プロローグ
最高の剣士は最強の魔法使いでもある。その逆はありえない。
......というのもこの国、いや世界中どこの国も神から授けられた剣によって苦難を切り開き、そして建国していた。
その国王たちの共通するところは卓越した剣術の使い手と同時に魔法を行使することが出来る『魔法剣』を授けられたこと。つまり、魔法とは剣を通す事でその真価を発揮し、威力を何倍にも高めることで実用に値するという付随価値の側面が大きい。
剣には材質でランクがあり、鋼などの金属を用いたものを単純に剣と呼び、ミスリルと呼ばれる金属を用いたものを属性剣。そしてオリハルコンを用いたものを魔法剣と呼ぶ。
その中でも魔法剣の希少性は世界に10本も存在しないと言えばわかるだろうか。
しかしどうしてこんな話をし出したかというと、今ここに『魔法剣』を所持する魔法剣士が誕生したからだ。
ーーあたりは騒然として至るとこで感嘆の声が漏れていた。
「まさかとは思っていたが......そのまさかが現実になるとは、さすがアレク様だ」
「私たちは歴史的場面を目撃している」
「アレク様、あぁアレク様」
アレクと呼ばれた、金髪碧眼の美男子のその手には氷の刀身を持つ魔法剣が握られている。
アレクはこの国の第一王子で、初代国王の再来と言われるほどの剣才に溢れており、もしかしたら魔法剣を手にすることが出来るのではないかと噂されていた。
しかし、実際に魔法剣を手にするなど夢物語も良い事だったのだ。
「アレク様さすがね。本当に魔法剣を手に入れるなんて」
「あぁ、僕でさえ信じられない。僕が魔法剣を所持できるなんて」
魔法剣を所持する者が現れば国が一つ誕生するのと同義であった。彼ら勇者の力なくして魔物が跋扈する世界を開拓することができないからだ。
「今度は私の番ね。アレク様見ていて、私も魔法剣を作り出してみせるから」
「フリージア......期待しているよ」
フリージアと呼ばれた赤髪の美女は武骨な鉄剣を右手に携え前に進み出た。
今、彼女らがいる場所は世界に散らばる神の祭壇と呼ばれるところで、そこには神の力が満ちた神聖な場所である。
フリージアが祭壇の前に立つと目の前に神石とばれる。神々しい石が出現した。
フリージアは深く呼吸して剣を上段に構える。
この大地に住まう人間は剣の技術を極め、神石を鉄剣を用いて、己が磨き上げた剣術を駆使して斬る。そして見事神石を両断できた者には、神から剣が授けられるのだ。
この時卓越した剣術を神に披露することで与えられる剣が決まると言われている。
フリージアの剣才はアレクと並び、良き友として、また良きライバルとして切磋琢磨してきた。上段から振り下ろされた剣は神石の中心を捉え真っ二つにした。
神石を切り裂いた鉄剣が光り輝きその姿を変えていく。
フリージアの手に収まる剣は刀身が炎の様に揺らめく魔法剣へと変化していた。
「やった......やったぁ!!」
同時期に2本の魔法剣が誕生したことに、神の祝福に、歓声があがる。観衆はアレクとフリージアを取り囲みお祭り騒ぎで去っていく。今際の出来事を王へ報告するのであろう。
静かになった祭壇にぽつんと取り残された青年がひとり。
「さすが、アレク様とフリージア様だなぁ。魔法剣なんてすごいや」
青年の手には武骨な鉄剣が握られていた。
「僕も今年こそは、成功させないと......」
青年は深呼吸を繰り返し、剣を正面に構えた。
「ルーシェル行きます!!」
青年の覚悟の宣誓は、誰の耳に届くことなく消えていった。
ルーシェルは目の前に浮かぶ神石に渾身の一撃を叩きこむ。ブォンと風を切り裂く音と同時に叩きつけた剣は神石に直撃して、弾き返された。
ルーシェルの足元には今の一撃で欠けたのであろう、指の先ほどの神石の欠片が転がってきた。
「も、もう一度だ」
ルーシェルはもう一度剣を振り、また弾かれる。苦い顔で神石を覗きこむとちょっとだけ欠けていた。
「よし!」
若干涙目になりながらも、何度も何度も剣を振り神石に斬りつけ、挫けそうな心を自身で叱咤激励する姿がそこにあった。