


「あぁ、おはようジグ」


 僕とジグの挨拶で、ゴブリンたちものそのそと起き出した。そうだ、僕はゴブリンたちと一夜を共にしたのか。何とも奇天烈な話だと自分ながら思う。


 はだけた毛布を畳み、カバンの中に収納していると、ゴブキチ、ゴブゾウ、ゴブタロウの3人が僕とジグの前に整列して正座した。どうやらジグ師匠の前では正座が基本らしい。


「どうしたんだ?」


「ゴブ、ゴブゴブリラ」


『そうか、俺様の教えを忘れるんじゃねぇぞ』


「「「ゴブ」」」


 ......そうか、彼らとはここでお別れか、ジグの返答を聞いていると大体の察しはついた。どうやらゴブリン村に帰るらしい。せっかく仲良くなったのに彼らとは一緒にはいられない。当たり前のことだ。


 もし、この状況で、他の人間と鉢合わせでもしたら僕がゴブリンに囲まれてると思い斬りつけてくるかもしれないし、他のゴブリンがきて、僕を庇いでもしたら裏切り者として彼らが迫害されるかもしれない。


 そういう望まない結末は無い方が良い。


 僕は昨日食べきれなかったお肉の残りをゴブタロウに手渡した。


「ゴブ?」


「僕じゃ全部持ちきれないから持って行ってくれよ」


「ゴブ!」


 僕の意図がちゃんと伝わったらしく、受け取ってくれた。ゴブタロウは火打石を取り出しカチカチっと叩いて笑ってみせた。


 おそらく、今度は自分で焼いてみるとでも伝えたかったのだろう。僕は「ガンバレ」って答えた。



 ゴブリンたちは昨日ジグからもらった木剣、盾、こん棒を取り出し自慢げに掲げてみせた。


 これはどういう事だろうと首を傾げていると、ジグが『小僧も木剣を手に持ってやれ』というので言う通りにすると、ゴブリンたちはひとりずつ僕の木剣にカン、カン、カンと武器を合わせ打ち鳴らし意気揚々と去っていった。


 どうやらゴブリン式の別れか、出発の挨拶だったらしい。


 僕がゴブリンたちの後姿を見送り物思いにふけっているとジグから声がかかる。


『小僧、どこに向かってるか知らんが、俺様たちもいくぞ』


「そうだね......」


 僕はジグに視線を送り、そして手元の木剣を見る。僕は木剣を腰に提げた。


『ぬ?小僧には不要であろう、捨てれば良い』


「いや、僕は剣ではゴブリンにも勝てない。僕がジグを振り回しても宝の持ち腐れなのが痛いほどよくわかったよ」


『くっくっく、俺様の価値に今頃気付いたか、良い兆候だ』


 ジグは自らの意思で自由に動くことが出来る。どういう原理か宙に浮き自由自在で、ゴブリオンもあっけなく斬り倒し、僕を守ってくれた。それなら、布で拘束してしまうより好きなようにさせた方が良いだろう。


「ジグは僕を守ってくれてたんだろう?......その、ありがとう」


『かーーー!何を言っておる、自惚れるなよ小僧!断じて俺様は守ってなどおらぬ!』


「はいはい。わかった。わかった」


『なんだその言い方は!気に入らぬ!あれは俺様の血が疼いてだな!!』


「わかったてば」


『小僧は!なんにも!わかって!おらぬ!!』



 今回の事でまたわかったことがある。僕の魔剣ジグノートは善でも悪でもない。


 ジグはゴブリンを問答無用で斬り捨てる事をしなかった。ゴブリンの言葉に耳を傾け、そして人間と同じように扱った。


 きっとジグは敵対すれば相応に対応するし、歩み寄ればそれに応えるのだ。思い返してみれば僕は出会いからジグを拒絶して、危険な存在だと扱っていた。だから僕に対しての当りもキツくなってしまったのだろう。


 つまり、ジグは写し鏡のような存在で、ジグを魔法で攻撃した時に見せる弱さは......僕自身の心の姿なんだと思う。


 そう考える事で、僕自身自分の弱さをやっと認識できたと思えた。


 どうやら僕のインテリジェンスソードは見た目と荒々しい口調で損しているらしい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 武器を合わせ打ち鳴らすシーン。良い。 その後の掛け合いも好き。綺麗な話の締め。
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