表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

塔の上のレタス姫

作者: 三ツ巴 マト

2020/4/7 ジャンルのを変更しました。

私は異世界転生しちゃって魔女になった人間である。詳しくは言わないが、前世で突然死んでしまい、その魂をこの世界の創造主を名乗るヤツが引き取ってくれた。そこでチートとも言えるような能力とこの世界の知識を与えられて生まれ変わったのだ。


そんな私は魔女をしている。この世界、魔法はあるが、魔法使い等の魔法を扱える人間は少ない。私が魔女をしていられるのは創造主にもらった能力のおかげだ。

そんな魔法使い達は数が少ないので、尊敬の対象であるが、同時に畏怖の対象でもある。


人間が自分の知らない未知を不気味に思い、差別しようとする傾向があるのはどこの世界でも同じらしい。魔法という力の存在は知っているし、魔導具等で間接的に使うことはあって、便利だとは思っていても、その源となる魔法使いが不気味であることには違いないらしい。自分が使えない大きな力を扱える私達は気味が悪いようだ。


だから、私のような人間の居場所は限られている。大体の人は大きな都市で国等のお抱えになるか、森でひっそりと暮らしている。今の私は後者だ。都市は比較的魔法への理解があるので堂々と働ける。しかし、それでも大きな権力を持つ人が後ろ楯にないと暮らしていけないから私達は権力者に媚びへつらう。それが嫌なら森に引きこもる。しかし、籠る森は田舎にあり、私達への差別感も田舎の方が強い。

私の家から一番近い村では、子供をしつける時に『悪いことをすると恐ろしい森の魔女が来てお前を食ってしまうぞ!』と、脅すらしい。その森の魔女が私なんだが。



だから滅多に森の外にでないし、人にも会わない。生活のための最低限の仕事で身をたてている。だから、予期せぬことで取り乱していたのいたのかも知れない。



ある日、私が端正込めて育てているレタス畑に野菜泥棒が入った。前から減っているとは思っていたのだ。そいつを捕まえて見ると、そいつは私と同じように森に住む貧しい木こりだった。と、言っても私よりは村の近くに住んでいるが。


そいつが言うことには、彼には身重の妻がいて、彼女がどうしてもレタスが食べたくて仕方なくて我慢できないらしい。といってもレタスの季節ではないのでレタスが高くて買えず、困っていた。そんなとき、私の畑にレタスがあるのを見てしまい、彼は盗むようになった。なるほど、事情はわかった。聞けば、奥さんのレタスへの執着は凄まじかった。私的には是非レタスを分けてあげたい。けれど私にも事情がある。特にあのレタスは簡単に渡せない事情がある。


私はその後、彼に『仕方ない。レタスは好きなだけ持って行け。但し、産まれた子供は私に渡せ。私が育てる。』と言った。今思えば普通に悪い魔女のセリフだと思う。




そうして、今、私は件の赤子を抱いて、森のさらに奥にある小屋に来ている。




そして既視感に気付いた。そして、




これ、ラプンツェルじゃん。




そう思った。


グリム童話のお話、ラプンツェル。髪長姫ともいう。ラプンツェルの名前の由来はラプンツェルという野菜である。身重の女性がラプンツェルを食べたいというので夫が魔女の畑からラプンツェルを盗もうとして魔女に見つかり、ラプンツェルを採る代償として子供を差し出すのだ。それでラプンツェル。どんなネーミングセンスどうかと思うが、桃太郎とかもいるので気にしないことにする。


まぁ、つまり、私がこの子を引き取ったこの状況がラプンツェルそのまんまなのだ。ラプンツェルじゃなくてレタスだけど。


私は悪い魔女になる気はない。だからといって私はこの子を返す訳には行かない。


考えた末、私は夫婦に会いに行くことにして、ローブのフードを深く被り直した。



二人は私の訪れに驚いた。そして娘の安否を聞いてきた。私は彼女が無事であることを告げ、話し始めた。


「君たちの子供を拐うようなことをして申し訳ないとは思っている。実はこちらにも事情があるので、こういうことをしてしまったんだ。だから、一応聞いて欲しい。まず、私の畑のレタスがなぜあの季節に出来ていたのかわかるかい?」


「いいや、わからない。」

「わからないわ。」


「あのレタスは聖なる力を注いで育てられている。だから聖なる力のおかげでレタスは育っていた。そして、あなたはそのレタスを食べた。成人が食べる分には問題ない。しかし、あなたのお腹の胎児には聖なる力が宿るのだ。」


「なんと!」

「聞いてないぞ!」


私は研究目的でレタスに聖なる力を注いでいた。聖なる力は魔力の一種である。


「気が動転していたようで話すのを忘れていた。すまなかった。そして子供は聖なる力を抑える力が未熟だ。いつ暴走するかわからない。だから私が育てようとしたのだ。親元から離すことをして悪いとは思っている。けれど、こちらもちゃんと説明していなかった分、ちゃんと育てるつもりだ。私が与えられる限り全ての教養を授けよう。そして、2つあなた方に約束をしよう。

一つは私がどういう経緯で彼女を引き取ったのかちゃんと彼女に説明すること。

もう一つは彼女が18になった時、あなた方に会わせるということ。それまでに聖なる力をおさえられるようにする。

この二つだ。」


二人はその条件をちゃんと私に守るように言ってきた。私は必ず守るといって去っていった。




それからは子育てに熱中した。名前はチシャにした。レタスの日本語だ。結局、ネーミングはラプンツェルや桃太郎と同じだ。そういえば野菜のラプンツェルは日本語ではノヂシャだからそういう意味でレタスと似ているのかも知れない。


彼女にはありとあらゆる本を与えて学をつけさせた。まだ小さい時、絵本で学んだのか、私のことを『お母さん』と呼んだ。私はその度に訂正させ、不本意ながら『おば様』と呼ばせた。


ある程度成長した時、親のことを話した。チシャは『わかったわ。』といってくれた。


チシャは成長するにつれどんどん美しくなっていた。聖なる力が滲み出る美しさは悪いものを呼び寄せた。悪霊がチシャを拐おうとしたり、制御出来ていない聖なる力にやられて惚けた顔をした猛獣が小屋にやって来るようになった。悪霊なら結界で防げるが、猛獣はそれが難しい。このままではチシャに一人で留守番をさせることが出来ない。時々、用事で小屋に帰れない日もあるというのに。


聖なる力を抑えきれていないことはチシャも自覚していたようだった。彼女が十二歳の時、こう提案してくきた。


「ねぇ、おば様。私、塔に行きたいわ。ほら、この前話していた。」


「えっ。」


物語に出て来るような塔が森の別の所にあった。高くて、入り口がなくて小さな窓が一つだけある塔が。前に別の魔女が使っていたのだが、彼女が死んでしまい、私が譲り受けていた。


「最近、小屋の周りでおば様が忙しくしているのは私が聖なる力を操れていないからなのでしょう?あの塔なら高すぎて誰も中にいる私に近づけないわ。」


「でも簡単にはでられないよ。」


「それがいいのよ。私は出られない方が良いのよ。私は今の暮らしに満足している。けれど、そのうち外への好奇心でいっぱいになって抑えられなくなるわ。万が一勢いで外に出てしまって、力の暴走で他人を傷付けたくないの。おば様は私の髪を使って塔に登ればいいわ。それに18になったらお父さんとお母さんに会わせてくれるんでしょう?私はそれまでおば様といなければならない。だから、お願い。塔に籠るのは自分への警告なの。」


チシャの髪の伸びは昔から速かった。それでも私は彼女の髪を切ることが出来なかった。美しい金髪で、切るのがとても勿体なかった。それが仇となったのだろうか。


知識を多く与えたせいで、歳よりも大人っぽくなったチシャの決意の言葉を私は拒否出来なかった。それに、物語では、ラプンツェルは塔にいるおかげで王子に出会い、幸せになるのだ。そのチャンスを奪いたくはない。


結局、こうして私という魔女は、チシャの長い髪を登って彼女に会いにいくようになった。





ここで、ラプンツェルのお話をざっとおさらいをしよう。ラプンツェルが塔で暮らすようになった後のお話。


王子が森を歩いていると、塔があり、綺麗な歌声が聞こえてきた。聞き惚れた王子は綺麗な乙女がその中で歌っているのをみた。王子は一度戻るが、美しい彼女をもう一度見ようと、毎日のように通うようになる。そんなある日、王子は一人の魔女が塔の下にやって来て、塔に入るのをみた。そこで彼も魔女と同じ方法で塔に入る。それから何度も王子は塔に通う。ある日、ラプンツェルは口を滑らせ、王子のことを魔女に話してしまう。怒った魔女はラプンツェルの髪を切り、彼女を荒野に追放する。やがて王子がラプンツェルを訪ねて来ると、魔女は切った髪を垂らし、王子はそれを登って来た。ラプンツェルがいないことを魔女に告げられた王子はショックでそのまま塔から見投げする。命は助かるものの失明してしまい、森をさ迷う。しばらくして、ラプンツェルのいる荒野にやってくる。ラプンツェルが王子に抱き付き、涙を溢すと、その涙で彼の目が治る。二人は仲良く国に帰って幸せになる。めでたしめでたし。


おおざっぱに言えばこんな感じだろう。詳しい話はここでは置いといておく。


でも私はチシャを信頼している。きっと王子と恋仲になったら相談してくれるだろう。彼女には王族並の教養を叩き込んであるから、万が一王子と結婚しても問題ないだろう。


すでにお話と現実は多少違うところがあるが、やるべきことはやろうと思い、塔の下に生えていたバラを全て引き抜いた。これも王子失明の原因の一つとなる時があるからだ。



そうやって呑気に暮らしていたある日、チシャがこう言った、


「おば様。何故かしら、最近お洋服がきついのよ。」


私はその時、皿を洗っていたのだが、驚きのあまり落として割ってしまった。


このセリフは!


私は皿を片付けると、彼女のお腹に手を当てて、魔法でそれを確かめた。




あぁ、彼女は妊娠していたのだ!!




最初の方のグリム童話では、男とあうはずのないラプンツェルが妊娠していることによって密会が魔女にばれる。それが後に変えられてラプンツェルの失言に置き換わるのだ。


魔法で、お腹の中には男女の双子がいるとわかった。ここまで物語と同じだとは!!


私の頭の中には、チシャが私に隠し事をしていたことへの怒りと、気付かなかった自分への後悔の嵐が吹き荒れていた。


何てこと!なぜチシャは私に言わなかった!なぜ気付かなかった!チシャに騙されたのか!そんな!そんな!そんな!そんな!


混乱する頭を抑えつつ、私は感情的にならないようにそっと口を開いた。


「チシャ、私はそんなに頼りないかい。」


「えっ、そんなことないわ。」


「年頃の女の子だもの、チシャが一つ二つ、私に隠し事があっても当然だろうよ。でも、彼氏が出来たのなら教えて欲しかったよ。」


それでチシャは自分が身籠り、それで私が密会に気付いたとのだとわかったようだった。彼女はメソメソと泣いて謝った。


「チシャ、お相手はどんな人?怒らないから言ってごらん。」


「ミーティアの王子様。ザカート様。」


この世界は、町のような国がいくつも点在して出来ている。その周りに付随する形で村や、街がある。ミーティアもそんな国の一つだ。この森はミーティアと別の国に挟まれていて、国境が曖昧だ。そんな中通いつめた王子は凄いと思う。


「ミーティアね。それなりに大きな国じゃない。凄いよ。」


「私、外に出ないために塔に入ったのに、王子を招き入れて、さらに脱出の手伝いまでしてもらおうとしていたの。ごめんなさい。」


「いいよ。それで、王子は次いつ来るの?」


「明後日。早朝に来るって。」


「あなたの十八のお誕生日は…?」


「…明日。」


はぁ、困った。どうしよう。


「チシャ、私が王子と一対一で話しても大丈夫?」


「大丈夫よ。」


私は思案する。







2日後早朝、私は塔の中に一人でいた。やがて王子が来たので、前日に切り離しておいたチシャの髪を窓から垂らした。


果たして王子は登って来た。何も知らない王子は驚愕していた。


「私がチシャの養母だよ、王子様。チシャはここにはいない。」


王子は切り離したチシャの髪を私から奪い取り、唸った。目が血走っている。


「お前、チシャを何処へやった。」


「昨日はチシャの十八の誕生日。久しぶりに生まれ親に会いに行ったまま、帰ってきてないよ。」


「お前、チシャを拐ったんじゃないのか!?」


彼の目が驚愕に変わる。ここまで感情的になれるほど、彼はチシャを愛してくれているのだろう。嬉しい。


「似たようなことならしたかも知れない。けれど、理由があってこそだ。チシャのために私は彼女を親から引き離したんだ。あんたはそれを知っているのか?」


「なんだと!?」


私は彼に話した。チシャの聖なる力のことを。


「そんな!そんな!私がよかれと思ってチシャにしていたことはなんだったのか!チシャは一度も聖なる力や出自のことを私に言ってくれなかった。信用されていなかったのか!騙されていたのか!私は自惚れていたのか!!」


そう言うと、王子はチシャの髪を持ったまま、ショックのせいか、ゆらゆらと後退りして、下がって、下がって、



そのまま窓にぶつかって塔から落ちた。


そんな!


追いかけようにも降りるための髪は王子の手の中で、手元にはない。私は慌てて置いてあった縄ばしごを手に取ると窓に身をひるがえした。チシャと王子がこっそり作った縄ばしごだ。けれど、素人が作った縄ばしごは、私が足をかけると、

ブチッっと

切れてしまった。


王子と違い、訓練されていない私は、受け身を取れずに落ちていく。



足を踏み外し、バランスがとれていないまま落ちる。





あぁ、体が、空が、塔が回る。









このままだと頭から落ちるかも。















死ぬ?




















せっかく頑張ったから二人の結婚式に出たいのに。

























手に入れた二つ目の人生なのに。

























いやだいやだ、死にたくない。死にたくない!













































助けて!!!!!!


























ふっと、温かいものが私の体を包んだ気がした。






良い気持ちになって。




そっと目を開ける……。




「おば様!死なないでくださいませ!」



そこにはぼろぼろと涙を流すチシャがいた。


私がそっと彼女に手を伸ばすと握ってくれた。

ゆっくりと体を起こすと、体は落ちたのが嘘のようにピンピンしていた。


「チシャ、どうしてここに?」


「昨日、おば様に連れてかれて両親にあった後、家に入ると、初めて会う弟や妹がいましたわ。みんな私を歓迎してくれましたが、どうしても拭いきれない距離感があるのです。私はあそこにいても本当の家族になれる気がしませんでしたの。だから両親に話して、私は戻ってきましたわ。そしたらザカート様に続いておば様が降って来るんですもの、びっくりしましたわ。ザカート様と違っておば様はちゃんと着地出来ていないから、ケガしてて、私、お世話になったおば様に死なれたらと思うと、もう、嫌で嫌で堪らなかったんですの!」


早口で、まくしたてるようにチシャが言った。

王子は無事だったか。よかった。

というか、チシャの聖なる力は、王子の視力回復じゃなくて、私の怪我の治療に使ったのか。


聖なる力は強力な回復の力。他の魔力が混ざっていない分、チシャの聖なる力は強力で、欠けた部位はもちろん、即死の大怪我も即座に回復すれば全快してしまう。良いようで、使い方を間違えてはいけない力。


ほっとして私が微笑むと、チシャも笑った。そこへ王子がやって来て『すまなかった』と言った。私は『気にしていない』と答えた。


「ザカート様!今まで本当のことを話していなくて、騙すようなことをしてごめんなさい。こう言うとあれかもしれないけど、本当のことを話すのが怖かったの。私はあなたと一緒にいるのが楽しかった。けれど、私の生まれのこととか話したら、嫌われるんじゃないかって思ってしまって。本当ごめんなさい!」


チシャが泣きながら王子に謝っていた。うん、素直に自分の汚点を認められるのは良いことだよ。


王子がそっと口を開いた。


「チシャ、言いたいことはわかった。だから、その言葉、信じてもいい?」


「はい。」


「私は君のことが大好きだ。」


「ありがとうございます。」


「私は君からの愛を信じてもいい?」


「もちろんっ!」


ぶわっと涙がチシャの瞳から再び溢れた。王子がチシャの頭の上に手を乗せて、そっと撫で始めた。そしてそのまま二人は抱き合っている。


あぁ、二人は幸せそうだ。


チシャも私のことをまだ慕ってくれていた。


それがわかっただけで安心できた。





幸せだ。


元にしているラプンツェルの話はストーリーに様々あると思いますので、読者様の知っているものと多少違ってもあまり気にしないでください。

実は魔女の後日談があるのですが、筆が進まないので、載せるとしてもいつになるやら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ