本望
答案用紙に答えを書き込んでいる生徒たちの手元を覗き込みながら教室を一周し、時計代わりに教壇の上に置いてあるスマホを手にして画面を見る。
あれ? 何だ? 此れは。
画面には時間停止と書かれたボタンが表示されていた。
生徒の誰かの悪戯かと思いながら何気無くそのボタンを押す。
途端、音が消えた。
試験の真っ最中で教室の中は静かだったが、それでも30人以上いる生徒たちが答案用紙に答えを書き込む音や紙の擦れる音が教室のあちら此方から聞こえていたのに。
スマホから顔を上げ教室の中を見渡す。
教室内にいる生徒全員が、動作の途中で硬直したように動きを止めていた。
生徒たちだけで無く教室の窓からみえる道路上の車も人も犬も、空を飛んでいたカラスや飛行機雲の先端の飛行機さえ止まっている。
えぇ!!??
悪戯では無く、ほ、本物!!
そこで私は我に返り解除ボタンを押そうとスマホの画面に目を戻した。
解除ボタンの下で注意と書かれた赤い文字が点滅している。
注意の下に連なる文字を読む。
「解除ボタンを押せば、貴方に与えられた時間停止のチャンスは終わります。
時間停止している今、遣りたい事はありませんか?」
書かれていた文字を声を出しで読んだ私は、窓際の真ん中辺りにいる生徒を見た。
生徒会長を務めている少女、その彼女の大きな胸に目が惹き付けられ幾度も妄想した事が脳裏に浮かぶ、あの胸に窒息するくらい顔を埋めてみたいという思いが。
スマホを教壇の上に戻し彼女の下に歩み寄る。
彼女が手にしていたシャープペンを机の上に置きしゃがみこんで胸に顔を埋めようとした時、後ろの席の生徒と目があった。
その生徒は彼女の答案用紙を覗き込もうとした姿勢のまま動きを止めている。
私は立ち上がり教室の中を見渡す。
答えを思い出そうとしているのかテストを投げているのか知らないが、頬杖して廊下側の席から窓の方を眺めている生徒や、一番後ろの席で仰け反り黒板の方を眺めている生徒などがいた。
生徒たちの目に私が行おうとしている行為は映っていないとは思うが、気まずい。
…………暫し思案した私は彼女を抱き上げ肩に担ぐ。
トイレに連れて行き、人の目を気にする事無く思う存分彼女の胸を堪能しよう。
尻と太股の感触を楽しみながらトイレに行き個室の洋式トイレに座らせる。
扉を閉め向き合うように座り、スウウーハァー、スウウーハァー、スウウーハァー、幾度も深呼吸を繰り返し胸に顔を埋めた。
ウゥゥゥ……………………………………………………………プファ!
ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。
次は着衣を剥ぎ取り直に顔を埋めよう。
ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。
上着のボタンを外していて気がついたなんか息苦しい。
ハァ!ハァ!ハァ!ハァ!
ハ…………………………
男は少女の胸にもたれ掛かるように倒れこみ意識を失う。
教壇の上のスマホの画面に赤い注意の文字が点滅表示されていて、その下に注意事項が書かれている。
時間停止中は空気の流れも止まります。
ですから狭い場所に長時間留まったり狭い場所で深呼吸を行ったりすると、酸欠になり窒息死する場合もありますので御注意ください。