その7※
R-15注意です
家に戻り、シャワーを浴びて寝る準備をする。
いつものようにオイルを垂らし、唯子は何だか妙な気分になっていた。
(カミルの、匂いだ……。カミル、カミル……)
この匂いを感じる度、カミルの事が頭から離れなくなってしまう。
布団を頭からかぶり、フー、フー、と熱を逃がすように息を吐く。
最近カミルの事しか考えられない。このままでは頭がおかしくなってしまいそう。
その時だった。
(あ――――また、動かない)
――――――うだうだと考えている途中、途端に身体が動かなくなってしまったのだ。
前回の金縛り以来だった。
電気は消してしまっていたが、枕元のかすかな読書灯はついている。
(仕方ない。このまま眠ろう)
動けないのなら仕方がない。前回は無駄におびえて、過敏になってしまった。
腹をくくり、眠りに就こう――――――そう思った瞬間、カチャンと鍵が開けられる音がする。静かな空間に音が響いた。
(えっ、なに、人?何で?)
全身の毛が総毛立つ。
ギィ―――とドアを開け、人が入ってくる。鍵は―――かけてあったはず。
じゃあなんで?なんで鍵が開くの?なんで人が入ってくるの?
足音が、こちらに近づいてくる。
強盗だろうか。
顔を見てはいけない。何故かそう思った。身体は動かない。逃げることすらできない。
(私このまま殺されるの……?いやだ、怖い、怖い怖い、殺されたくない!)
足音が止まった。ベッドすぐ横に、人が立っている気配がする。
呼吸する音が聞こえる。目を開けられない。侵入者の息が耳にあたる。顔に髪がかかる。おそらく男性であるその人は、唯子に限界まで近づき、顔を覗き込んでいるようだった。
先ほどアロマオイルを垂らしたせいか、その男性からはローズマリーの香りがする。
「フーーッ、フーーッ、ハァハァ」
ぞわぞわする。気持ちが悪い。荒い息が顔にかかる。そいつは微動だにしない。
首に手をかけられるのだろうか、絞殺されるのだろうか。
ただただ、唯子の顔を覗き込み、息を荒げる。今にも襲い掛かられそうだ。かといって身体は動かない。逃げ出せない。
絶望的な気持ちになった。
この人は、一体何をしに来ているのだろうか。
早く出ていって欲しい。
この男、匂いがカミルと似ている。彼を汚されたようで、更に気持ちが悪い。
(助けて、助けてカミル――――――)
その場には決して現れないだろう彼に、必死で助けを求めた。
男はずっと、そこにいる―――。気配は消えない。
怖い、怖い、助けて。唯子はじっと願った。
しばらく経つと、唇に、何か触れる感触があった。ぬらりと唯子の唇を一周するように這うそれは、執拗に唯子の唇を舐め回す。
(いやだ―――気持ち、悪い。いやだいやだいやだ、キスは、カミルとだけって、カミルだけって、決めているのに、ひどい、ひどい)
固く閉じた唇を押し開けるように、れろぉ……と舌が侵入してくる。
ナメクジのようなそれは、唯子の歯をなぞり、口をこじ開け、口腔内を蹂躙する。
ジュポッ、ジュポポ、と舌を吸われる。男は、唾液も舌も全部吸い取るように唯子の唇を吸い上げる。
鼻が詰まって息が苦しい―――。気持ち悪いのに、酸欠で頭がくらくらしてしまう。
そいつは、飽きることなく唯子の唾液をジュルルと吸う。顎に伝った唾液さえも、舐める。
ジュポッジュルルッ
「ハァ、ハァハァッ―――」
「っん、……っ」
静かな空間で、荒い息と水音だけが部屋に響き渡る。
いつまで続くのだろう。苦しくて、生理的な涙があふれる。すると、今度は舌が目尻を這う。唯子の体液一つたりとも逃さないとでもいうかのように。
目は意地でも開けない。一度目があってしまったら、取り返しのつかないことになりそうだった。
ふと思った。男はこの家の鍵を持っている。今まで睡眠薬を服用し朝まで眠っていたが、毎眼こいつが来ていたのでは……。
男は、毎晩、私を覗き込んで、こうしてレイプ紛いの事をしてたんじゃ……。
その発想に至った途端、身体中を嫌悪感が駆け巡った。自分の身体を好きに使われていたという衝撃。動けない私を好き勝手に扱う身勝手な男の存在。
この村での生活を始め、好きな人ができた。全てをカミルに捧げたいと思うようになった。
しかし、私は、既にこの男に手を出されていたのだ……。
もしかしたら、気づかないうちに処女も奪われているかもしれない。
そうだったら、私はもうカミルに会いに行く資格がない―――。
唯子は、意識を手放した。