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TRPG SS集  作者: るーちゃん
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ジャスかな第一回後日談 はるより編

「……なんだか最近奏多を怒らせてばかりな気がする」

「は?」


正義は弁当をつつきながら、友人を前にそうぼやいた。

友人である男子生徒、彼の名前は西町と言った。


「いや裁貴、お前……あの枝園さんを怒らせるって何やったんだよ」

「何って」


正義は思考を巡らせる。夜にパトロールしていて、たむろしていた不良と喧嘩になり怪我をしたり……ステラバトルで無茶をして奏多を死ぬほど心配させたりした。

それをそのまま伝えようとしたが、裁貴はいやいやと頭を振る。正義のヒーローは己の行いを誇示したりはしない。きっとここは謙虚に乗り切る場面である。


「まぁ……色々かな……」

「なんだよ色々って……まさか健康チェックと銘打って体を触りまくったり、慕ってくれることをいい事に無理な頼みしたりしてんじゃないだろうな……」

「西町こそ僕をなんだと思ってるんだよ」


その問いに関しては『変質者一歩手前の馬鹿』という返答を頂いてしまった。納得はいかないが、まぁ一歩手前ならまだ悪ではないはずなので良しとする。


「うーん……今日は珍しく俺のところに飯食いに来たと思ったら、そういうことか」

「奏多が友達と食堂に行く約束をしたらしくてさ」

「へー、ついに愛想をつかされた?」


西町の言葉に、正義はきょとんとする。


「いやそれはないと思うよ?」

「なんで言い切れんだよ」

「だって今朝もわざわざうちまで迎えに来たし」

「……なぁ、俺は遠回しに惚気に付き合わされてるのか?」


正義にはそんなつもりは毛頭なかった。

彼なりに、本気で悩んでいるのだ。これまで一度たりとも大きな声を出しているところを見たことがなかった奏多を、この間のステラバトル前後で二度も怒らせているのである。一度目は平手を食らったし、二度目などは少しの間口をきいてくれず、正直言いようのない不安で泣きそうになった。

その原因が自分の行動にあることはわかっていたが、自分はどうやら鈍感であるらしいので、気づかないうちに他にも何かしてしまっているかもしれない。


「まぁなんていうか……日頃の感謝でも伝えてみればいいんじゃね?」

「感謝?」

「そうだよ。お前枝園さんにあんなに尽くされてんだからさ、プレゼントの一つでもするべきだろ」

「……。プレゼント……考えたこともなかったな……」

「そんなんだから女子からサイテーだって言われるんだぞ」


大げさにため息をついてみせる西町。

そこまで呆れることはないんじゃないか。正義は誤魔化すようにかまぼこを口に放り込む。


「……で、裁貴。もしプレゼントするとしたら何がいいと思う?」

「うーん……三三七拍子で応援とか?」

「お前それマジで言ってんの?」

「おう!声を張って応援されると元気になるじゃん!」

「……こいつは重症だぜ」


嬉々として語る裁貴と頭を抱える西町。見事な対比である。


「わかった、妙なことをされると枝園さんが可哀想だからな……ここまで話したついでだ、俺が一緒に考えてやるよ」

「本当か西町!やっぱり持つべきは友達だなあ!」

「はいはい……」


これを心からそう言っているような奴なのだから、何となく憎めないのである。

西町はやれやれというポーズを取ると、裁貴にアドバイスするべく、創作作品で得た女子の好むものについての解説を始めた。


*****


「あれ、枝園さんだ。裁貴くんならさっき走って帰っちゃったよ」

「え?裁貴くんが?」


奏多はクラスメイトの言葉に目を丸くする。

大体放課後のこのくらいの時間はいつも当番でもないのに掃除に参加していたり、誰かが残した机の落書きを消そうと奮闘していたりするのだが……何かそんなに急ぐことでもあったのだろうか。


「……用事があるって言ってた覚えはないけどな……」


仕方がないので、奏多は一人で帰路に着いた。昇降口で靴を履くついでに、カバンの中身をちらりと見る。可愛らしい赤いリボンでラッピングされた小さな包みが寂しげに揺れていた。

でも、まぁ。

裁貴くんだって、今まで一緒に登下校したりしていたけれどそれは別に義務ではないのだ。自分が無理にくっついていっているだけであって、彼からすれば居てもいなくても変わらないものなのかもしれない。

きっと私は裁貴くんのシースでなければ、ただの女子生徒のうちの一人に過ぎないのだろうな。

そう思うと少し寂しくて、何となく涙が滲みそうになる。慌てて瞬きをし、その感情を飲み込んだ。


ああ。隣にいると少しだけ恥ずかしいけれど、やっぱり彼の声が聞きたいな。

どこからか、まるでヒーローみたいに私の名前を呼んで現れてくれたりしないかなあ。


「あ、いた!おーい奏多!」

「え……?」


あまりにも都合よく背後から聞こえて来た声。

ほとんど条件反射のようにして、奏多は振り返る。

そこに立っていたのは、両手でやっと抱えられるかというほど巨大で真っ赤な花束を携えた正義であった。


「ん!?裁貴くん、なに!?どうしたのそれ!?」

「うん?ああ、これ?安心して、別にフラワーガーデンから盗って来たわけじゃなくてちゃんと花屋で買ったやつだから!値段は……おっと、こういうのは言っちゃいけないんだった!」

「いや、そういう心配をしてるんじゃなくて……!」


正義はどうしたんだろう、とでも言いたげに小首を傾げて奏多を見る。

奏多は状況に頭がついていかず、ただあわあわと口元を押さえていた。


「まぁいいや。奏多!いつもありがとう、これからも力を合わせて悪を打ち倒そうな!」

「あ、うう……」


堂々とそんなことを言い、花束を差し出してくる正義。ちなみに場所はまだSoAの敷地内である。時間帯も生徒が下校するピークであり、当然ながら人の目は掃いて捨てるほどあった。

奏多の耳にくすくすという笑い声が届く。それは別に悪意を持ったものではなく、子供のお遊戯を見守るような微笑ましいものではあったが、恥ずかしいものは恥ずかしい。

しかしこんな状況で渡されたものを受け取らないわけにはいかず……奏多は花束を受け取ると、花弁と同じように赤くなった顔を隠すため、その中に顔を埋めた。

花束の甘く芳しい香りが奏多を包む。


「あ、ありがとう……」

「おう!」


パチパチ、とあちらこちらから拍手が聞こえてくる。正義はそれに対して何を思ったのか、「ありがとう!」と手を振って応えていた。


「さ、裁貴くん!ちょっと、こっち!」

「え?いや帰り道は向こう……」

「いいから!こっちに来て!」


奏多は不思議そうな表情を浮かべる正義の上着を引っ張り、比較的人目の少なそうな校舎裏へと向かう。

やはり放課後にこんな場所を訪れる者はいないようで、独特の湿った空気が静かに流れるこの場所は火照った奏多の頰を幾ばくか冷ましてくれた。


「こんなとこに何の用事があるのさ?」

「……あのね裁貴くん。お花はすごくすごく嬉しいよ、ありがとう」

「おう!」

「でもね、私はああいう目立つのは得意じゃないの……」


とても裁貴くんらしくて、それすらも嫌いじゃないのだけれども。

その言葉は口にはせずに胸の内にしまっておくことにする。


「うーん、そういえば西町もムードをどうこうって言ってたな……そういうものなの?」

「そういうものなの」

「そっかあ」


正義は顎に手を当て、何かを考え込んでいるようであったが……やがて一つ頷くと奏多の方へと向き直った。


「んー、なら次にこういうことがあったらその時は考えておくよ!」

「……え?」


奏多にとって、その言葉は意外なものであった。正義は自分にとってよくわからないものは、そのまま不必要だと切り捨てることがほとんどだった。だから今回もこのまま流されるものだと思ったのだけれど。


「ほ、本当に言ってる?」

「おう、だって奏多の理想に近づけるよう頑張るって約束しただろ!」


ニッと屈託のない笑顔を浮かべる正義。

奏多は何だか涙が出そうになって、それを誤魔化すように花束を正義の方へと突き出した。


「ちょっと持ってて、渡したいものがあるの!」

「え、あ、別にいいけど……」


それを受け取りつつも、正義はなんとなくプレゼントを突き返されたような気持ちになる。

しかし単純な彼は、次に目の前に差し出された包みを目に留めるとそんなことは忘れて、ぱちくりと目を瞬かせた。


「はい、これ……私からのお返しだよ」

「え、ほんとに!?開けてもいい!?」

「う、うん」


正義は包みのリボンを解き、包装紙を開く。

その中に入っていたのは少しだけいびつな形をした小さな巾着のようなものであった。


「……お守り。裁貴くんが、もう危ない目に遭いませんようにって」

「もしかして奏多が作ったの?」

「うん」


彼はしげしげと手の内のそれを眺め、つい、と紐の結び目に手をかけようとする。


「ま、待って!!ダメダメ、そこは開けちゃダメ!!」

「ええ?あ、そうか……お守りって中を見たら効果なくなっちゃうっていうもんな!」

「う、うんそう……そんな感じ……」


正義が手を止めたのを見て、奏多はほっと息をついた。


「ありがとう奏多、本当に嬉しい!」

「……喜んでくれてよかった」

「これで更にパトロールを強化しても大丈夫だな!」

「それは違う!」


正義は大事そうにお守りをポケットにしまうと、奏多の方へ手を差し出して「さ、帰ろっか」と言った。


「え、これって……」

「花束でかいし、カバン持ってあげるよ!僕でもさっきここまで運ぶの結構苦労したんだ」

「ああ……そうなの……」


なんだか少し残念なような、ほっとしたような。奏多は複雑な気分になりながら、正義にスクールバッグを渡す。

まぁでも、なんというか。出会った時に比べると随分と距離を縮められたみたいだ。

奏多はそんなむず痒い胸の内を誤魔化すように、「行こ!」と歩き始めた。


両手いっぱいに抱えた、赤い花たちはその歩に合わせて、まるで祝福するようにかさかさと笑っていた。

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