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第1話

初めまして。よろしくお願いします。

 誰かを愛する。そんな感情が人間にはあったらしい。


 技術的特異点シンギュラリティの到達。そして科学技術と医療技術の進歩によって人類の寿命は格段と延び、またその影響で人口増加及び少子化と超高齢化社会が世界規模で急進行した。

これに危機を憶えた『世界連合』は『人口層最適数化計画』を発動。超高度人工知能『マザー』によって導き出された最適な各年齢層数になるように各国政府は精子と卵子の段階から人間を管理し始め、また個人間での生殖行為を禁じた。

生殖行為の必要のなくなった人類はやがて『結婚』を必要としなくなり、『恋愛』すらも行わなくなっていった


「湊さん、朝食の準備ができましたよ。一緒に食べましょう!」


 柔らかな日差しが差し込む部屋の中、エプロン姿の少女が部屋の隅に座って本を読んでいた少年に声をかける。


「今日は日本国の伝統朝食、白米とみそ汁と焼いた鮭の切り身です!」


 少女が楽し気に少年に朝食のメニューを告げる。


 ところで、『恋愛』すらしなくなって久しい人類にある問題が発生していることが判明した。

 それは、『感情の欠如』。

 かつての人間の三大欲求のひとつ『性欲』が意味を為さなくなったせいか『愛する』という感情が人間にそれ程重要なものだったのかは不明だが、ともかく、現在の人類にかつて程の感情の発露が見られなくなった。


「湊さん? さっきから何を読んで────」


『「ご主人様、今夜はどうされますか?」従順メイドとのイチャラブ×××(R-18)』

 見せられた表紙に描かれたそれはまごうことなきメイド姿の女性の全裸。そう!エロ本である!

 フリーズする少女。

 おかしい、私は何を見たのだろうか。見間違いだろうか。うん、たぶんそうだ。そうに違いない。やれやれ私はもう老朽化が来たのか? 目を閉じ心を落ち着かせる少女の横で、変わらず涼しい顔でエロ本を読み続ける湊少年のページをめくる音が室内に響く。

 目を開き現実を直視してゆっくり3秒。変わらぬ肌色面積の多さと小さく書かれたR-18の文字が印字された本。


「な、何を読んでいるんですかー!?!?!?」

「プリムラ、うるさい」


 少女の声は彼らの住むアパート中に響いたという。



 さて、感情を失いつつある人類から再び『感情』を取り戻すため世界連合はある策を打ち立てた。

 それが『感情アンドロイド投入計画』

 『感情』という機能を搭載した人工知能を持つアンドロイドをランダムで選んだ一般市民に配布し観察対象モニターとする。『感情』を持つモノに触れさせ、失われた感情の発露を促すという計画。

 これは現段階で2年前から実験的に運用されている。


「もうっ、朝から何てものを読んでいるんですか。いえ、朝じゃなければいいというわけでもないんですけれど、その・・・。そもそも、そのエ、エッチな本はどこから拾ってきたんですか!? 河川敷の下ですか!?」

「今朝、政府から届いた」

 湊が朝食が盛り付けられた皿を座卓に並べていく

「あー、なるほど。・・・わかりました。今すぐ政府に直接文句を言いましょう」

 プリムラと呼ばれた少女がピッと人差し指と中指をそろえて側頭部にそえる。

「一応聞いておこう。どうするつもりだ」

「こっちから無理やり政府に接続するんです! マザーとつながってる私なら何とかすれば何とかなるかもしれません!!」

「なるほど。ただ、随分確証が低い上にその、何とかなったとしてマザーへのハッキングは犯罪行為だからやめておけ」

 プリムラの肩に手を置き一旦落ち着けとなだめる。


「止めないでください湊さんっ。というか、今まで友情マンガとか恋愛小説だったじゃないですか! 一番最初のころとか送られてきたの植物図鑑ですよ!? それが何で急にアダルトな方面に行ったんですか!」

「僕に言われても困る。まあ、いい加減大した成果が出てないから手っ取り早く性欲を引き出したかったんだろう。感情の揺さぶりに大きな影響があるというしな」

「む、むう。そ、それで湊さんは、エ、エッチな気分とかになったり、しました?」

「そのエッチな気分というのはよくわからいが、人類から潰えた繁殖行為についての知識を得られるという点でいい本だと思ったな」

「あー、そうですよねー」

 ええ、まあわかっていましたとも、と呟きながらプリムラはテーブルをはさんで向かい合うように湊の反対側に座る。


「はあ、じゃあもうちゃっちゃと朝ごはんを食べちゃいましょう。冷めちゃいますよ」


「「いただきます」」


 湊が箸をとる。

 プリムラがケーブルを持つ。

 湊が鮭の切り身に箸を入れる。

 プリムラがケーブルをコンセントに差し込む。

 湊が鮭の切り身を口に運ぶ。

 プリムラがケーブルのもう片方の先端を自身の腰に差しこむ。

 湊が栄養を摂取する。

 プリムラがバッテリーを充電する


「おいしいですか?」

「ん、ああ」

「それはよかったです」


 湊の適当な返事にも構わずニコニコと笑みを浮かべる目の前のプリムラ。彼女は人ではない。彼女は『感情アンドロイド』の一人、つまり機械である。



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