その1
あたたかーい目で読んでください。
「――――――――――――え?」
突然目の前に広がる草原、大きな門。そこには大きく【そよかぜ村】と書かれている。
(どこだ、この場所。私さっきまで何をしていたっけ―――)
確か買い物から帰る途中だった気がする。いつの間に、こんなところに来たのだろう。記憶を辿ろうとすると、何か靄がかかったようになってしまい、それ以上考えることができない。
隣にいるのは妙に馴れ馴れしい男性。ちなみに肩を組まれている。今にも破れそうなTシャツはパンッパンで、加齢臭がつんと鼻に刺さる。初対面のくせに距離が近いぞー。
彼は私に顔を近づけ、囁いた。
「――――どうだね、この村は?」
突然の非現実な状況。見たこともない風景に、見たこともない男性。挙句の果てに、間近に脂ぎった顔を寄せられ、戸惑った私が思わず「はいッ」と条件反射で返してしまったのは、仕方がないことだ。
「おぉ!唯子くん。ようこそ、そよかぜ村へ!」
「―――――――ん?」
「いい返事をもらえて良かったよ。我々一同、君のことを歓迎するよ」
先ほどの返事で、了承したことになってしまったらしい。あの後、男性…もとい村長に案内され、村外れの牧場を譲り受けることとなった。
初めは、え、ただでくれるの!?ラッキー!と思っていたが、話の内容を聞いている内に恐ろしい事に気づく。
「ささ、唯子くん。君は今日からこの【そよかぜ村】の一員だ」
「君にはぜひ牧場で活躍して、この村に永住してもらいたいんだ。あぁそうだ。この村には独身男性が一定数いるからね。そこから婿を探すといい。ちなみに僕も奥さん募集中さ!」
「村の外に出るにはどうすればいいか?あぁ、短期旅行のことだね。君が結婚したら、ハネムーンのための許可書を出してあげよう。もし許可書なしで村の外に行ってしまうと問答無用で捕まえられて牢屋行きだ。気を付けてね。強制子作りになっちゃうよ!」
「ん?何故かって?僕がそう決めたからさ。村長だからね」
「言っただろう?君には、村に永住してもらいたいんだ」
―――愕然とした。つまり、ここの牧場譲ってやるから一生ここで働いてね。婿は村人から選んでね。村から出たら捕まっちゃうからね。と言うことだ。
なんという村社会。一歩でも村に足を踏み入れただけで住民扱い、外に出るなら罪人扱い。おっそろしい……!
そんなこんなで村長さんからチュートリアルを受けることとなり、牧場生活を始めることとなった。
既に断る、という選択肢は奪われていた。
肩を組まれたまま、子牛のごとくドナドナされる。
(帰らなきゃいけないはずなのに、私ったらこーんな呑気でいいのかなぁ……。まぁいいか)
唯子は知らなかった。「そよかぜ村」の住民は、一癖も二癖もあることを。そして、番認定された暁には、とんでもない目に遭ってしまうことを―――。
「そよかぜ村」もとい、「やんでれ村」の住民になってしまった唯子には、もうどうすることもできない。