表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

その4

やっと出てきた恋愛要素!

 こんばんは、唯子です。ただいま時刻は22時。まだまだ夜はこれからだ、と思う方も多いのではないでしょうか。私もそう思います。ネットサーフィン楽しいですよね。


 はい、そんなことはどうでもよくって。唐突ですが、体が動きません。

 何故でしょう。私にも分かりません。

 そよかぜ村に越してきてから一週間は経ちました。私は至って普通の生活を送ってきたつもりです。


 毎日家畜の世話を行い、3日に1度は村に売りに行く日々。エミリーとは、たまにお風呂に行く関係になった。

 そうそう。最近気になる人もできた。なんと小説家のカミルさん。物腰が柔らかくて、陰で人の悪口を言わないだろうなってタイプ。にっこり綺麗に笑う彼が唯子にとって癒しであった。ついでに声もふわふわしていて素敵。第一印象そのままの人だった。


(彼、本当にやさしいのよね。にっこり笑った顔がもう花が綻ぶようで……あぁもう胸がきゅんきゅんする)


 優しい男性というものに免疫のない唯子――――――くっそチョロかった。

 初対面の印象は「優しそうな人だなぁ」である。エミリーに彼を紹介された次の日、カミルは牧場近くを流れる川のほとりで、せっせと作業していた。物語を、あーでもない、こーでもないと練っていたそうだ。声をかけられ、一緒に川を眺める穏やかな時間。ふと横を見ると、こちらを見つめる温かい瞳―――――。

ぽちゃんと恋に落ちた。思ったより恋の沼は深く、今ではもうずっぶずぶである。出会って数日であるが、恋に時間は関係ない。

 奥手な唯子ではあったが、好感度を上げるべく、ほぼ毎日何かしらのプレゼントを持っていった。花やらクッキーやらケーキやら。唯子は男性経験皆無であるものの、貢ぎ癖があった。

 唯子は恋に盲目になっていた。毎晩もらったアロマオイルを垂らし、彼を想う生活。ローズマリーの香りがするそれは、安眠効果があるそうだ。

 ちなみにエミリーには内緒にしている。彼女の恋愛話に対する熱量は凄い。話してしまおうものなら根掘り葉掘り聞かれそうなのだ。


(そんな話はさておき……やっぱり身体が動かない。まだまだ夜はこれからだっていうのに!)


 アロマストーンにオイルを垂らし、明日は何をしようかしらとベッドでごろごろしていると、身体が動かなくなってしまったのだ。

 かろうじて目は開く。しかし、部屋の明かりは先ほど消してしまった。五感は一応保たれているようだが、真っ暗で何も見えない中動けない状況というものは、恐怖でしかなかない。

 自分の身体を、自分の意思で動かせない。怖い。目を開き、きょろきょろと、見える範囲だけでも周囲を見渡す。暗い、何も見えない。


 これは何かの病気の症状だろうか。いやいや、だったら日中に現れないのはおかしい。夜限定で出現する特異的な病気なんて、聞いたことがない。

 暗闇を見つめ続けていると、何か恐ろしいものが浮かび上がってきそうで、唯子は目を閉じた。

 自由に動けないことが、どれだけ苦痛であるのか初めて知った。普段は自分の思うとおりに動かせる四肢が言うことをきかない。頭がかゆくてもかけない。長時間同じ体勢でいるから背中と腰が痛いのに、動くことができない。


(もしかしてこれって金縛りなのかな……?)


 その瞬間、カタン、と部屋の隅で音がした。


(えっなに……)


 ビクっと反射的に身体か震える。

 身体が動かない今、聴覚に頼っている唯子は、ほんの些細な音にも過敏になっていた。


(風の音、だよね。そうだ、そうに違いない)


 そう思い込みたかった。

 時々流れてくる、甘いローズマリーの香りだけが救いだった。



 やっと身体を動かせるようになったのは朝の5時。半覚醒状態でうとうとしていたが、突然動けるようになり時計を見ると、5時ぴったりだった。


 フ―――と全身から息を吐き出す。

 長時間動かせなかった身体はゴキゴキと音を立て、唯子は思う存分伸びをした。



「ン―――――――ッ、なんて清々しい朝!」



 窓を開け、太陽の光を部屋いっぱいに取り入れる。

 とりあえず今日は診療所に行って、マイル医師に相談しよう。

 そう決意した唯子は、毎朝のルーティンをこなすべく、作業着に着替えた。

 何も、考えないように。









―――――――――――暗闇の中、部屋の隅に感じた人の気配は、気のせいだと思いたかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ